第52節 応援してくれる人がいて【2年MF 風間天碧】

 自分で言うのもなんだけど、僕はファンが多い方だと思う。土日になると練習試合でもグラウンドのはし駐輪場ちゅうりんじょうに女子学生がたくさんめかけている。他校の生徒もいる。もちろん全部が僕のファンというわけではない。


 おそらく、ファンの数は湊騎みなき先輩が1番だ。先輩はファンをとても大事にする。試合後はよく呼び止められて、写真撮影さつえいに応じたりしている。「ファンあっての選手だよ」湊騎みなき先輩の口癖だ。そして実際、湊騎みなき先輩は応援が多ければ多いほど活躍する。

 一方の僕はと言うと、人見知りなのでそこまで気軽に話しかけられることもない。それでも頼まれたら写真くらいはOKする。サインはさすがにことわる。というか、サインなんてまだできない。みんなでデザインを考え合ったことはあるけど。


 そして今日も、きゃあきゃあにぎややかな女子生徒のかたまりから少し離れたところに、隼高はやこうの制服を着た女子生徒が一人、練習試合をながめている。


 彼女の名前は朝比奈あさひなもえ。2年で同じクラスになって知り合った。たまたま席が近くて、なんとなく気が合って仲良くなって、そんな感じだ。休み時間や授業の合間に教室で話をするくらいだが、彼女と一緒にいると、肩がこらないというか、落ち着く。そして彼女は僕の出る試合を、見に来てくれるようになった。公式戦だろうが他校との練習試合だろうが、そりゃもう親以上の割合で。


 だから全国大会が決まった時、僕は1番に彼女に報告した。

「たくさん応援してくれたからさ」

もえのために頑張る」

 って僕が言ったら、彼女は「自分のために頑張りなよ」と笑った。

「だって天碧そらの人生だよ」


 でも僕は、やっぱりもえや、応援してくれたみんなのためにも頑張りたい。自分のためだけだったらとっくにあきらめてしまっていたかもしれないことも、みんながずっと応援してきてくれたから、その声がたくさんだったから、折れずにこれたかなって思う。


 まだ小学生だったころ。僕が初めて試合に出た時、両親が応援に来てくれた。母さんは、僕が試合に出ていることもうれしかったけど、それ以上に「カザマ!カザマ!」というみんなの声援がうれしかったんだそうだ。


 人からこんなに応援してもらえるなんて、スポーツ選手ってすごいのね。

 その時のことを思い出すとき、決まって母さんはそう言う。


 自分自身に対する期待より、周りからの期待の方が大きい。時にそれがプレッシャーになることもあったけど、僕以外の誰かが、僕以上に僕に期待してくれる、信じてくれるなんてのは、ほんとに奇跡きせきみたいなことなんだ。



 ===お知らせ===========

 連載開始からちょうど1年!

 来週は久しぶりに柑那かんなが登場予定です。


 メンタルのこと、チームワークのこと、疑問に思っている事とかあったら、なんでも質問してみてくださいね!あなたの質問に柑那かんなが答えてくれるかも!!

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