第47節 言葉には意味がある【MF7 青島 翔】

言葉ってのは、いつも使っているものだし、当たり前みたいに僕たちのそばにある。だからこそ、大事にしなきゃいけないんだと、柑那かんなは教えてくれたんだ。


柑那かんな言葉遣ことばづかいを指摘してきされてからは、周りのやつらの口癖くちぐせが気になるようになった。自信のない1年生はいつも「難しいっすね!」と言う。大竹タケは「つまり」が口癖くちぐせ界登カイは「俺はさ、」と言う。


難しいと言うことでできないことへの予防線よぼうせんる場合もあるし、難しいっすね、という言い方で茶化ちゃかしてごまかそうとしている場合もあるのかもしれない。


大竹タケは話をまとめたがる。サッカー部うち的には助かるのでいいのだが、とにかくまとめたがる。


界登カイの「俺は」にはかなりの主張が含まれる。俺はこう思う、俺はこうしたい、界登カイのわがままぶりには困らされたこともあるが、それだけゴールに向かう意志いしが強いともいえる。やりたいことがはっきりしている。実際、界登カイの「俺は」をみんなが一度聞くようになると、なかなか打開だかいしきれない場面でもなんとかなったりする。界登カイの主張にはそれだけ自信があるのだ。


何気なにげなく使っている言葉が自分のメンタルにも影響を与えているなんて、全然知らなかった。また、指示をする場合に逆効果ぎゃくこうかになる言い方があるとかも。


そして面白いのは、そういうことを知って、言葉遣ことばづかいに気を付け始めると、次第しだいに周りにある言葉が、「これはどういう意味か」と考えるようになるし、そういった些細ささいなことに気づくようになった。


さらには最初は意識して選んでいた言葉がまるで自分の言葉のように、無意識でも出てくるようになった。


意識して使っている言葉の何倍も、無意識で使っている。その無意識の言葉が、メンタルに大きな影響を与えている。柑那かんなの言ってくれたことが、1年近くたって、ようやくわかってきた。

無意識は、習慣みたいなものだ。だから、悪い習慣をつけてしまうとそれが「悪い」とは意識しないで使ってしまう。意識して変えようとしても最初は無意識に引っ張られる。仕方ないことだ。無意識の方が強い。それでも意識して言葉を選べ続ければ、その選んだ言葉が習慣化されて、やがて無意識になる。


監督の担当は国語だから、きっと言葉にも詳しいだろうと思ってその事を少し話したことがある。監督に「よくそんなことに気づいたな」と言われたので、「同クラの女子に教えてもらったんです」と言うと、監督はおどろいたような顔をしながらも、そうかそうか、と喜んでいた。

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