第45節 中学時代。先輩と、俺。【1年FW 服部京太朗】

再び、京太朗けいたろうです。正直しょうじき思い出したくもないというのが中学時代。

だけど、これはり返らなきゃいけないことだと思うので一度だけり返る。


県予選の決勝で当たった清永せいえいしょう市ノ瀬純いちのせじゅんは中学時代の先輩。

俺が中学でサッカー部へ入部した時、市ノ瀬いちのせ先輩は部長だった。部員からも人気があったし、俺も最初はしたっていた。

でもいつからだろう。先輩といるのが息苦いきぐるしくなってきたのは。


決して、意地悪いじわるをされたとか、いじめられたとかいう事ではない。ちょっとしたことでしかられたりするのも、先輩後輩の間ではよくあることといえばそうかもしれないが、中学では「先輩は絶対」というおきてのようなものがあり、多少たしょう理不尽りふじんだと思っても反論はできなかった。


俺は本来ほんらい、思った事をなんでも口に出してしまうタイプだった。だけど先輩の言う事を「はい」「はい」と言ってぜん肯定こうていし、先輩の言うように動き、いつしか自分で判断したり行動したりを放棄ほうきするようになっていた。俺は先輩に支配しはいされていたのかもしれない。


でも、その時は気づかなかった。先輩の言う通り行動していれば問題はなかったし、多少失敗してもあやまればまた先輩が可愛かわいがってくれる。


それが変だと気付いたのは隼高はやこうに入ってからだった。

隼高はやこうでは先輩たちが何かを押し付けることもなく、俺の気持ちを聞いてくれたし、意見も取り入れてくれた。自分の考えを言っても笑われたり怒られたり、批判ひはんされたりもない。もちろん、それは違うよと言われることはないわけじゃないけど、頭ごなしに否定ひていされるのとは違って、こういう事じゃないかなという、意見として返してくれるから、すんなりと俺にしみんで、卑屈ひくつにならずに済んだ。わがままを言った事もあるがそれさえも受け止めてくれる先輩たちだった。なにより、先輩たち自身が思った事を言い合い、時にはケンカしたりすることもあるけど、それを後に引きずったりすることもない。お互いを信頼しんらいし合っているのが伝わってきた。


ここでは自分を出していいんだって思ったらすごく楽だったし、なによりサッカーが楽しくなった。先輩のことを信頼しんらいできるからパスも出せるし、自分で行くという判断もできる。先輩にボールを出すのが決まりとか、後輩の義務ぎむだとか、そういうのとは違った。安心できる場所を見つけたっていう感じだった。俺は俺らしくいられた。


だから、俺は1年から試合に出ることもできた。全国に行くこともできた。あこがれの界登カイ先輩と一緒にピッチに立つこともできた。


そんな話をしたら、「お前は人に左右されすぎだ」って、大竹タケ先輩に言われた。確かにそうかもしれない。でも今の俺の方がずっと楽しい。今の自分の方が好きだ。俺は今の先輩方を尊敬そんけいしている。先輩たちのようになりたい。


一応いちおう付け加えておくが、けっして市ノ瀬いちのせ先輩をにくんでいるわけではない。中学時代面倒めんどうを見てくれたのは事実。だけど、決勝の後、先輩に俺が何を言ったかは、秘密ひみつな。


選手権せんしゅけんが終わり、界登カイ先輩たちの代が部活を引退いんたいして、また新しいチームが始まる。これから新しいチームになる。俺たちの新しい色はどんな色だろう。ワクワクしている。

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