第44節 皆に助けられて【3年 志摩航希】

思えば、俺が自信を喪失そうしつしたのは2年の時だったかもしれない。先輩はみんな上手かったけどきびしくて、俺はいつもビクビクしてた。

ポジショニング1つ、パスの出し方ひとつ、先輩の要求するようにはできなくて、先輩に「志摩しまぁっ!!!」と怒鳴どなられるたびに足がすくんで、余計よけい怒られるというようなことをり返していたように思う。

あの日も紅白戦こうはくせんで、守備しゅびのポジショニングについて後ろからもっと右!もっと前!もっと左!!と怒られすぎた結果、何が正解なのかわからなくなってしまっていた。


もしそのままだったら俺はサッカーをめてしまっていたかもしれない。続けられたのは同級生のみんなのおかげだった。

すっかり落ち込んでいる俺に、ゴールキーパーの西が声をかけてくれた。「今度、一緒に試合見に行かねぇ?」たまたま次の週末、近くで地元のプロクラブチームの試合が行われることになっていた。西と俺は部活の後、れ立ってスタジアムに出かけた。試合が始まってすぐ、西は「志摩しま、あの8番の選手の動き分かるか」と僕に聞いてきた。「8番があそこにいることで相手のパスコースがなくなってるだろ。ほら、ボールを下げた。チャレンジしても後ろの5番にひっかかる。だから相手はやり直すしかない」西は俺のために一つひとつ解説してくれた。

さらに、「このシーン、志摩しまだったらどうする?」それに俺が答えると「いいね」と言ってくれた。

志摩しまは足がはやいから、カウンター攻撃こうげきとかきると思うんだよなぁ」と西が言いだした。「ほら、今みたいな場面。俺がこう、ボールを出すだろ。同時に志摩しまが走り出す。志摩しまだったら絶対追いつくだろ。そうしたらワンチャンスで決定機けっていきを作れる」西は愉快ゆかいそうに笑った。


たった90分だったけど、俺はちょっとだけ自分が上手くなれたような気がした。


翌日の部活からも俺が先輩に怒られるのは相変あいかわらずだったけれど、西をはじめみんながいろいろ教えてくれたから、俺は前ほど落ち込まなくなった。

俺が一人で居残いのこり練習しているとだいたい湊騎みなき界登カイ、それからセナが集まってきて、一緒に練習してくれるようになった。


その後も俺は失敗をしては落ち込む、落ち込んではみんなにはげまされるをり返して3年生になった。もうダメかって思うくらい落ち込んだこともあったけど、それでもメンバーに入れて、しかも大事な試合でゴールを決められたのは、みんながいてくれたからだって思ってる。

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