第43節 虎視眈々とレギュラーを狙う【3年 千石成津喜】

俺のことをみんなは「セナ」と呼ぶ。千石せんごくのせ、成津喜なつきのなを取って「セナ」。中学くらいから呼ばれていたような気がする。昔、セナという名前のすごいF1レーサーがいたんだそうだ。俺は良く知らないが、祖母そぼがファンだったそうで、俺が学校で「セナ」と呼ばれていることを知って、よろこんでいた。


俺はサッカーを3歳から初めて、なんだかんだ15年たつ。中学くらいまではそれなりに試合にも出られていたけど、隼高はやこうに入ったら界登かいと湊騎みなきなど、上手いやつがいっぱいいた。俺はなかなかレギュラーをとれなくなっていた。

でも、サッカーをめたいとは思わなかった。俺はサッカーが好きだ。そりゃあ試合に出られた方が楽しいし、うれしい。けど、毎日上手いやつらと一緒に練習していると自分もどんどん上手くなる。同じように周りも上手くなっていくから、序列じょれつをひっくり返すのは簡単ではないけど、チャンスは必ずやってくる。その時に他のやつにそのチャンスを持っていかれたくない。だから俺は練習を頑張がんばるし、下級生に混ざってのシュート練習だっていとわない。俺はとにかく、上手くなりたい。


地味な練習や、フィジカルトレーニングなど、嫌うやつも多くいるが、フィジカルはやればやるだけ強く、上手くなるし、地味な練習といってもドリブルやパスなど、上手くなればそれだけ試合で使えるようになる。

また試合前のミーティングも、俺はいつも自分が試合に出るつもりで聞いていた。むしろ、メンバー入りした部員より真剣しんけんに聞いていたかもしれない。メンバーに入ったやつらは自分のポジションがある。誰と連携れんけいすればいいか、自分の役割やくわり明確めいかくになっている。だけど俺はメンバーじゃない。だからこそ、もしトップ下に入ったら、サイドに入ったら、ツートップの位置だったら、などとあらゆるポジションを想定そうていしてイメージする。そうやってイメージしていると実際じっさいの試合を見て上手うまくいっているかどうかがわかるし、次の試合のミーティングにもつながってわかりやすくなる。いきなりチャンスが来た時に「やっぱり使えないな」と思われるのはイヤだった。


そしてチャンスは、思いがけない形でやってきた。隼高はやこう絶対ぜったいてきエースの界登かいとが夏の大会で大怪我おおけがをしたのだ。数か月は試合に出られない。その代わりにメンバーに選ばれたのが、俺だった。正直、複雑ふくざつな気持ちだったが、チャンスはチャンス。もちろんり上がりでベンチに入っただけ。ベンチメンバーの一番下だ。界登かいとが戻ればまたメンバーから落とされるのは今のところ俺。そこから実際に試合に出られるか、ベンチの中でもっと上に行けるかどうかはおれ次第しだい

だが俺には自信があった。俺にりないのは実戦じっせん経験けいけんだけ。今までみ上げてきたものが無駄むだではないと証明しょうめいしてやる。やってやるという気持ちだった。冬の大会が本格的になるころには界登かいともプレーできるようになるだろう。その時に、あっさりとメンバーのを渡すつもりはない。勝負は数か月。生き残ってやる。

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