第42節 出来のいい兄貴を持った妹の苦労【2年マネージャー大竹来未】

 私の兄は出来がいい。サッカーも上手いし、頭もよくて、人望もある。中学では生徒会長せいとかいちょうをしていた。DNAのおかげか私もサッカーも勉強もある程度得意ではある。でも、何ていうか兄は、完璧かんぺきなのだ。美人の彼女までいる。妹でなければねたましく思ってしまうくらいかもしれない。

 そして苦労と書いたが、実はそれほど苦労はしてない。兄のおかげで得をしたことの方が多いかもしれない。私は「伊頼いよりくんの妹」という目でずっと見られていた。先生方も一目いちもくいて接してくれていた感じがする。そういうレッテルを嫌がる友達もいたが、私にとっては自慢じまんの兄の妹として見られることは心地ここちよかった。年子としごの兄は面倒めんどうもよく、物心ついた時には一緒にサッカーをしていた。おかげで私もサッカーが好きになり、兄の背中を追いかけてサッカークラブに入り、中学では本気で女子サッカーをやっていた。けど、そのころから自分のサッカーの能力に限界げんかいを感じるようになっていた。選抜せんばつチームに呼ばれることもあったが、そういうところに行くたびに自分より上手い人がたくさんいて、自分は所詮しょせん地元の一番にすぎないんだなと感じるのだった。

 高校の進路相談で担任たんにんの先生にそのことを伝えたら、自分が何になりたいのか、何をしている時が楽しいのか、夢中むちゅうになれることは何か、これだけは人にけないと思えることは何か。自分自身に問いかけて、分析ぶんせきしてごらんといわれた。

 私は、兄にあこがれてはいたが、兄になりたいわけではなかった。兄妹とはいえ、別の人間。個性も能力も違う。ただ兄の後をついていくばかりではダメだとさとった。だが、自分がやりたいこと、自分が一番かがやけるところってどこだろうと考えた時、やっぱりサッカーが好きだった。サッカーとかかわわっていたいと思った。学校の職業体験で地元のプロサッカークラブに行くことができて、プレーヤー以外にもサッカーに関われる仕事がたくさんあることを知った。コーチやトレーナーなど技術面はもちろん、栄養面、メンタル面、医療いりょう面などで関わる人たちもいるし、営業や運営、用具の管理をする人、数えきれないほどの人がクラブハウスで働いていた。

 プレーする方じゃなくて、サポートする側に回る、という思い付きは私に合っているように思えた。そして「データ分析ぶんせき」という仕事に興味を持つようになった。選手個人のデータ、チームのデータを集め、比較ひかくし、考察こうさつする。留学してデータ分析ぶんせきを学び、日本に戻ってプロサッカークラブで働きたい。そう考えるようになった。そのために高校では英語や数学に力を入れたかった。あと、サッカー部で実際にデータ分析ぶんせき実践じっせんしたかった。そう思って選んだのは、結局兄の通っている高校だった。

 隼高はやこうではサッカー部のマネージャーけん分析ぶんせき担当たんとうとして、選手に見せる映像えいぞうを作ったり、相手チームの特徴とくちょうや弱点を分析ぶんせきしたり、もちろん隼高はやこうサッカー部の選手たちの個々の運動データや傾向けいこうなども把握はあくしている。それは将来の夢に向かってあゆんでいるという確かな自信を私にくれた。何より、兄が近くにいるという安心感で、私は自分らしくいられた。

 結局、私は今でも兄を追いかけている。

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