第39節 俺と、界登先輩のこと【1年FW 服部京太朗】

さかのぼるのは3年前。地元じもとの中学に入学した俺は小学生の頃からやっていたサッカー部に迷うことなく入部した。3年の先輩がとにかくきびしくて、走ったり基礎きそ練習やったりとにかくノルマをこなすのが精一杯だった1年間。俺はそういうところで上手く立ち回るのが苦手にがてというか人の顔色をみてうのがいやで、そんな態度たいどが先輩たちのかんさわっていたのだろう。その頃から先輩に「目をつけられる」存在だったのだ。多分たぶん、他の1年より余分よぶんに怒られたし、余計よけいに走らされていたと思う。


その先輩たちが卒業してからは、少しずつ大きな試合のメンバーにも選ばれるようになって、実力さえあればなんとかなった。そしていよいよもうすぐ3年、そんなときに出会ったのが界登カイさんだった。


たまたま部活が休みだったので、部のみんなで近くのスタジアムで行われる高校サッカーの選手権せんしゅけん大会を見に行った。

戦前せんぜん評判ひょうばんはそこまででもなかったはやぶさ学園がくえんひかえの1年生が、界登カイさんだった。試合は後半残り20分を切ったところで1-1。界登カイさんが交代でピッチに入った。界登カイさんが走ると、少し大きめのユニフォームが風をはらんでれた。一瞬いっしゅんで空気が変わったような気がした。俺はその選手から目がはなせなくなっていた。相手のバックパスをねらいゴールキーパーまでプレッシャーをかけに行ったかと思えば、味方のディフェンダーにってボールを受けたり、パスを出して前線へ走ったり。そのすべてがゴールをとるためのプレーだった。そして途中とちゅう出場から10分もしないうちに、界登カイさんは決勝ゴールを決めた。


あの日の界登カイさんのプレーは、今でもはっきりと思い出せる。

それ以来いらい、俺の目標もくひょう界登カイさんになった。もちろん、センスと上手うまさの界登カイさんと、パワーと高さの俺とではまったく、特長とくちょうもプレースタイルも違うことはわかっていた。パスやドリブルは当然ながら、ディフェンスの時でさえ、界登カイさんの矢印はゴールに向かっている。フォワードだから当然とうぜんだろ? というようにそれをやってのける。それがたまらなくカッコよかった。同じフォワードとして、悔しくもあった。俺もあんなふうになりたい。練習にも熱が入った。つねにゴールの位置を意識する。シュートにつながるプレーをする。界登カイさんならどんなプレーを選択せんたくするだろう。いつも想像しながら練習していた。おかげで中3最後の大会は得点王になれた。隼高はやこうからも声をかけてもらえた。俺はふたつ返事で入学を決めた。たとえ声がかからなかったとしても、一般入試を受けてでも界登カイさんのいる隼高はやこうに行くつもりでいたから。

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