第35節 ゴールキーパーとしての言葉選び【GK1 西惺矢】

サッカーの花形はながたはやはりゴールを決めるフォワードだ。

代表戦なんか見ていても、話題わだいになるのはゴールを決めた選手。

たとえ無失点むしってんで勝利してもゴールキーパーがはなを持つことはない。


あえてげるとすれば、0‐0で引き分けのすえ

PKピーケー戦で止めて勝った時くらいか。


フォワードは9本はずしても1本決めて勝てばヒーローになれる。

ゴールキーパーは9本止めても1本決められて負けたら責任せきにんう。


小学校の頃、キーパーコーチに言われた言葉が、

俺の心に今でも残っている。


でもゴールキーパーというポジションがきらいなわけではない。

後ろからのコーチングでディフェンスラインを統率とうそつし、チームのゴールを守る。

時には前線へパスを通してチャンスを演出えんしゅつする。


チームに1つしかないポジションだからこそ、

やりがいを感じているといってもいい。


そんな俺がディフェンダ―へのコーチングのさいに気を付けていることがある。

それは、ポジティブな声をかけるということだ。


子どものころはミスをしたディフェンダーとケンカしたりもした。

でも、特に試合中には、そうやって文句もんくを言ってケンカしても、その後のプレーで上手くいくとはかぎらない。イライラしてプレーがざつになるやつ、ビクビクして消極的しょうきょくてきになるやつなど、余計よけい怒鳴どなりたくなるようなプレーをする場合の方が多かったかもしれない。かといって遠慮えんりょしてだまっていたらいつまでもプレーが良くならない。言うべきことは言う、だけど言い方が問題だ。

そういう試行錯誤しこうさくごて、相手を見ながらだけど俺も言葉を選べるようになった。


だから、しょう物言ものいいが最近ちょっと変わってきたことに、俺はすぐに気付いた。

キャプテンになったばかりの頃はミスすんなよ!など否定的ひていてきな言い方が多かったのが、相手の動きをよく見ろ!みたいな指示に最近変わってきたのだ。

些細ささいなことだが、そのおかげでまわりは動きやすくなった。正直しょうじき、ミスすんな!と言われても「わかってるよ!そんなこと」とみんな思うだろう。だが、具体的ぐたいてきな指示が出てくれば何をすればいいのかわかりやすくなる。

ただ切りえ切りえ!と言われるだけより、マーク確認しようとか、もっと前の動き出しを意識しようとか、やるべきことが分かった方がみなも動きやすい。


それを見ていて俺も、ただポジティブな言葉ではなく具体性ぐたいせいのある言葉を選ぼうと思うようになった。仲間がやりやすくなるように声をかけると、それが回りまわって自分のセービングを助けてくれるのだ。

そんなことに気づいてから、俺はますますこのゴールキーパーというポジションが面白おもしろくなっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る