第34節 目標や夢を大きさで語らない【MF10 大竹伊頼】

目の前の現実的げんじつてきな目標か、

はる彼方かなたの大きな目標か。


おれたちが目指めざすべきはどちらなのか。


チームの立ち位置、ってものがある。


目標が大きすぎて、選手たちに実感じっかんがわかないのであれば

それは現実的げんじつてきではないともいえるかもしれない。


逆に現実的「すぎる」目標だと、練習の強度きょうどが落ちそうな気がした。

自分自身、もっともっと成長したい、そう思っているのは事実だった。卒業後は大学に進み、そこでサッカーを続けたい。そんな目標もあった。


だが杉山界登かいとが全国優勝と言い出した時、「大きすぎる目標」「かなわない夢」そんな言葉が浮かんだ。現実的じゃない。無理に決まってる。そんなふうに思えた。なぜなら、今年は全国どころか、県大会ですら優勝できなかったのだから。だから、俺は反対したんだ。


ところがしょうが変なことを言い出した。

「想像してみろよ」

「優勝して、みんなでカップをこうやってさ」


その時、くやしいが思い浮かべてしまった。

キャプテンの翔がまわりを見回す。だれともなく「おおおおーーー」と声を出しはじめる。翔がカップを高々たかだかかかげると同時に、スタジアム全体から今日一番の歓声かんせいき起こる。背中がゾクっとした。

おれたちだけじゃなく、スタンドに応援に来てくれた学校の友人らも、目をキラキラさせて万歳ばんざいをしている。

両親りょうしんが正面のスタンドで大きく拍手はくしゅをしている。母親は泣いているのだろうか、目元めもとに手を当てるようなしぐさをする。時々父親がなにか話しかけているのが見える。

目に入るみんなが幸せそうな顔をしている。


そんな光景こうけいを、思いかべてしまった。歓声かんせいが聞こえてしまった。武者震むしゃぶるいのようなワクワクする気持ちを、感じてしまった。


その景色けしきを現実に見たい、その場所に立ちたいとねがっている俺がいた。


そうか。目標は大きいとか小さいとかじゃないんだ。

かなえたいと思えるかどうかなんだ。そこへ向かっていきたいと思えるかどうかなんだ。どんなに大きすぎる目標でも、俺たちが、それは無理むりな目標でも非現実的ひげんじつてきでもなくなるんだ。


全国大会の決勝でたたかう自分を想像したら、むねが熱くなる感じがした。今はまだ、はる彼方かなたの目標かもしれないけれど、そこへ行きたいと思ってしまった。そしたら、もうそれ以外の目標なんて、物足ものたりない気がした。


どうやら、そう感じたのは、俺だけではなかったようだった。

さっきまで文句を言っていたやつらまで、「ここは界登カイしょうに花を持たせるってことで」とか、「ま、せっかくならでかいことやってみるってのもいいよな・・・」なんて言い出していた。「全国優勝かぁ」

みんなの顔は、なんだかちょっとうれしそうだった。

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