第33節 私が彼をキャプテンに指名した理由【監督】

キャプテンに必要な資質ししつは2つあると思う。


一つは、リーダーシップ。

そしてもう一つが思いやり。


確かPMピーエム理論りろんとかいったかな。ピーはパフォーマンスで、エムはメンテナンス。パフォーマンスはつまりリーダーシップでチームを引っっていく力、そしてメンテナンスはひとりよがりにならずまわりを見てチームに気をくばる力。


できれば両方をそなえた選手をキャプテンにしたいが、どちらを重視じゅうしするかと考えると、私は断然だんぜん後者こうしゃだ。足りない部分はふくキャプテンでおぎなうこともできる。


今の2年生の中で、一番リーダーシップがあるのはおそらく大竹伊頼いよりだと思う。

かしこいし、思考力しこうりょくがある。プレーも上手い。思慮深しりょぶかいという意味いみでは、思いやりもある。

10人監督かんとくがいたら9人はかれをキャプテンにするかもしれない。


杉山界登かいとも、プレーは抜群ばつぐんにうまいし、試合の中ではチームを引っれる存在だ。そういう意味のリーダーシップはあるが、では部活をまとめるとか、そういう意味で言うと少しもの足りない。感情的かんじょうてきになりやすいし、基本自分を中心にの中が回っているような選手だ。フォワードなので、そういった資質ししつもある程度ていど必要だと思っているので、それが杉山界登かいと長所ちょうしょだと私はとらえている。

あと杉山にはのびのび自由にプレーしてほしいという思いもある。キャプテンとか部長とかそういった責任せきにんとらわれず、思ったように行動した方がサッカー部にとってはプラスになりそうだと思っている。


西惺矢せいやもいい選手だ。普段は物静ものしずかだが、試合となると熱い。多くをかたわけではないが言う時は言う、というイメージだ。後輩こうはいにもしたわれている。


うーん、大竹か、西か。

なやみながら練習をながめていた私の目に飛び込んできたのが、青島しょうだった。青島を見ていると、よく昔の自分が思い出された。自分で言うのもなんだが、高校時代の自分も平凡へいぼんな、目立めだたない生徒だった。先輩せんぱいしのけてレギュラーを取れるような実力も度胸どきょうもなく、毎日が平坦へいたんだった。3年生が引退いんたいしたのでやっと試合に出られるようになった、その程度ていどだった。そんな私が今監督かんとくをやっているなんて、当時の自分が見たらびっくりするだろう。

あの時も、誰もやりたがらないキャプテンをなかば押し付けられた。毎日のようにこるごたごたで疲れ切っていた私の愚痴ぐちを、当時なかのよかった隣の席のやつが笑いながらよく聞いてくれたものだ。

キャプテンを押し付けられたことはイヤだったが、今思えばあの1年があったから今教師になっているのだし、サッカー部の監督かんとくも引き受けている。


キャプテンをやることで自分は成長させてもらえたんだな。


そう気づいてしまうと、青島にキャプテンをやらせたいという私のよくは止まらなかった。

青島翔は、当時の私と同じように地味じみな生徒だ。だが、仲間とむ力や、まわりに気をくばったりする力は、才能さいのうと言ってもいい。おそらく青島をきらいなやつはなかなかいないし、チームのみんなを誰ということなく公平こうへいあつかっているのは感心かんしんする。サッカーも当時の私よりはずっと上手い。

リーダーシップの面では西や大竹にはおとるが、それ以上に青島の成長した姿を見てみたいというワクワクが止まらなかった。


「リーダーシップなんてさ、今なくたって、やっているうちに身についていくものでしょ。今はやり方がわかんなくても、やっているうちにできるようになるものだって」


当時とうじキャプテンをめたいとぼやいた私に、クラスメートが言った言葉がなぜか耳元みみもとで聞こえたような気がした。

うん、青島にやらせてみよう。本人が嫌だとさえ言わなければ。


たして、キャプテンをやらないかと言った私の前で、青島は思い出すと笑ってしまうくらい心からいやそうな顔をしていた。

「まぁ、ちょっと考えてみてくれや。結論けつろんは急がないからさ。あと、キャプテンやってもいいなと思うなら、副キャプテンを誰にするかも青島が決めてくれていいぞ。その方がいいだろ?」

私は今すぐにでもことわりたそうな青島を職員室から追い出すことに成功した。


青島にもキャプテンを引き受けてよかったと1年後に思ってほしい。自分も、確かに嫌だった。押し付けられたのがわかっていたから。愚痴ぐちばかりこぼしていた。だが今はやりげたことにほこりすら感じている。青島がそんな風に成長してくれたら、絶対に隼高はやこうサッカー部はいいチームになる。そんな予感よかんがした。


======本編はこちらから!======

第3話「キャプテンの役割」

https://kakuyomu.jp/works/16817330649112470710/episodes/16817330649539517579

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