第30節 競技が好きか?

キックオフの時間が刻々こくこくせまる。廊下ろうかにはたくさんの人がってざわめいていた。

一方、ドアをへだてたロッカールームでは選手たちが思い思いに体をほぐしたり、黙々もくもくとルーティンをこなしたりして、いつも通りの試合前の風景だった。


ロッカーアウトの時間まであとわずか。


時計を見てしょうが立ち上がる。気配けはいを感じてみんなが顔を上げた。

しょうは視線を感じながら、ゆっくりと、言葉を一つひとつつむぎだす。


「不思議なものでさ。

準決勝終わった瞬間は興奮こうふんしてた。すげぇ、決勝だ、あと1つだっていう。

でもさ、時間がってくるとなんだか気持ちが落ち着いてきて、

結果はどうでもいいっていうか。うーん、それはちょっと違うかな? もちろん優勝したい。それは間違いない。でも、今の僕の頭の中はそれが全てではないんだ。


最初の頃の僕たちは、とにかく試合に勝つ! を目標にやってきた。

でも今では、それより、毎日の練習で何ができるかってこと、そして試合中にそれをどれだけ実現できるかってことが大事だってわかるようになってる。

毎日の練習が、楽しくて仕方しかたないんだ。1日の練習でより上手くなって、昨日の自分をえていく。試合の中でも、変わっていけてるのも感じているしさ。


今回の出場校の中で僕たちが1番、サッカーが好きだってそんな気がする。だって、チャレンジをり返して、失敗をたくさんしてくやしがって、うまく行って喜び合って、喧嘩けんかして、話し合って、みとめ合って、なんだかんだ毎日楽しかったもんな。


僕たち、めちゃくちゃサッカー好きだろ。

だから、僕たちが最強なんだ。

みんな、そう思わないか?」


しょうはみんなに微笑ほほえみかける。目が合うと全員、力強くうなずき返してくれる。

それぞれがいい顔になった。意志いしの強いひとみ。自信にあふれた相貌そうぼう


不安しか感じなかった1年前のスタートがうそのようだ。

今では、みんなの前にこうして立っている自分になんの不思議も感じないし、目の前の仲間たちに、信頼しんらいしてボールをあずけられると信じている自分がいる。


「よし、円陣えんじんだ! 全員肩組め! マネージャーも入れ!」


西の号令ごうれいしょうたちは大きなを作った。翔は一人ひとり、全員の顔を見回す。


監督かんとく! 一言お願いします!」

「最高の舞台ぶたいだ! 楽しんでこい!!」

「オオ!」


しょうさけぶ。

隼高はやこう!」「オオ!」

「昨日の自分をえろ!」「オオ!」

「優勝するぞ!」「オオォ!!!!!」


全員の声が綺麗きれいにユニゾンし、ピリリと空気をふるわせた。

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