第21節 レギュラーになれない

杉山界登かいとがサッカー部に戻って、選手権に向けての練習が全員そろってできるようになり、1週間がぎた。


界登かいと松葉杖まつばづえながら、だれよりも動き、声を出す。界登かいとがいるだけで他の部員たちも活気かっきづき、サッカー部全体の士気しきも高まっているようだった。


その日も練習終わり、界登かいとがマネージャーにざって用具ようぐ片付かたづけをしていた。界登かいとの姿を見て、いつしか1年生や2年生も進んで手伝うようになっていた。


界登カイさん、荷物にもつおれらがはこぶんで、もうがってください!

つかれさまでした!」


2年生に言われて界登かいとが引き上げてくる。しょうり、歩調ほちょうわせた。


「ありがとな。

練習のサポートだけじゃなく雑用ざつようまでもさ」


「あぁ、ほかにできることないしなー」


界登かいとはのんびり言う。


「そんなことないだろ。界登カイがやってくれるから、他のやつらも一生いっしょう懸命けんめい練習やるようになったしさ。とくに2年が頑張がんばるようになったよな」


これはしょう推測すいそくだが、「あの」界登カイ地味じみ作業さぎょうや練習の声出こえだしを率先そっせんしてやっている、というおどろきが、今までレギュラーになれてこなかったメンバーや、下級生かきゅうせいたちの意識いしきを変えているのではないだろうか。今まで、どこかで「自分はレギュラーじゃないし」というような気持ちがあった者もいたはずだ。怪我けがしていても、サッカーができなくても部活ぶかつに取りkうんでいる界登かいと姿すがたを見れば、サッカー選手としての資質ししつとは何なのかを、きつけられているような気がすることだろう。

メンバー外の2年生が一生懸命いっしょうけんめいやれば、1年生もけじとついていく。おかげで、チームの雰囲気ふんいきは前にもして良くなっていた。


だから、しょう界登かいとにありがとうと伝えたかったのだ。しかし界登かいとは、うーん、と立ち止まって松葉杖まつばづえりかかり、それはちがうな。と言った。


おれも、ほかのやつを見てるから」


そう言って界登かいとはグラウンドをかえる。


視線しせんの先には、2年生に混じって自主練じしゅれんはげむセナ(千石せんごく成津喜なつき)の姿すがたがあった。


「セナってさ、目立めだたないじゃん。そこそこ上手うまいけどすっごい上手うまいわけでもないし、強いわけでもなくて。3年になってもメンバーにも入れないことの方が多くって。

正直しょうじきなところおれだったらさ、なんでおれが、ってすぐにくさって練習れんしゅう行かねぇとか言い出すとこじゃん?」


界登かいとかくしなのか、自虐じぎゃく気味ぎみに言ってわらう。


「でもセナって絶対ぜったいそういうこと言わねぇし、裏表うらおもてなく練習してんだよな。だからなんていうか、いざって時にたよれるっていうかさ。そういう信頼感しんらいかんがあるよな。


怪我けがしてしばらく休んでさ、ひさしぶりに出てきたらおれわりにセナが出てるってって、なんか納得なっとくしたんだよ」


「ああ、そうだな」

しょう界登かいとと一緒にグラウンドをながめた。


「どんなにメンバーに入れないことが続いても、いつでも行ける準備してる、って感じだよな」


「それな。思い返してみたら、それまでもそれからも、全然ぜんぜん変わってねぇの。セナのやつ。レギュラーなれなくてもコツコツ練習。メンバー入っても地道じみちな練習。セナ見てたら、おれってほんとガキみたいだなって。だから、おれもちゃんとやろうって、思うわけ。


怪我けがしててもできることあるってさ。思えるようになったから。足はまだ動かせないけど、きんトレとかちゃんとやってんだぜ?


ほら、廣澤ひろさわさんから紹介しょうかいしてもらったトレーナー。こないだの休みに行ってきて、足てもらって、怪我中けがちゅうのトレーニングメニューももらってきたんだ」


「へぇ、よさそうだな」


廣澤ひろさわさんは界登かいとに大学進学しんがくすすめてくれたプロのスカウトだ。怪我けがをしてんでいる界登かいとに立ち直るきっかけをくれた人でもある。最近さいきん界登かいとは何かというと廣澤ひろさわさん、だ。


興奮こうふん気味ぎみに話し続ける界登かいと横顔よこがおに向かって、しょうは心の中でつぶやいた。


それでも界登カイぼく感謝かんしゃしてるんだ。みんながついてくるような、本物のエースになってくれたことを。

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