第17節 責任と覚悟

いつもにぎやかな帰りのバスの中も、今日は誰も口を開かず、しょうらは学校まで戻ってきた。

荷物を用具室におさめ、フラフラと部室に戻る。


全身の力が抜けたようになっている。すぐ帰る気にもなれず、なんとなくそれぞれが部室の中に座り込んだ。雨の音だけがなくひびく。負けたという事実よりも、さっきの監督かんとくの言葉がずっと耳のおくっていた。


「なぁ、おれたちこのままでいいのか」


重い空気をって、西にしが言う。しょうもずっと考えていたことを口にした。


界登カイはあんな状況でも試合のこと、考えてた。

でも僕たちは?

界登カイ怪我けが動揺どうようして、なにもできなくなってた」


「いつもの界登カイなら絶対ぜったいしないようなプレーだったな。

界登カイ余裕よゆうがなくなってるって、しょう、お前気づいていたか」


西に言われ、翔は言葉にまる。


「気づいてたのに、近くにいたのに、なんでフォローしてくれなかったんだ!

キャプテンだろ!」


市川いちかわしょうり、あわてて大竹おおたけって入る。


「おい、よせよ! 翔のせいじゃない」


「いや、いいんだ。このさいだからさ、思ってること全部言ってくれ」


翔は、市川を真っすぐ見て言った。翔だってがく怪我けがをしたら、冷静れいせいではいられないはずだ。


市川いちかわ界登かいとおさななじみだった。性格は全くの正反対だが、なぜかおたが居心地いごこちがよく、うまった。市川にとって界登かいとはかけがえのない自慢じまん親友しんゆうで、おそらく界登かいとにとっても市川は心を許せる唯一無二ゆいいつむにの存在だったんだろう。喧嘩けんかぱや界登かいとだが、市川とは言いあらそっているのさえ、見たことがない。


界登カイ責任せきにん背負しょだってわかってただろ!

あの状況で、界登カイが自分でなんとかしようって、無理するって、わかってただろ……

そうだよ、わかってた。俺が一番わかってたんだ!! 俺が! 一番……わからなきゃいけなかったんだ!」


ボロボロとはばからず涙をこぼした市川の背中に、宇佐見うさみやさしく手を置き、った。


市川イチのせいでも、しょうのせいでもねーよ。

俺たちみんな、どこかで界登カイまかせっきりになってなかったか?」


がくがポツリと言う。


「そうかもしれないな。界登カイがいれば、なんとかしてくれるだろうって」


みんながそれぞれの思いを口にし始める。


「俺たち、界登カイたよりすぎてたのかな。だから、無理させたんだ」


「僕たちみんなのせいだったってことか」


界登カイだっておれたちと同じ、3年なのによ」


ずっとうつむいてしょうらの会話を聞いていた京太朗けいたろうが、「おれは!」とさけんで急に立ち上がる。


おれは、界登かいとさんとまたサッカーしたいです。

選手権せんしゅけん、一試合でも多く残れば、可能性があるかもしれないじゃないですか!! おれはまだあきらめたくありません!

界登かいとさんに、全国の舞台ぶたいに立ってもらいたいんです!」


「それしかないな」


西が言い、うん、とみんながうなずいた。


「俺たちに足りてなかったものは、責任せきにんと、覚悟かくごかもしれないな」


大竹が静かに言う。


責任せきにんと、覚悟かくご……」


「そう。目標に向かってやり切る覚悟かくごを持って試合にのぞむ。

そして、一人ひとりが試合の中で自分の責任をたす。

もちろん、ベンチや、スタンドも全員でだ。


そういうところ、足りてなかったんじゃないかな」


大竹は言いながら、視線しせんをふと横にながす。


しょうは目をじて、大竹の言葉をめていた。

はげしい雨の音はいつの間にかせみの声に変わっている。あんなに降っていた雨はいつの間にか上がったようだ。部室の小さなすりガラスの窓が空の色をうつして橙色だいだいいろまっていた。

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その日、しょうがくは久しぶりに一緒に帰った。


別れぎわ交差点こうさてんでどちらからともなく自転車をこぐ足を止めて、翔らは顔を見合わせた。


「さっきはサンキューな」


しょうが言うと


「なんのことだよ」


がくは言った。


「僕のせいじゃないって、フォローしてくれただろ」


「別にそんなんじゃねぇよ。俺は思ったことを言っただけ。

じゃ、また明日なー!」


軽く手をげると、がくはぐっとペダルをみこむ。


「うん、また明日な!」


遠ざかっていく後ろ姿すがたさけび返しながら、おさななじみっていいもんだなと、そんなことをしょうは思っていた。

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