第14節 練習は、量より質

「お前らさぁ……それ、何やってんの?」


練習を終え、帰ろうとする3年生の中から一人外れた界登かいとが、自主じしゅ練習をしている1年生に歩みった。


「何って……シュート練習ですけど」


「違うだろ。それはただボールってるだけだ」


いきなり3年のエースにダメ出しをされてショックを受けているらしい1年生に向かって界登かいと指摘してきする。


「こんな状況でシュートを打てるシーン、実際の試合の中であるか?

ただってるだけじゃ時間の無駄だよ。実際の試合を想定して練習しろ。いいか、ただ合わせればいいなんてボールは滅多めったに来ない。しかもフォワードなら、そんなのは決めて当たり前だと思え。

自分が多少無理むり体勢たいせいでも、パスが苦しまぎれであったとしても、それを自分がどうおさめるか。自分の打ちやすい場所に持っていけるか。相手にブロックされない場所にボールを置けるか。

もちろん、相手のディフェンダーはシュートコースを限定してくるし、その先にはキーパーだっているんだ。それを全部超えてはじめて、ゴールは決まるんだよ。

練習でど真ん中にしか打てないやつが、本番できわどいコースに打てるかよ」


界登かいとが説明をしながら左右にボールを動かし、最後にするどく放ったボールはゴールのすみおさまりパサッ、と軽い音を立てた。


1年生たちは言葉もなく、それを見ている。


「練習でやったことの何パーセントを試合の中で出せると思う? 相手は必死でお前らのシュートを防ぎに来るだろ。そんなゆるい練習で、実際の相手を前にして思ったようなシュート打てるのか?

あわててフカすか、ディフェンダーの足に引っ掛けたりするのがせいぜいだろ?

シュートの練習するなら最低でも動いているボールを打て。ラストパスに合わせる練習をやれ。人数がいるならディフェンスやキーパーも立てろ。一人でやるなら、ディフェンダーがいるイメージでやるんだ。人形を立ててもいい。だけど、人形だと思っちゃだめだ。相手の選手だと思って、どう動いてくるのか、イメージするんだ。

やるなら量より質。意識の問題だよ。わかってやってるのとなんとなくやってるのとでは、全然違うんだ。練習からプレッシャーのかかる状態を作り出せよ。

ただボールをるだけの練習から、実際の試合に使える練習にするんだよ。意味が2倍にも、3倍にもなるんだ。

せっかく練習するなら効率良く、な?」


界登かいとなりに精一杯せいいっぱいやさしく言ったつもりだったのだが、1年生はすっかり萎縮いしゅくしたように表情をなくしている。それに気づいて界登かいとは小さなため息をつき、

「おーい、神山ガミ!」

と、1年のキーパー、神山かみやま橙志だいしを呼んだ。


「時間あるなら、こいつらのシュート練の相手してやってくれないか?」


「はい、喜んで」


神山は小走りに近づいてくると、キーパーグローブのバンドをベリッとめ直し、ゴール前に立った。


神山ガミからゴールを取れるようになれば相当上達するぞ。あいつもいいキーパーだからな。

で、クロス、シュート、ディフェンスでローテーションして練習するんだ」


「はい!」


やっと元気な返事をするようになった1年生に背を向けて、界登かいとは他の3年を小走りで追いかける。


界登カイ面倒めんどう良くなっちゃって、なんかつまんねーの!」

湊騎みなき茶化ちゃかすように言う。


「あいつなりに変わろうとしてるんだよ」

と、大竹が答えた。

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