第10節 なぜ声を出すのか

「おい! 声が足りてないぞ! 声!!」


監督かんとくの声がグラウンドにひびいていた。


しょうは昨日の柑那かんなとの話を思い返していた。

最近、監督はよく声を出せという。監督によれば、去年のチームはもっと声が出ていたそうだ。僕らは、どうしてそこまで声を出すことに監督がこだわるのか、ピンときていなかった。


「声出すのって、苦手なんだよなぁ。ガラじゃないしさ。

正直そこまで余裕よゆうないし。自分のことで精一杯せいいっぱいだからさ。大竹タケとかが言えばいいと思う。僕はまだ、人のことまでかまってられないって」


翔がこぼしていると、


「余裕、かあ……」柑那は考え込んでいた。


「じゃあさ、プレー中ずっとだまってるの?」


翔が「そりゃ、全く出さないわけじゃないけどさ……」というと、柑那は翔がどんな時に声を出してるか、質問してきた。


「ボール受ける時にフリー! とか後ろ来てるぞ! って言ったりとかさ……プレーが切れた時に集中! とか、失点したときに切り替え! とか。そんな時かなぁ」


「ふーん、そういう時は余裕あるんだ??」


「ま、そういう訳でもないけど、そのくらいならさ」


「じゃあ、その声をかけるのって、誰のため?」


「誰って……指示はボールを取ろうとしてるやつに伝えるためだし、集中とかはチームの気持ちを入れ替えたりするためだろ?」


「うん、そうだよね。

でも、それって本当に相手のためなのかなぁ??」


「え? 相手のため? チームのためだろ??」


「うん。そうなのよね。例えばなんだけど、翔くんがハイボールを受ける時、周りが見辛みづらくて、そんな時にがくくんがフリー! って言ってくれたらどう思う?」


「助かる」


「じゃあ、その後、岳くんが同じようにボール受ける場面になったら……?」


「そっか。僕も声出して岳を助けようと思うかもな」


うん、と柑那は頷いた。


「そうか。声出すのは、お互いのためって望月もちづきは言いたいんだな」


「そっ。それにね、声を出すと緊張きんちょうほぐしてくれる効果があるらしいよ」


「へぇ、そうなの?」


「試合前とか円陣えんじんで大きな声出すじゃない? 緊張きんちょういて、集中を高める効果があるからなのかもね。

あと、声を出すことって……それ以外の効果もあると思うんだなぁ」


「それ以外の効果って??」


翔が前のめりに聞くと、柑那はうーん、と言いよどみ、

「それは、実際に声出してプレーしてみたらわかるんじゃないかなぁ」

と、言ったのだった。


だから、今日は練習の中で声をだしてみた。柑那が言っていたもう一つの効果とは、なんだろう。考えていたが、なかなかすっきりする答えは出なかった。


練習を終え、まだみんなはボールを回したり、思い思いにボールをっている。翔はその輪には入らず、でもすぐ帰る気にもなれず、ストレッチをしながらみんなをぼんやりとながめていた。


青島あおしま、と校舎の方へ戻りながら監督が通りすがりに声をかけてきた。


「今日よかったぞ!」


「ありがとうございます!!」

返事をしながら翔は、いつも通りだったけど……? と思っていた。

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