第9節 壁にぶつかったとき
2つ年上の兄の影響で、
近くのサッカークラブへ入ったが、そのクラブにちょうど同じタイミングで入ってきたのが近所に引っ越してきたばかりの
同級生だったこともあり、2人はすぐ仲良くなった。
小学校へ入学した後も、ずっと一緒にサッカーをしていた。2人とも地元の中学へ進学し、サッカー部に入った。お互いのボールの癖も好みも全部わかっていたから、よく2人の
その日、全体練習が終わった後も
去年まではあまり試合に
翔からすれば、
翔は頃合いを見て、もう今日はその辺にしておけよ、と声をかけた。
「ああ、うん。付き合ってくれて悪ぃな」
「どうしたんだよ。
「ごめん。話してくれよ。なんか思うところがあるんだろ?」
「この間の試合。俺、6回セットプレー蹴ってるんだ。でも1本もゴールに
「確かにそうだけど、試合には勝ったじゃん。それに、相手校には結構背の高いディフェンダーが
「そうだよ! 別に悪かった訳じゃない。でも、うちにだって
なんかもやもやしてさ。練習してないと落ち着かないんだ」
突然、翔の頭に
「
「壁」
「でもさ、その壁って、自分で望まないと生まれない壁なんだってさ」
「望まないと生まれない? どういう、意味?」
「うん、つまりさ。
「確かに……」
「だからさ、壁に当たったってことは、
=================
昨日、翔が駐輪場へ行くと
早く来すぎたかな?
翔はイヤホンを取り出すと両耳に押し込み、最近ヘビロテしている女性歌手の歌を再生し、音量を上げた。グラウンドの方では1年生が自主練をしていて、元気な声が飛び交っているようだ。知らず笑みが
と、右耳が急に静かになり、振り返ると柑那が翔の耳からイヤホンを奪ったところだった。
「何聴いてるの?」
外したイヤホンを柑那が自分の耳に近づけたので、翔の顔も一緒に引っ張られた。
「お、おい……」翔は
「
私もこの曲好き!」
柑那は言って、音楽に合わせて口ずさんだ。
♪
本気の僕だけに現れるから 乗り越えてみせるよ♪
「これ、意味わかる?」
「意味?」
「そう。意味」。
柑那は鼻歌でもう一度歌い、翔の答えを待つ。
「意味なんて考えたこともないよ……」
「トゲだらけの道を通れるのは本気でやっている人だけって意味かなって、私は思う。
今のままなんとなく生きていければいいやって思ってたら、
今の翔くんたちみたいにさ。全国への道、通ろうと思わなくてもサッカーってできるわけじゃん。なんとなく、楽しく3年間やれればいいよねって。でも、みんなは全国を目指すことにした。それは大変なことだと思う。練習もきつくなる。メンバー同士の
みんなが、本気だからこそ、
だから、大変だってことに、
「僕、自分に技術がないから、大変なんだと思ってた」
「うん、逆だよね」
僕らが自ら、選んだ道。
「前に進みたいから、
柑那は優しく笑っていた。
=================
「確かに、」
「確かに、今のままで十分って思うやつもいるかもな。でも俺はもっと上手くなりたい。全国行ったら、厳しい試合もあると思う。でもセットプレーが武器になれば、そういう試合を勝っていける。俺はもっと
「できるさ! また明日もセットプレーの練習、しようぜ!
明日は他の奴らも、誘ってさ!」
「うん!!」
「じゃあまた明日な」と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます