第35話、呼び出し
それから学校にソフィアと通いつつ、家に帰れば動画の翻訳作業に取りかかる日々を送っている。
翻訳作業は俺が普段から使っているパソコンでも十分に可能な内容だったので、俺はソフィアから未公開の動画をもらって自宅で作業するようになっていた。
ソフィアは朝早くからアリスとして毎日欠かさず配信をして視聴者を楽しませ、俺もそれに心をときめかせながら彼女の魅力を視聴者に伝えるべく字幕作りに没頭していた。
そして学校での昼休み。
動画の進捗報告をしながらソフィアと二人でお弁当を楽しんでいる時だった。
ブルル、とポケットに入れていたスマホが震えたのだ。
確認するとそれは姫奈からのメッセージで内容は【会議で使う書類を持ってきて欲しい】というもの。
そのメッセージを読みながら俺は立ち上がって、鞄から中身の入った紙袋とポテチとコーラの入ったビニール袋を取り出す。
『ソフィー、食事中にすまないな。姫奈から呼び出しだ』
『ヒナさんから? また生徒会のお手伝いかしら?』
『いんや、俺とソフィアと一緒にショッピングモールで買ったラノベをご所望みたいでな。姫奈はラノベを家に持って帰るわけにもいかないから俺が代わりに保管してたんだよ』
『ヒナさん、お家じゃ読めないから生徒会室で読みたいってお話をしていたものね』
『というわけでちょっと行ってくる。ラノベを届けたらすぐに戻ってくるからさ』
『分かったわ。レンが戻ってくるまでお弁当を食べるの待ってるから』
『別に待ってなくても良いんだぞ? 先に食べ終わってても大丈夫だから』
『嫌よ、わたしはレンと二人で一緒にお昼を食べたいの』
腕を組んでぷんっと顔を膨らませるソフィア。そんな彼女を見て俺は頬を緩ませた。
以前にソフィアは自分の事をわがままだと言っていたけど、彼女の場合はわがままと言うより【甘えさせてくれないと拗ねちゃうぞ】と可愛く言っているようなもので、俺としてはこれが彼女のわがままだとしたら大歓迎だし、むしろどんどん甘えてくれた方が嬉しいくらいなのだ。
(ソフィーはそれに自分はめんどくさがりで努力とは無縁の生活を送ってる、って言ってたけどさ。それもVtuberとしての配信業が忙しくて他の事に手が回らないだけで、決して怠けているわけじゃないんだ)
ソフィアの事を、アリスの事を、今までずっと見守ってきた俺には分かる。彼女は頑張り屋さんで一生懸命で誰よりも自分に厳しく出来る女の子なんだ。
そんな子が俺にだけ気を許して、ふにゃふにゃの可愛い笑顔で甘えてくれる。多忙な毎日を送っているはずなのに、頑張って俺の為に朝食から夕食まで作ってくれる。
ソフィアのような優しくて健気な女の子に寂しい想いはさせられないよな。
『分かった。それじゃあ急いで戻るから、ソフィーはいい子で待っててくれよ』
『わーい♪ うん、いい子にして待ってる♪』
嬉しそうに笑みを浮かべて大きく首を縦に振るソフィア。その姿は本当に可愛くてこの前のように彼女の頭を撫で回したくなってしまう。
だけどここは教室で周りにはクラスメイトもいるのでぐっと我慢だと、自分に言い聞かせてから席を立つ。ソフィアに見送られながら俺は生徒会室へと急ぐのだった。
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