第27話、意外な遭遇
『最高だったわね、あの名シーンが映像化されて、作画も最高で、声優さんも最高で、感動し過ぎて涙なしじゃ見られなかったわ!』
『ああ、全くだ。原作読んでストーリーを知ってるはずなのに、演出が完璧すぎてドキドキハラハラが止まらなかった。後世に引き継いでいくべき名作だった、間違いない』
『それにスクリーンで見るのはやっぱり違うわ。家のテレビで見るのとは比べ物にならなくて、映画館の臨場感は格別で何度でも足を運びたい気分になったもの』
『俺的にはソフィーと二人で同時視聴出来たのも最高だったな。ただ作品を見るだけじゃなく、互いの感想を共有して理解を深める。それもまた作品の楽しみ方の一つだと思うし、それを早速ソフィーと実践出来たのが嬉しかった』
『わたしもよ。レンと二人で映画を見て、こうやって感想を言い合うのすっごく楽しいもの』
映画を見た後、興奮冷めやらぬ俺達二人はショッピングモール内を歩きながら、さっき見た映画の感想を語り合っていた。
本当に心の底から最高だと思える映画で、原作のファンである俺達が想像していた以上のクオリティで映像化されており、文句の付けようがない程の素晴らしい作品だったと思う。
それに加えて俺としてはソフィアと一緒に見れた事も楽しめた大きな要因の一つで、物語が動く度に彼女はとても良いリアクションを見せてくれる。決して声に出すわけではなく、物語に合わせて表情豊かに反応したり、俺の手をぎゅっと握ったり、肩をぴくりと震わせたり――。
そんな些細な仕草から彼女が楽しんでいる事が伝わってきて、隣で一緒に見ているだけで物語をより楽しむ事が出来たのだ。
(やっぱりソフィアのリアクションの仕方は配信してる時のアリスちゃんそのものだよな)
ソフィアが感情豊かに可愛らしいリアクションを見せる様子は、アリスがゲーム実況している時の姿を彷彿とさせるものだった。その姿を隣で見ていると、推しと一緒に映画鑑賞をしているというのが実感出来て、改めて最高だと感じながら映画を楽しめた。
それから互いに十分過ぎる程の感想を共有したその後、ソフィアが近くのハンバーガーショップの前で立ち止まる。
『映画を見終わった後はやっぱりハンバーガーよね。ちょうど小腹が減ってきたところだし、軽く何か食べていきましょ』
『そいつはいいな。ちょうど時間もお昼だしポップコーンとコーラだけじゃ足りないからガッツリいきたい気分だ』
上映中にポップコーンは食べたものの、少しばかり物足りなさを感じていたのも事実。ソフィアの提案に快く賛同し、そのまま店内へと足を踏み入れようとした時だった。
「――あら? 連にソフィアさん、奇遇ですね」
背後から聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、俺とソフィアは反射的に振り向いた。
「姫奈?」『ヒナさん!』
ソフィアと二人で同時に声を上げる。
そこに立っていたのは美谷川高校の生徒会長を務め、俺の幼馴染である黒陽 姫奈。
見慣れた制服姿ではなく上品なシフォンブラウスにロングスカートを合わせた私服姿で、光沢のある黒髪を今日も真っ直ぐに伸ばしている。その清楚可憐な姿にソフィアは息を飲んでいた。
だが俺はそんな彼女よりも、彼女の隣にいる大男の姿に驚いていた。
姫奈の隣には真っ黒のスーツにサングラスをかけ、筋肉質で背の高いスキンヘッドの男が立っていて、明らかに普通ではない雰囲気を放っている。
一体こいつは誰なんだと疑問を抱く中、姫奈は親しげに微笑みながらこちらに向かって歩いてきた。
「こんな所で会うなんて珍しい事もあるものですね、お二人とも」
「あ、ああ……。ちょっとソフィアと映画を見に来てて。ていうか、姫奈の方はどうしたんだ? その隣の人って……」
「はい、ボディーガードの方です。ショッピングモールでお買い物がしたいと父に話したら、ボディーガードを連れて行けと仰られたものですから。私の安全の為にと用意して下さったんですが大袈裟ですよね?」
「大袈裟っていうか、やり過ぎというか、お前の親父さんの溺愛っぷりには驚かされるな……」
困り顔で苦笑する姫奈。
大企業の社長の一人娘で、学園のアイドルと呼ばれている彼女とは長い付き合いになるが未だにこういう所は驚きの連続だ。
「お二人はこれからハンバーガーショップで昼食ですか?」
「ああ、軽く小腹を満たしていこうと思って。そういう姫奈はもう済ませたのか?」
「いえ、まだ何も食べていませんよ。何を食べようかと悩んでいたのです」
「あーまあ、姫奈が食べるようなフレンチ料理とか、イタリアンのレストランはフードコートにもないしな」
「はい、あまりジャンクフードなどは口にしないので。でも興味はあるのですよね、特にこのハンバーガーというものは」
そう言いながら琥珀色の瞳で何かを訴えかけるように俺を見つめる姫奈。
まあ言いたい事は分かっているのだ。
だって姫奈は大のジャンクフード好きだし、フレンチ料理とかイタリア料理とか、キャビアとかフォアグラよりも、油っこくて肉厚で味付けが濃いハンバーガーをコーラで流し込むのが大好きなのだから。
しかし今の姫奈は周囲の目がある為、その本性は決して見せずお嬢様モードになっている。一体いつ何処で誰が見ているか分からないのだ、《美谷川のお姫様》のイメージを守る為にも、自分からハンバーガーを食べたいとは決して口にしない。興味がある程度に誤魔化して俺からの誘いを待っているのだ。
俺と二人きりの時に見せたような怠惰な姿は許されないが、それでもハンバーガーを食べたいと目で訴えかけてくる姿に、ここは幼馴染として助け舟を出してやる必要がありそうだと思った。友人に誘われてハンバーガーを食べる事になった、となれば言い訳として成り立つだろうし。
「ええと……じゃあ一緒に食べてくか? 庶民の味を知るのも勉強になると思うけど」
「それは素敵な提案ですね。ご一緒させてもらってもよろしいのですか?」
「俺は構わないぞ。あとはソフィー次第だな、三人で食事しても大丈夫か?」
『もちろんよ。こんな所でヒナさんと会えたのは奇遇だし、せっかくだからみんなで食べて行きましょう』
ソフィアに確認すると笑顔で快諾してくれたので、俺はその内容を姫奈に通訳して伝える。
「ソフィーも姫奈と一緒に食べたいってさ。良かったな」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、皆さんと一緒に食事をさせてもらいますね」
嬉しそうな表情を浮かべた姫奈はボディーガードに目配せをする。三人でゆっくり食事がしたいから離れていろとアイコンタクトで伝えたのだろう。
ボディーガードは小さく頭を下げた後、俺達から離れていった。ソフィアはその様子を眺めながら感心したように口を開く。俺はそれをすぐ姫奈に伝わるよう通訳していった。
『お嬢様なのは知っているけど、ヒナさんは凄いわよね。ボディーガードを連れて外出する人なんて初めて見たわ』
「わたしとしては外出する時くらい一人で気楽に過ごしたいのですが、父はわたしを一人にするのを嫌がるんです。ずっと子供扱いで恥ずかしい限りですよ」
『ううん、それだけ愛されているって事なのよ。それにヒナさんみたいに可愛くて優しい子なら、親として過保護になってしまうのも仕方ないと思うし』
「ふふっ、ありがとうございます。ソフィアさんはやっぱり素敵な方ですね、そう言って頂けると嬉しい限りです」
照れ臭そうに頬を赤らめながらも礼を言う姫奈。その可愛らしい姿にソフィアは胸を打たれているのだが、俺は姫奈が内心何を考えているのか手に取るように分かっていた。
(やっば~……ソフィアちゃん優しいし可愛すぎぃ! だっこしたい、なでなでしたい、お持ち帰りしちゃいたい~!!)
こう思っているに違いない。
だってソフィアから顔を逸らした後、さっきまでのお淑やかな微笑みが消え失せて、ニヤケ面を見せているから間違いない。ソフィアは気付いていないようだが、これは絶対に俺以外には見せられない顔である。
とりあえずこの危なっかしい幼馴染をどうにかしないとな。美谷川のお姫様というイメージがこのままではぶち壊れかねないし。
「と、とりあえず中に入って注文するか。立ち話を続けるのもなんだしな」
『そうね、早く席を確保しないと混んでくるかもしれないもの』
「連の言う通りですね。では一緒に店内に入りましょうか」
こうして思わぬ形で姫奈と一緒に昼食を食べる事になった俺達はハンバーガーショップへと入り、三人でのんびりとした時間を過ごす事になったのだった。
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