第28話、みんなでお昼
俺達の座っているテーブル席には美味しそうなハンバーガーが並んでいた。
俺が頼んだのはパティがたっぷりと重なったビッグバーガーとポテトにバニラシェイクのセット。ソフィアはシャキシャキのレタスが乗ったてりたまチーズバーガーとアップルティーの組み合わせ、姫奈はベーコンとトマトに肉厚のビーフパティが挟まれたハンバーガーにチキンナゲット、それからコーラを注文した。
姫奈は大好物のハンバーガーを前にして思わず素を出しそうになっているようだが、その衝動を必死に抑えながらお上品に口へ運んでいる。その姿は育ちの良さを感じさせるもので、ソフィアはそんな彼女の一挙手一投足に見惚れていた。
『ヒナさんはハンバーガーの食べ方もとっても綺麗なのね。本当にお姫様みたいに上品だわ』
「ありがとうございます。ハンバーガーは食べたことがなくて、綺麗に食べられるか不安だったのですが褒めて頂けて嬉しいです」
嘘である、全くのでたらめだ。
ハンバーガーを食べ慣れていないどころか、ジャンクフード好きの姫奈は放課後になると俺にハンバーガーを買ってこいとしょっちゅう頼んでくる。
その度に姫奈はほっぺたにソースを付けながら、幸せそうな笑顔でハンバーガーを食べ散らかす。小さな口を大きく開けて、リスのように頬を膨らませて食べるのだ。
まあそういう姿を知っているのは幼馴染の特権だし誰にも言えない秘密でもあるので、ソフィアとの通訳を交えながらついでにフォローも入れておくか。
「姫奈は食事の作法とかマナーを叩き込まれてるからな。今ソフィーが見惚れてるみたいに、姫奈の食事風景は美谷川高の生徒からも評判なんだ」
『そうよね、本当に憧れるわ。ヒナさんの食事の所作はとても美しいし、きっと幼い頃から厳しく教育されてきたのね』
「それを言うならソフィアさんもですよ。小さなお口でハンバーガーを頬張る仕草はとても可愛らしくて、見ているだけで癒されますから」
「あー姫奈、それ分かる。ソフィーってば凄く美味しそうに食べるよな。小さな口でもぐもぐ食べる姿は可愛くて、見てるとこっちまで幸せな気分になる」
朝一緒に食事している時も、昼食にお弁当を食べている時も、家に帰ってきて夕飯をご馳走になった時も、ソフィアはいつも笑顔で楽しそうに食事をする。
それが何とも愛らしいというか、こちらの食欲をそそり、心を満たしてくれる。彼女の食事風景は癒やしそのものだ。
俺が同意すると姫奈も首を縦に振って、ソフィアを愛おしそうな眼差しで眺める。
褒められてそんなふうに見つめられて恥ずかしくなったのか、ソフィアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
しかしそれでもハンバーガーを頬張り続ける姿は可愛らしい。そんなソフィアの姿に俺と姫奈は再び癒やされつつ、三人揃ってハンバーガーを堪能していった。
そうしてハンバーガーをぺろりと食べ終えたところで、コーラを片手に姫奈が聞いてくる。
「ところで一つお聞きしたかったのですが、連とソフィアさんはこの後、どのようなご予定なのですか?」
『そうね……ここでハンバーガーを食べてゆっくりした後の事は考えていなかったわ。レンは何かしたい事ある?』
「本屋に寄ってラノベとか漫画の新刊を買っていこうかなって思ってる。俺がいつも読んでる作品の最新刊がついこの間発売されたばかりでさ」
「それは素敵ですね。もし良かったらご一緒しませんか? せっかくこうしてお会い出来たのです、もう少しだけ一緒にいたいなと思いまして」
「俺は構わないけど姫奈の方は大丈夫なのか? 男と外で出歩くのって親父さんが許さないんじゃ」
「男性と二人きりなら駄目でしょうね。ですがここにはソフィアさんがいます、連と二人きりでないなら何の問題ありませんよ」
『ボディーガードの人は? わたし達がヒナさんを連れ回したら怒られたりしない?』
「それも問題ありません。ソフィアさんとの交流を邪魔するような真似は私が許しませんから。連とソフィアさんと行動する以上、しばらくは目の届かない所に行ってもらう事にします」
ハンバーガーショップの外で俺達の様子を見守っているボディーガードに向けて、しっしと追い払うように手を振る姫奈。手を振る度にボディーガードは離れていって、あれだけ大きな体が小人くらいの存在感になってしまった。
「さて、これで私達の行動を縛るものは何もなくなりました。一緒に遊びに行きましょうか」
『えっと……いいの、ヒナさん。あの人がすごく寂しい顔で離れていったけれど』
「構いません。一人で行動するのではなく連とソフィアさんが居ますから。それに連はボディーガードよりもずっと頼りになるのですよ?」
『えっ、ボディーガードの人より頼りになるって本当なの?』
姫奈の言葉を聞いてソフィアは驚いた表情を浮かべつつ、羨望の眼差しを向けてくる。
こうして姫奈の発言を通じて、ソフィアの中での俺という存在が【生徒会の仕事も難なくこなせて、腕っぷしが良くて、誰よりも頼れる素敵な男性】みたいな現実の俺とかけ離れた姿になってしまっている気がするのだ。
その証拠に彼女の目には俺しか映っていないようで、キラキラと輝くような瞳で俺を見つめているし、その視線をむず痒く感じた俺は慌てて姫奈の発言を訂正した。
「いや、ちょっと待て姫奈。それは誤解だろ、俺は別にボディーガードより腕っぷしが良いわけじゃないし、あいつらプロだからな。比べられるレベルですらないぞ?」
「ふむ、そうですか。ではこう言い換えます。私はボディーガードよりも連を信じています。だから安心出来るんです」
「そ、そう言われると、その……否定はできないかな、うん……」
長い付き合いで信頼してくれているからこその発言なのは分かっているのだが、こうして改めて言葉にされるのは照れ臭い。
思わず顔を逸らすと今度はソフィアと目が合って、彼女も俺を見つめながら優しく微笑んでいた。
『姫奈さんの言っている事、すごく分かるわ。安心できるのよね、レンと一緒にいると』
『よ、よせって……。ソフィーにまでそんな事を言われたら、どう反応すれば良いのか困るだろ……』
『その反応で間違ってないと思うわよ。照れて真っ赤になって、顔を逸らしちゃうの。そういうところが可愛いのよね、レンは』
『だから男に可愛いは褒め言葉にならないって……全く』
恥ずかしさを誤魔化すために、コーラをぐいっと一気に飲み干していく。そんな俺の照れる姿を見て、ソフィアと姫奈は楽しげに笑っていた。
「食ったし飲んだしそろそろ行くか。ソフィーと姫奈も行きたい所があったら教えてくれ」
「私は服やアクセサリーなどを見て回りたいですね。服飾店や雑貨屋巡りを提案します」
『わたしはゲームの新作を見て回りたいわ。新しいゲームを買い足したいの』
「それじゃあまずは本屋に行ってから、服やアクセサリーを見に行って、それからゲームを買いに行こう。予定はそんな感じでいいか?」
「はい、私はそれで構いません」
『すっごく楽しみね。このショッピングモールは広いから、歩いているだけでも楽しめそう』
静かに頷く姫奈と、その一方で碧い瞳をキラキラと輝かせながら子供のように無邪気な笑みを浮かべるソフィア。
あっちに行ってこっちに行って、色々なものを楽しむ姿を思い浮かべているのかもしれない。
そんな彼女の姿に頬を緩ませながら、俺もこれからの楽しい時間を思い描いていく。今日は本当に楽しい一日になりそうだ。
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