第13話、幼なじみ
注文を済ませた俺とソフィアは、それぞれ注文した料理を受け取り、空いていた席に隣り合って座っていた。
俺が頼んだのは日替わりの定食メニューで、ご飯とお味噌汁、小鉢二品に漬物が付いてくる。メインのおかずは唐揚げだ。
ソフィアは次狼系ラーメンを切望していたが高校の食堂には普通のラーメンしかないので、もやしの乗った味噌ラーメンで我慢してもらうことにした。
それでも期待以上の味だったらしく、フォークを片手に幸せそうな顔をしながら食事をするソフィア。
スープの絡んだ麺を小さな口で頬張る度に、美味しい美味しいと喜びながら頬に手を当てて瞳を輝かせている。
顔を綻ばせて感情豊かに素直な反応を見せてくれる姿は、配信している時のアリスにそっくりで本当に可愛いなと、そんな事を思いながら俺も唐揚げを食べ始める。
そして二人で仲良く昼食の時間を過ごしていると――。
「連、教室に居なかったから探しました。今日は珍しく食堂でご飯を食べていたのですね」
後ろから親しげに声をかけられて振り返る。
そこにいたのは漆のような綺麗な黒髪を真っ直ぐに伸ばし、琥珀色の綺麗な瞳を向ける少女。その凛とした佇まいからは清楚な雰囲気が漂っていて、隣に座っていたソフィアはそんな彼女の姿に目を丸くして驚いているようだった。
その黒髪の少女は手にしていた大きめのランチバッグをテーブルに置くと、自然な動作で椅子を引いて空いていた俺の左の席に座る。
「
「なかなか進まず休憩を。それでたまには連と昼食を、と思って探していたのです」
「まあいつもの俺なら購買でパン買った後、教室の隅っこでぼっち飯だからな」
「毎日パンだけだと身体を壊します。今日は連の分のお弁当も、と思って用意してきたのですがその必要はなかったようですね。ちゃんと食べていて偉いですよ、連」
そう言いながら嬉しそうに微笑む彼女。
姫奈とのやり取りは俺にとっていつもの事なので気にせず食事を続けていたのだが、ソフィアはそんな俺達を見つめたまま固まっていた。
『レ、レン……この人は……?』
『ん? ああ、紹介するの忘れてたな。この子は
姫奈は成績優秀で容姿端麗、俺とは真逆の太陽のような存在だ。誰に対しても分け隔てなく接してくれる性格の良さもあってか、学年男女問わず人気があり生徒会長を務めている。
その紹介を聞いてソフィアは碧い瞳をぱちぱちと瞬かせてゆっくりと口を開く。
『レン、あなた幼馴染がいたの? それにこんな可愛い子が小さい頃からの付き合いって……。でもレンって女の子と一緒に登下校したり、お家にも異性を上げた事はないって話してなかった?』
『あーその話か。姫奈はお嬢様でな、父親は大きな会社の社長をやってるんだよ。そんで父親から姫奈は溺愛されてて、男の家に上がるのは言語道断だって言われてるらしい。小学校の頃から登下校は使用人に車で送り迎えしてもらってて、付き合いは長くても一緒に歩いて帰ったりした事はないな』
『幼馴染で生徒会長でお嬢様……』
ソフィアは椅子から立ち上がり、まじまじと姫奈の事を眺め始めた。
腰まで伸ばした艶のある黒髪はさらりとしていて、その一本一本が絹糸のように繊細で美しい。肌は陶器のように白く滑らかでシミ一つない。
そして琥珀色の大きな瞳は吸い込まれてしまいそうな程に澄んでいて、長いまつ毛がその瞳を縁取っていた。鼻筋はすっと通っていて、唇は小さく潤んでいて形が良い。その可憐な顔立ちはまさに美少女と呼ぶに相応しいものだった。
そうしてじっとソフィアに見つめられている姫奈は、ぽっと頬を染めると恥ずかしそうに視線を逸らす。その仕草にソフィアは更に胸をときめかせているようだ。
「連、この人が噂の留学生さんですか……? なんだか不思議な雰囲気の人ですね」
「ああ、ソフィアっていうんだ。イギリスから来たばかりで日本語はまだ喋れないけどリスニングの方は完璧らしい。ソフィアの話す内容は俺の方で通訳するから、遠慮なく話しても大丈夫だぞ」
「わあ、連が通訳をしているのですね。それなら安心です。私、英語に関してはテストなどの問題形式や文章でなら理解出来るのですが英会話となると自信がなくて」
姫奈は嬉しそうな笑みを浮かべながらソフィアに向き直る。
「初めましてソフィアさん。私は黒陽 姫奈と言います。連とは小さい頃からの友達で今も仲良くさせてもらっています。これからよろしくお願いしますね」
そう言って柔らかな微笑みを浮かべる姫奈、そんな彼女にソフィアも微笑み返すと口を開いた。俺はその言葉をすぐ通訳して姫奈に伝えていく。
『ヒナさん、こちらこそよろしくね。えっと、わたしはソフィア・ワットソン。つい最近レンと知り合ったの。公園で迷子になっている所を助けてもらって、今は学校でも通訳をしてもらってお世話になってるわ』
「なるほどです。連が公園で女の子を助けたお話は聞いていましたが、その方がソフィアさんだったのですね」
「そういう事だ、姫奈。まさか助けた迷子が同じ学校の同じクラスに編入してくるとは夢にも思わなかったけどな」
俺の言葉にソフィアはうんうんと相槌を打っている。それから彼女は俺の耳元でそっと囁いた。
『ねえレン、わたしがVtuberをやっている話はヒナさんにもしてないわよね?』
『そりゃもちろん。いくら幼馴染とは言え、アリスちゃんの秘密を勝手にバラす訳にはいかないからな』
これは俺とソフィアだけの秘密。姫奈は俺の幼馴染で大切な友達だが、アリスの秘密を口にしたりはしない。誰にも話さない、ソフィアと約束したからな。
俺の言葉にほっと胸を撫で下ろすソフィア。そうして俺達が耳打ちし合う姿を見て、姫奈は取り出したお弁当を箸でつつきながら微笑んでいる。
「連とソフィアさんは仲が良いのですね、驚きです。連は警戒心が強いというかあまり人を自分の懐に入れたりはせず、私以外の人とはあまり関わろうとしなかったのですが……こうして他の人と楽しげにしているのを見ると嬉しく思いますよ」
「まあソフィーとは気が合うと言うか、趣味とか一緒だったんだよ」
「趣味と言うとゲームやアニメ、ライトノベルの話でしょうか?」
「そうそう、俺もソフィーもその話題で意気投合しちゃってさ」
「それはとても良いですね。私はそういった話題に疎いので、連がこうして楽しく話せる相手と知り合えて本当に良かったと思います。ソフィアさんに感謝しないといけませんね」
そう言って姫奈は優しく目を細めてソフィアを見つめる。
姫奈の言う通り、俺にとってソフィアとの出会いはとても幸運な事だった。アリスの件もそうだが、俺の趣味はアニメやゲームなどのサブカルチャー全般で、それを理解してくれる友人にはなかなか出会えなかったのだ。
だからソフィアと出会えて嬉しく思う。遠い海の向こうから日本に来てくれて、こうして仲良くしてくれる事に心の底から感謝している。
『ヒナさんは優しい人ね。それに物腰も柔らかくて可愛いし素敵な人だと思うわ』
「ふふっ、ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいですよ。それにソフィアさんもとても綺麗で、優しそうで素敵な方に思えます。仲良くしてくださいね」
『もちろんよ。こちらこそ仲良くしてね、ヒナさん』
そうして二人は笑顔を交わし合い、和やかな雰囲気に包まれる。
俺は唐揚げを頬張りながら、美少女二人の会話に通訳として参加して楽しいお昼休みを過ごすのであった。
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