女子豹変す

 冒険者ギルド協会本部の建物は街の真ん中にある。というよりも協会の周りに店ができて家ができてこの街となったという方が正しいだろう。周辺には各ギルドの事務所があったり、有名な酒場や宿屋、鍛冶屋に薬屋など街の中でもとても栄えている街の中心部だ。

 ところで、そもそもなぜこの街に冒険者ギルドの協会本部があるのかといえば、この街から20kmほど離れた場所に大きな「うろ」と呼ばれる巨大な洞窟があり、洞窟内は磁場の乱れのせいか別の世界との境界線があいまいで頻繁に変なモノが出現するので、冒険者たちはこの虚洞窟への挑戦を何百年としてきたためである。また、虚洞窟の内部構造も頻繁に変わるため地図の消費期限切れも早い。世界中に同じような場所はあるが、この虚洞窟は他の追随を許さないほど事象の頻度が高かった。


「あれー? リカ君じゃん。久しぶり~」

「相変わらず超かっこよくて、ウケる」

 協会本部の受付嬢二人がこのように気さくに笑顔で話しかけてくることなど未だかつてなかったためタンユは唖然とする。いつも録音かというくらい不愛想で機械的な対応をされてきた。

「うん。今日はタンユさんの付き添い。この間は二人とも結局申し出断っちゃって、ごめんね」

 リカルドは両手を合わせると謝罪のポーズをした。どうやらフランのリスク分散型彼女候補の二人だったようだ。

「ええ~。全然いいよ~。彼女大事にするリカ君もカッコいいしぃ! まじ超推しすぎる」

「わかる~。この顔面なのに彼女一筋とか感動しちゃったぁ」

 カウンターに大きな乳房を強調するように置いた二人の受付嬢は双方リカルドの方を向いて喋っており、横で書類に記入しているタンユの存在などまるで気が付いていないようだった。仕方なく記入した書類を受付箱に入れると、タンユは受付嬢側の電話へ身を乗り出して受話器とり、反対の手で直通の内線ダイアルを回す。

「ゴンさん。いま受付なんだけど、……うん。直接上行っていい? わかった。あとで」

 また手を伸ばして受話器を置いたが、受付嬢は本当にタンユのことが見えてないようだった。

「おい、リカルド。行くぞ」

 バイバイと笑顔で手を振る受付嬢達の瞳に最後までタンユは映っていなかった。


「お前、女性に冷たくされたことあるのか?」

 エレベーターの中でリカルドに情けないことを聞いてみた。

「……うーん、ないっすね!」

「すげぇな、イケメン……」

「ウッス!」

 そして、チーンという音とともに目的地に着いた。


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