Da donna



「ううう...」


「あはは。用意してあるよ。おいで」



翌朝、ユーリさんのノックの音と共に目覚また僕は、朝の挨拶を発しようとしたけどそれよりも先に豪快に腹の虫が鳴った。

赤くなり縮こまった僕にユーリさんは軽く笑い、朝食が用意してあると告げてくれたのだ。


思えば昨日から丸1日何も食べていない。

それどころではなかったのもあるし、ある程度落ち着いた瞬間に疲れて眠ってしまったので気にならなかったけどいい加減空腹が限界だったのだろう。


「おはよう、キティ」


ユーリさんに連れられて入った部屋は食堂のようで、先に座っていたボスにそう声をかけられた。傍には初めて見る、黒いスーツを着た大人の男女が2人。何だか似てる。双子だろうか?


「おはよ..です。...ダディ?」



「おい、おいおいおい。聞いたかお前ら。

キティがダディって呼んでくれたぜ?あぁ、最高の気分だ。キティ、これも食べていいぜ?」


「「おめでとうございます、ボス」」



...着席してボスに挨拶を返した際、初めてのダディ呼びに気を良くしたのか、どんどんと料理を僕の皿に載せてくれた。



「あ、ありがと...です。ボ..ダディ、その人達は...?」


「あぁ、俺の部下だ。気にしなくていい」


「「私達は空気として扱って下さい、キティ」」


「わ、わかった...です」



息の合いようからなにから気になって仕方ないけど、なんとなく言う通りにした方がいい気がして了承することにした。



「キティ、美味しいかい?」


「うん、美味しい!あ、そのキティって...?あ!僕の名前は─」



出された料理はとても美味しそうで、

一口食べてみるとやはり美味しくてガツガツ食べ始めた僕にユーリさんが声をかけてきたので返事をする。

そして昨日から気になっていたキティと言う呼び名のことを聞いてみたけど、途中でまだ名前を名乗ってないことに気づいて名乗ろうとした。



「あぁ、キティ。それが君の名前だよ」


「え?いや、僕は─」


、それが君の名前だよ」



ユーリさんは改めて、僕の名乗りを遮った。

優しいお兄さんの印象だったけど、その時ばかりは妙な圧を感じて僕は気押され、思わず頷いてしまった。



「さぁ、気を取り直して食べようか」


「おう、いっぱい食えよ、キティ」


「う、うん...です」



微妙な空気の中、ユーリさんとボスの声かけに何とか返事をして食事を続けた。

なんとなく、さっきより美味しくなくなった。



◇◇◇



「さて、キティ。とりあえずは僕が君の面倒を見ることになったから、よろしくね」



食後、ボスに退出の挨拶をするユーリさんに倣って挨拶をしてから、ユーリさんに連れられて先程まで寝ていた部屋に戻った僕にそう告げられた。



ボスとユーリさんの僕に対する見解は曰く、


スラム街に似つかわしくない小綺麗な身なりをしていたことから、裕福な家庭の出だと思うが誰かに攫われたであろうこと。

着ている服装的に、この街の住人でないことは確かであること。

拉致の道中に大人しくさせるために違法な薬を盛られ夢の世界に旅立ったであろうこと。

そして、何らかのトラブルであのスラム街に置き去りにされた、と言うことだと結論づけたらしい。


半分以上意味がわからなかったが、

自信を持って違うと言いたい。

が、僕の説明は逆にユーリさん達からしたら

意味が分からないらしく、薬の副作用?とやらで記憶に障害があると決めつけれた。

...何を言っても夢の世界の出来事だと決めつけられ、終ぞ納得させることはできず最終的にこちらが折れた。



そうして、

ここにお世話になることが決められたのだ。



「よし、じゃあまずは言葉遣いから勉強して行こうか...と言いたいところだけれど、ごめんごめん、まずはシャワーを浴びなきゃね」


「わかった...です?」


「そうそう。まぁ僕はあまり気にしないけど、一応大人だからね、ちゃんと敬語を使えるようにしていこうか。とりあえず着いてきて」



言葉遣い...難しい。

とりあえずシャワーを浴びれると聞いて、ウキウキで先を行くユーリさんについて行く。

空腹に次いで、昨日転げ回ったせいで身体中が汚いままだった。

そういえば服もそのままだな、と軽く見回してみた。



「...うわ」



涙と血と鼻水と泥でボロボロだった。

改めて匂いも凄い。

よくボスとユーリさんはこんな僕と平気な顔で接してくれたな、とその優しさに感謝した。



「あぁ、着替えは用意してあるから、安心していいよ」


「ありがと...です」


「どういたしまして。ほら、ついたよ」


「うわぁ!」



シャワーと言われていたので狭い浴室を想像していたのだけど、連れてこられた浴室は物凄く広かった。下手な銭湯よりも広いその浴室に感動して、思わず大きな声が出た。



「どう、凄いでしょ。ボスが浴室には拘っていてね」


「すごい!すごい!」



飛び回って大はしゃぎした僕だったがすぐにユーリさんに捕まり、服を脱がされてそのまま浴室に入り身体を洗ってもらった。



「ほら、綺麗になったよ。湯船に浸かっておいで」


「うん!...あれ?頭が全然痛くないよ?...です」



あまりに違和感がなく全く気が付かなかったのだけど、いくら痛みが引いてきたとは言え傷は残っていたはずなのに、頭を洗った際に全く痛くなかったことに今更気づきユーリさんに聞いてみることにした。



「あぁ、寝ている間に治癒魔法を掛けたんだよ。ほら、あの双子がいただろう?彼等に頼んでね」



「魔法!?」


「うん、魔法だよ。キティは見たことが...そっか、ごめんね、それも記憶障害か」



絶対に勘違いされているけれどそんなことがどうでも良くなるくらい今の僕は魔法が気になって仕方がない。



「魔法!ユーリさんは使える!?

あ!もしかして僕も使えるの!?」



「あはは、落ち着いて、キティ。

じゃあお風呂から上がったら魔法について教えてあげるよ」


「本当!?やったぁ!」



ユーリさんが教えてくれると約束してくれたことで急いでお風呂から上がり、身体を拭いてもらう。


そして着替えを手に取り....



「え?」


思わずユーリさんを見るが変わらず穏やかに笑ってこちらを見てくる。


「...え?」


「...あぁ、そっか。着方が分かるわけないよね。貸してごらん」



いやいやいやいや。


その後、必死の抵抗虚しく

ユーリさんに用意されていた服を着せられた。



「うん、よく似合ってるよ」


「...」




姿見に映る僕はすっかり身綺麗になっている。


─そして、

高そうな子供用のを着ていた。

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Travestito─裏社会で恐れられる最凶の美少女(男) けら @kakuyomanaiyo

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