Padre
目を覚まし、飛び起きた。
...僕は生きていた。
あれは、リアルな夢だったのか...?──
「痛ッ..」
そんなことをボーっと考えている際、
強い頭痛に襲われ、頭に手を伸ばす。
...包帯?
ハッとして、辺りを見回した。
まず、僕は広いベッドで寝ていた。
家のベッドの3倍はありそうな広さだ。
次いで今いる場所は...広い部屋だ。
家の部屋の3倍はあるかもしれない。
そんな広い部屋なのにこのでかいベッドだけがポツンと置かれている、殺風景な部屋だった。
「うぅっ...ぐすっ...」
何一つとして理解してないけれど、
とりあえず助かったと判断する。
安心して、また泣いてしまった。
本当に何もかもが分からなくて、無性に心細い。
「起きたのかい?失礼するよ」
ノックの音がして反射的に扉の方を向くと、こちらの返事を待たずに扉が開かれた。
「おはよう。気分はどうだい?幸いにも怪我は大した事がなさそうだったから、治療は無事に終わったよ。まだ多少の痛みはあるかもしれないけど耐えられない程じゃないはずだけども...」
物腰の柔らかな綺麗なお兄さんが現れて、
開口一番、そんな言葉をかけてきた。
「誰...?」
恥ずかしながら問いかけに応える余裕もなく、端的に自分の疑問を口に出してしまう。
「どうやら大丈夫そうだね、よかった。
僕はユーリ。殺されそうになってた君を保護させてもらったんだ」
「外人さん...?なんで?」
我ながら失礼だと思うけど、次から次へと疑問が口から出てくる。
ユーリと名乗った綺麗なお兄さんは、
背がとても高く、細いけどがっちりしてるような体型。細マッチョって言うのかな?
そして金色の長髪をポニーテールにしていた。
何より僕が外人さんだと思った1番の理由は、くっきりとした二重で鼻の高い堀の深い顔だ。キリッとした大きな目は透き通るように蒼い。
正に絵に描いたような外国人だった。
「ガイジン...?それは一体どういう意味─
あぁ、目覚めたばかりでまだ困惑しているのかな?あぁ、それよりも今は─」
突然の問いかけに困ったように笑いながらも僕に涙でくしゃくしゃになった顔を懐から取り出した高そうなハンカチで拭いてくれた。
...なんだか久しぶりにいい人に出会えた気がして、懲りずにまた泣いてしまい何度もユーリさんに涙を拭かせてしまった。
「どうかな、もう落ち着いたかい?
よし、立てる?少しだけ歩けるかな?
僕らのボスに会わせたいのだけれど...」
落ち着くまで黙ってそばに居てくれたユーリさんが、僕が落ち着いたのを見てそう問いかけてきた。
ちなみに泣いている間、僕はユーリさんに
どこ?なに?だれ?お母さんは?と
色々な質問を浴びせたけど、
ただただ困った様に笑うのみだった。
「わかった...。...ボス?」
色々と知りたい事だらけだし、
ユーリさんは良い人だ。
そんな人の頼みは聞いてあげたい。
だから了承し、立ち上がりながらも
やはりボスと言うのには引っかかったので聞いてみる事にした。
「おっと」
「ありがとう...」
軽く立ちくらみがしたが、ユーリさんに支えてもらう。
その場で軽く動いてみる。
うん、もう問題なく動ける。
「そうだよ、僕の...僕らのボスで、
その...君のお父さんになる方だね」
「お父さん!?」
お父さんがいるの!?
「そう、お父さん。パパンって言った方がわかるかな?」
「僕のお父さんに会わせてくれるの!?
あれ、お母さんは!?お母さんもいる!?」
「ごめんね、お母さんはいないんだよ。
とりあえず、行こうか。
僕についてきてくれるかい?」
お父さんに会えるならついていかないなんて選択肢はない。すっかり元気を取り戻した僕は、ウキウキで前を歩くユーリさんを急かしながらついて行った。
部屋の広さで豪華な家だとは思ったけど、
想像の数段豪華な廊下を歩いた。
どのくらい歩いただろうか。
息切れしてもおかしくないくらいには歩いたけど、不思議と僕は元気なままだった。
そして、一際豪華な扉の前で立ち止まる。
「ここだよ。どうぞ」
そう言ってユーリさんが扉を開けてくれた。
お父さんに会える!お父さんに会える!
「おはよう、可愛いキティ。君のパパだよ」
いいえ、人違いです。
◇◇◇
この僕のお父さんを名乗る不審者は、
多分お父さんと同じくらいの年齢だと思う。
黒髪に若干の白髪が混ざる長髪をオールバックに纏めていて、鋭い黒の目。顎に短く整えた髭。
見た感じ日本人に見えるけど、
テレビでよく見る俳優のような渋くかっこいい顔をしている。
「ハハッ。キティ。目ん玉まん丸にしてどうしたよ?」
ぽかーんとしてしまった僕におじさんは
鋭い眼を和らげ、笑顔で問いかけてきた。
見た目に反して陽気な口調だ。
「ごっ、ごめんなさい。...です。
えと、その、何もわかってなくて.....です」
戸惑いはしたが、流石にこの人にいつもの話し方ではまずい気がして慣れない敬語を使ってわたわたする僕を見て、まずユーリさんが吹き出した。次いで、
「ハハハ、悪ぃな、キティ。そう怒んないでくれよ。そうだよなぁ、なにがなんだかわかんねえよなぁ」
ユーリさんに笑われたことに少しムッとした顔をしてしまっていたみたいで、そんな宥めるようなことを言われながらもおじさんの表情も悪戯が成功したかのようなしたり顔だった。
それを聞いて更に眉間に皺をよせた僕に対して、おじさんは優しい声音で一体何があったかを説明してくれた。
まず、このおじさんは自らをボスと名乗った。
勿論それが本名じゃないことくらいは僕にだって分かった。だから本当の名前を聞いたんだけど、ダディかパパン、どっちがいい?
なんてふざけた答えが返ってきた。
そんなことよりも今は状況が気になって仕方なかったので適当に返事を返す。
「じゃ、じゃあ、ダディで...」
理由は何となく。
かっこよかったからだ。
その後、無事に話を聞くことができた。
まずあの時、間一髪、殺されそうだった僕をたまたま見かけたユーリさんが助けてくれたみたいだ。
あの路地裏はスラム街と言うらしい場所らしく、僕を害そうとした子供達は孤児と言う親のいない子供達の集まりらしい。
スラム街と言う場所はあの子供達以外にも悪い大人が沢山身を潜めているらしく、そこにいる人達は大人も子供も関係なく、生き残るためなら他者を害すことを何とも思わないような人達らしい。
つまり僕はとても危険な場所で1人無防備にうろうろしていたのだ。
そしてボスはこのスラム街がある街─ローザの裏社会?ってやつを仕切っている、文字通りボスだったみたいで、そこの偉い人であるユーリさんが声をかけつつ近づいてきた時点で僕を囲んでいた子供達は一目散に逃げ出したようだ。そしてユーリさんがそのまま意識を失った僕をこの、今いる建物まで運んでくれ、治療をして寝かしてくれていたと言うのが、現在の状況だった。
「あの、ありがとう...です」
話を聞いているうちに落ち着いてきた僕はまず助けてくれたお礼を述べた。
その後、当然だが僕のことを聞かれた。
まず、家族はどうしたのか。
どうして小綺麗な格好であんな場所にいたのか。
帰る家はあるのか。
そんなようなことを聞かれた。
そして僕は分かる限りのことを全部話した。
トラックに轢かれて死んだはずであること。
そして気付いたらスラム街にいたこと。
お父さんとお母さんの名前。
実家の住所、電話番号。
小学校や先生の名前まで話した。
「あー.....」
結果として、何一つ話が噛み合わず、
僕は病気だと判断された。
僕には言っている意味がわからなかったが、
スラム街で最近蔓延してるクスリ?と言うやつの影響で幻覚?夢?を見て記憶が混濁しているんだと思う、みたいなことを言われたような気がする。
話しが通じないながらもなんとなく、もう帰れない事を薄々察してしまい、また泣いた。
ボスとユーリさんは困ったような顔で、
僕をあやしながら寝室まで連れてくれた。
「とりあえず暫くはお預けだな。今はおやすみ、キティ」
泣き疲れて深い微睡みの中に入りかけた僕の耳に、そんな甘い、気持ち悪い声が聞こえた気がした。
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