第6話 イブの約束

それから一ヶ月が過ぎ――――12月



「朋花、クリスマスイブの件だけど、当日さ映画館の前で待ち合わせしない?」


「待ち合わせ?はい」


「じゃあ当日に待ち合わせって事で。後、これ前売り券渡しておくから当日、俺に渡してもらうと良いから」


「私が…ですか?」


「うん」


「分かりました」





その日の夜―――――



「おっ!これ!何?」

「あっ!ちょ、ちょっとっ!駄目っ!」



と、同時に言うも、瀏司に取り上げられた。




「前売り券…へえー」



ヒラヒラとチラつかせる。




「ちょっと!返してっ!」



スッと避けられ意地悪をされる。




「これ、今、話題の映画じゃん!彼氏と行くんだ」

「いけない?」

「別に。じゃあ、この日はお泊りコース?」

「そ、そんなの…まだ決まってないし」

「いやいや、お泊りコースっしょ?」

「そんなの…」


「ラブラブデートに決まってんじゃん!プレゼントはお前自身にでっけーリボン付けて…私♪みたいな」


「今時、そういう事を言う人いないから!」


「分かんねーじゃん!あっ!じゃあ、犬用の鎖?」



ムカッ



「はあぁぁっ!?それは意味違うし!」


「ハイヒール履いて、鞭で…」


「それ!違う方向だし!あんたの趣味なんじゃないの?」


「俺はノーマルだしっ!」




私達は騒ぐ。




「まあ楽しんできたまえ!菊馬朋花くん。ちなみに俺はバイトなんで」




そう言うと席を外した。





♪…ジングルベル…ジングルベル…



当日――――



「あっ!ママ、見て見て!サンタクロースだ!」

「あらー、本当ねー」

「サンタさん、プレゼントくれるかな?」

「マー君、いい子にしてたから大丈夫なんじゃないかなー?」


「本当!?」

「うん、きっとくれるわよ」

「うん!」





そんな親子の会話を聞きながら、微笑ましく思う。



そして、映画館の前、待ち合わせ時間。


空からは雪が降ってくる。





「…雪…」




♪♪…





「メール?」





ピッ


ズキン…




メールには写真が添付してあった。


ベッドの上での男女の見えるか見えないかの裸のツーショット写真。




【私の彼氏に手を出さないで!】

【彼に近付かないで!】 



そういうメッセージが受信されていた。





「…………………」




「遊びだった…って事……?」




私はショックを隠し切れずにいた。






次々と溢れてくる涙


クリスマスのイルミネーションは


私にはボヤケて見える



そして幸せのプレゼントは


もらえなかった……



天使もサンタクロースも


私を見捨て


不幸のプレゼントを渡された……




私は街中をトボトボと帰る。




「彼女ーー、一人?何してんの?俺達と出掛けない?」



私はスッと横切る。





「何、何?冷たいじゃん!イブの夜なのにさー」

「だから?私…そんな気分じゃないし…」




グイッと肩を抱き寄せられた。


「離してっ!」




何とか押し離し走り去った。





その途中――――




ドン


誰かとぶつかる私。



「って…」

「す、すみません…」



私は謝り去り始める間もなく、グイッと腕を掴まれ引き止められた。



ビクッ




「お前…彼氏とデート……」



そこには、椎納君の姿。



「…瀏…司…」


「普通なら映画館…もしかして…ドタキャン…?」



「………………」



「…マジかよ…」




スッ

携帯を見せる私。

  



「…何だよ…これ…」

「私の…彼氏…」

「…えっ…?」




《コイツ…確か…》





「…本カノ…いたみたい…バカだよね…一人浮かれモードなんかなっちゃってさ……本当…バカ…」




私は下にうつ向き涙がこぼれ、大粒の涙が溢れてくる。




「…………」



「…笑っちゃうよね…」



顔を上げ無理して笑顔を作って見せる。



「いや…笑うも何も…そういう心境になんねーから普通」


「普段の瀏司なら茶化…」



グイッと抱き寄せられた。



ドキッ




「瀏…」


「そいつの家教えろ!」



私は首を左右に振る。


抱き寄せられた体を押し離す。



「良い。大丈夫だから」


「何言って…本カノとラブラブで、お前は寒空の下、放ったらかしされてんだぞ!ドタキャンにも程があるだろう!?」


「…良いから…」



私は走り去った。




俺はバイト先に戻る。



「あのっ!」

「うわっ!どうした?瀏司」

「彼の」

「えっ?」

「あの…コイツの家、知りませんか?」



俺は、彼女が俺に携帯を渡したまま去ってしまった写真添付された画面をバイト先の先輩に見せた。



「うわー、マジリアル!えっ?お前、そっちの趣味?」


「違いますっ!その冗談、先輩でもブチギレますよっ!俺の女友達が…コイツと付き合ってたんですっ!」


「…えっ…?それって…年下と付き合っているって…」




コクリと頷く俺。



「教えるのは構わないけど、いる保証もないし…」

「それでも、今日中に探し出す!」




俺は住所を聞き、向かうも会えなかった。


渋々、家に帰る事にした。




「チクショーっ!」



ガンッ


俺は、腹が立ちドアを殴る。





「…瀏司…?」

「…朋花…悪い起こし…」



スッと瀏司の手を握る。



「…冷たい…こんなになるまで何してたの?…瀏司の事だから彼の所にでも行ったんでしょう?彼のことなら良かったのに…」


「そういうわけには…」


「…瀏司…自分の事のように怒るから…私の人生なんだから…自業自得なんだよ。運がなかった…」



グイッと抱き寄せられた。



ドキン



「…瀏…」

「…でだよ……何で…そうやって自分責めんだよ…」




抱き寄せた体を離し、両頬を優しく包み込むように瀏司はすると私達は視線がぶつかる。



ドキン…



何処か悲しく優しい眼差しに胸がザワつく。



「…お前が…そんな顔をしているのを見ると放っておけないんだよ…」


「…瀏司…優しくされちゃうと…私…」


「同居人かもしんねーけど…でも…こんな時くらい甘えても良いんだぜ。つーか…同居人だからこそ…もっと自分に素直になれ!」




「………………」




「何があっても味方だから一人で悩むな!考え込むな!朋花」


「…瀏司…」




私は瀏司の胸に顔を埋めた。







今日は特別な日


クリスマスイブ


淋しくて仕方がなかった私に


小さな温かな光をくれた



今日だけ


この優しさに甘えても良いですか?


あなたの胸を貸して下さい





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