第7話 近づきたい

「くらまさん!」

あおいは、またあの木の下に行ってみました。すると、くらまさんがいました。

くらまさんは、あおいを見るなり、焦るように叫びます。


「絶対に、来るな! 登るなよ!」


あおいは理人様から危険なことはしないようにと言われておりますから、ここは、くらまさんの言う事をきいています。


ですが、何とかしてくらまさんとお話がしたいあおいなのです。

そこで、下から尋ねて見る事にしました。

「そこから、何が見えるのですか?」


あおいからの質問にくらまさんは暫く黙り、そしてポツリと言います。

「誰も見た事がないだろう景色だ。」

くらまさんは、自分だけが知っている、誰も知らないであろう景色が広がるこの場所が、好きだったようなのです。


あおいは、その景色が見たくて仕方ありません。

「私も見たいです!」


くらまさんの表情が歪むのがわかります。「登れないだろ、来るな!」


「でも、くらまさんが手伝ってくれたら登れるかも!私も見たいです!」


あおいからの申し出に困惑するくらまさんは、

「何て女なんだ?わけがわからない!! 俺に構うな!!」

そのようにあおいに言い返し、もう、パニックなのでした。


あおいは諦めたのか、木の下で座り込んでしまいます。


それを見ていたくらまさんは、とうとう、しびれをきらし、

「あぁ〜もう!!、、わかったよ!! 見たいんだろ!!

いいか、絶対に落ちるなよ!

俺の言う通りに登れよ!」


こうして、くらまさんは、あおいの手をとり、少しづつ足場を見ながら、誘導し、そしてくらまさんのいる場所まであおいを連れて来てくれたのでした。


あおいの目に飛び込んできた景色は、それは、それは、見た事もないものでした。そこには、山が小さくみえ、近くの広場には同じ位の子供達が遊んでいます。そしてまた、あおいがいつも通う道すらも小さく見えたのでした。

あおいは、大興奮です。くらまさんはあおいが落ちないように支えてくれていますが、あおいが興奮し、動く度に慌てるのです。


「う、動くな!落ちるだろ!!」


あおいは、くらまさんに謝るとお礼も言いました。

「ありがとう。くらまさん。

すっごく、素敵な所ね!」


くらまさんはあおいからの言葉に、照れながら、自信満々に

「凄いだろ!」と言いました。


くらまさんはあおいが降りる時も、安全なように誘導してくれ、下まで無事に降ろしてくれたのでした。


あおいは、ご満悦な様子です。

なぜなら、近づきたいと思っていた、くらまさんと少しお話ができたからなのでした。


この事がきっかけとなり、あおいはくらまさんと仲良くなっていきます。


お昼ごはんも一緒に食べながら沢山お話ができる事がなにより嬉しいあおいなのでした。


その様子を見ているのが、級友達と先生方です。

二人があんまりに仲が良く、大丈夫なのかとヒヤヒヤもので心配なのです。



時にあおいは級友から

「くらまさんが恐くないの?」

と尋ねられます。そんな質問にもあおいはニコニコしながら、

「恐くないよ。優しいよ。」


級友は、あおいからの「優しい」と言う返答に困惑な様子なのでした。


しかし、二人をずっと見ていた級友達は次第にくらまさんに対する見方が変わり始めます。


そして、段々と解るようになるのです。くらまさんは、言葉遣いやらは、大層乱暴なものの、あおいに接する姿からは、間逆なのだと。


自分達が何か誤解していた事が二人の仲良くする姿から解ったのでした。


次第に、くらまさんの周りにはあおい以外にも増えていきました。


あおいは、それが嬉しくて仕方ありませんでした。

皆が、自分と同じようにくらまさんを見ているのが、たまらなく嬉しい、あおいなのでした。

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ヤンチャな神様と光の娘 中筒ユリナ @ariosu-siva

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