第三話 匂わせるようなことをするんだよ……

すいません、更新が遅くなりました……

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 遥香から衝撃的な事を言われた、その日の夜。


 俺はリビングで、テレビにユーチュービを繋げて、遥香の子役自体の動画を見ていた。映像自体はすぐに見つかった。公式チャンネルが一話だけ公開していたり、テレテレキッズの過去映像やら切り抜き動画がたくさんあったのだ。


 ちなみに、遥香から子役時代があったことを教えてもらった後、元気なくて気落ちした様子の遥香は家にまで送って行った。

 

 本当は、どこかで飯を食うか、気晴らしにって思っていたのだが、そんな気分じゃないと断られてしまったのだ。



『はーい! 今日は私、暁遥香あかつきはるかが現場から、この熱気をお届けさしてもらいまーす!』


『仮面レンジャーは絶対に私達を助けてくれるもん! 信じようよ!』


『なんで……先生は……先生は……そんな人じゃないと思ったのに!』



「すげーな……」


 友人がテレビやドラマに出演している動画を見ていると、改めて、凄いなと実感した。


 勿論、演技が上手いとかもなんだが、それ以上に今の遥香とは違って非常に活き活きとしてるのだ。


 今の遥香も十分魅力的だし、今の姿も遥香の素の部分なんだと分かる。


 ただ、子役自体の遥香は、元気と笑顔に溢れているのだ。とてもじゃないが、孤高だとか、高嶺の花といったような言葉は似合わなかった。


「出来損ないって、卑下するようなもんでもないと思うけどな……」


 遥香の考えていることが分からなくて、思わずため息をついてしまう。


「ねぇ、おにい。何見てるの~」


 風呂上がりの雫が、体にバスタオルを巻いた状態でやって来た。上がったばっかりなのか、髪も体も十分に乾いておらず、水が少し滴っていた。


「って、お前! なんて状態で来てんだよ! 風邪ひくし、はやく着替えてこい」

「着替えを忘れたんだから、仕方ないじゃん」


 風呂上がりということもあって、甘い匂いがしてくる。それに、血色が良くなっていることもあって、妙に色っぽく見えた。


 俺の隣に腰を下ろす雫から、おしり一個分の距離を取った。


「あ、これって仮面レンジャーの七海ちゃんでしょ。懐かしいね!」


 嬉しそうに話す雫が、開けた距離を詰めてきた。

 詰めてくんなよ……はやく着替えてこい。


「雫も知ってたんだな」

「そりゃあね。小学校の頃、おにいと一緒にごっこ遊びしたじゃん」


 そうだっけ……? あまり記憶にないぞ。まぁ、いいか。


「でも、なんで今になって見てるの?」

「ああ、それはだな……」


 まぁ、雫にならいいか。俺一人だと行き詰ってたし。


「いいか、絶対に誰にも言うなよ? 実はな──」


 それから、俺は遥香が子役だったことや遥香が自分を卑下していることを伝えた。 

 俺の話に、雫は黙ったまま真剣な表情で聞いていた。


「そっかぁ……遥香ちゃんって実彩子の妹だったんだね……やっぱり、似てたのは気のせいじゃなかったんだ。でも、遥香ちゃんだって今のまま十分凄いと思うけどね」


「だよなぁ……なんであんなに自分を卑下するんだろ。今は役者をやってないから?」


 その辺は、遥香本人に聞かないと分からないか。


 でも、母も姉も役者なら劣等感があったとか……? 本人のいないところで考えてもか……。


「どうなんだろうね……でもさ、カメラに写ってる遥香ちゃんって凄く楽しそうじゃん、もったいないよね……本人には言っちゃダメかもしれないけどさ」


 もどかしそうにため息をつく雫が、俺の肩に頭を乗せてくる。

 その重さが心地良いやら、心臓に悪いやら、不思議な気分だった。


 というか、離れろ……雫の頭を手で押し返す。


「むーっ! 折角考え事をしてるんだから、いいでしょ」

「よくねーよ!」


 真面目に考え事をしてるんだから、やめてくれ。ただでさえ、美咲と一線を超えそうになったばっかりなんだぞ。お前は知らないだろうけど。


「私、知ってるんだからね。おにいが美咲ちゃんとエッチなことしそうになったの」

「……ニャンで知ってんだ?」


 頬を膨らませる雫に思わず聞き返してしまった。

 どっから漏れた……? いや、そんなもん一つしかない。


 美咲が漏らしたに決まってる。どうせ、美咲の事だから、雫たちにマウント取ったのだろう……容易に想像がつく。


「だって、美咲ちゃんに自慢されたんだもん」


 やっぱりな。

 そんな事だろうと思ったよ。


「だから、私も美咲ちゃんに自慢してあげるの……ニシシ」


 そう言って、雫はスマホを自撮りモードにすると、こちらに向けて連射を始めてた。


「し、雫……?」

「うーん……あ、これとかちょうどいいかも」


 そのまま、雫はスマホを操作していた。それから、満足気な表情になると、自室の部屋に戻って行った。


「結局、何がしたかったんだ……?」


 そう思った直後。


 いきなり俺のスマホに、スタンプやらメッセが連投されてきた。

 通知を確認すると、美咲からだった。


「まさか……」


 嫌でも、直感的に分かってしまった。


 バスタオルを巻いた、いかにも風呂あがりな雫の姿。

 隣に座る俺も、風呂上りなのでラフな格好だ。


 あとは、連射した写真から良い感じのを選んで、背景をマーカーで塗りつぶすなりすれば……


「完全に始まる一歩前じゃねぇか……」


 なんでそんな匂わせるようなことをするんだよ……。


「ま、まぁ? 美咲からのメッセは怖いし、今は無視しとこ……」


 雫本人は楽しいだろうが、された側はたまったものじゃないだろ……まぁ、美咲も似たようなことをしてたし、自業自得か。


 まぁ、本人たちはあれで仲良く喧嘩してる感じだろうし、放っておいていいか。


 なんだかんだで楽しそうだしな。

 周囲は微妙な顔するかもだけど、本人が楽しければ、それでいいしな。


 ってか、話が逸れたというか、思考が逸れたというか……それに、何か引っかかるというか……。


 周囲からの評価と、自分自身の評価ってズレてることが多いんだよな……最近だと、美咲が特にそうだった。しっかり者だと思ってる周囲とそうじゃない自分。


「遥香も同じだったりするのか……?」


 だったら、そんな遥香の勘違いを解くには、アレしかないか。


 そうなってくると、平日の昼間の方が人は少ないし、そっちの方がいいか……あー、明日も学校をさぼることになるのか……。


「母さーん! 明日だけど、持病のエボラが悪化しそうだから学校を休むわー」


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 最後まで読んでいただきありがとうございました~

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