第十五話 私……最低だ……
「え……うそ……本当に?」
学年順位表を見た美咲がそう呟いていた。
「美咲……?」
思わず近くの席の遥香と目を見合わせてしまう。遥香の苗字は
「せ、先生! 本当にこれで合ってますか!」
「合ってるぞー、二重チェックで確認してるしな。ほら、自分の席に戻れ。次──」
肩を落として、トボトボとした足取りで美咲が自分の席に戻る。
その際、美咲の学年順位表が見えてしまった。
──24位と
「美咲……」
そして、遥香が学年順位表を受け取り、俺の順番が回ってくる。
受け取った遥香の表情は、嬉しそうだった。
つまり、俺の順位が一位じゃなくなってくるわけで──
「水瀬、今回はよく頑張ったな」
「……え?」
確認すると、
一位 水瀬鷹矢 295点
なるほど……まぁね?
分かってはいたけどね? 学年一位の座から陥落して、はや数週間。妹と風呂に入ったり、美咲と一線超えそうになったり、陽葵と揉めたり、と色々あった。
しかし、それでも俺は毎日、コツコツと勉強し続けたのだ。その結果、地べたを這いずり回る生活から俺は進化した! 勉学という名の翼を手に入れた俺の地位を脅かす者などもういない。
もはや、覚醒して上の世界(ステージ)に飛び立った俺に歯向かう奴なんて──
「まぁ、同率で一位になるなんて予想外だったけどな」
「え……?」
すると、ニヤッとした表情の遥香と目があった。
どうやら、向こうも一位のようだ……はぁ、引き分けかぁ。
ま、まぁ? 一位なのは事実だし、妹の雫にもそう自慢するか……同率なのは、内緒にして。
それから次に陽葵が呼ばれたのだが、受け取った瞬間、顔をしかめていた。そして、後ろを振り返ると、
「ねぇ、鷹矢って勉強できたわよね?」
「まぁ、一位だし?」
うーん、気持ちいい。これが勝者の余裕ってやつか。
ちなみに、俺の前の席が陽葵だったりする。
「ギギギギギ……あ、アンタねぇ……次のテスト期間中、気をつけときなさいよ」
「陽葵さんやー! それはちょっとダメなんじゃないですかねぇ!」
テストの点数で逆転するとかじゃなくて、物理的に妨害してくるつもりなの!?
そして、俺達が仲良そうに話しているのを、クラスメイト達は驚愕の表情で見ていた。まぁ、あんだけバチバチに揉めていたから、そりゃあ、珍しいわな。
「ご飯くらいなら奢るし、アタシにも勉強教えてよね……」
「おう、いいぜ。追試に合格しないと、補習があるもんな。今日の放課後でいいか?」
「理解が早くて助かる……よろしく頼むわ」
※
放課後。
「ちょっと鷹矢! どういうことよ!」
「え?」
終礼のHRが終わった途端、怒っています、みたいな表情をした遥香が俺のネクタイを掴んできた。
「遥香さんや……遥香さんや……?」
「なんで、三島さんと仲良くなってるのよ!? 何も聞いてないんだけどっ!」
「いや、それには色々とありましてですね……」
そう言えば、何も話してなかったな……ただ、事情を話すと陽葵がいじめられていたことを話さないといけないわけで……それは良くないから。
あれぇ? 何か、詰んでるくない?
「大変ね、た・か・やも」
そんな俺達を面白げに、陽葵がニヤニヤした表情で見ていた。
あいつー、面白がってわざと、俺の名前を強調しながら言ってんだろ!
「し、下の名前……あ、アナタ達まさか……」
あわわと、顔を青ざめさせる遥香。
うん、完璧に誤解しているのだけは伝わったよ。
そして、そんな遥香を陽葵が微笑ましいような目で見ていた。予想外のギャップに胸を打たれてるんだろうなぁ。
そんな風に話していると、美咲がこちらにやって来た。
「み、美咲……鷹矢が……」
「美咲? テストの事だけどさ……」
美咲が今回のテストに、凄く力を入れていたのは分かっている。一位じゃなくて、悔しい気持ちもだ。それは、実力テストで一位から陥落したからこそ、分かる。
だから、少しでも励ましたかったのだが
「鷹矢君は一位だったんでしょ……じゃあ、鷹矢君に私の気持ちなんて分かるわけないじゃん」
「み、美咲……?」
「私達の知らない所で、三島さんともコソコソやってたみたいだし。せっかくかばってあげたのに。どうせ、鷹矢君って私の事なんか──」
「そんなこと言うんじゃないわよっ!」
美咲の言葉に、怒声を発したのは陽葵だった。
いつも以上に、キッとつり上がった瞳は怒りに燃えていた。
「アタシと鷹矢に何もヤマしい関係なんてないわよ。アンタがどうしてそんなにショックを受けてるのか、アタシには分からない」
一転、燃え上がりそうになった火の粉を鎮静させるかのように、静かに話す陽葵。
今ばかりは、陽葵がかなり大人びて見えた。
「だからって、それは言っていい言葉じゃないでしょ。そうやって、八つ当たりした結果は、ろくなもんじゃないわよ……本当に」
陽葵の言う事は説得力があった。
でも、それは俺だから分かることだ。
案の定、美咲は
「──っっ!」
悔しそうに唇をかみしめていた。どちらが正しくて、陽葵の言っていることが正論なことくらい分かるから、何も言えなかったんだと思う。
「うるさいっ! 私は……私は……!」
そのまま、目尻に涙を溜めた美咲は、教室から飛び出て行った。
「美咲、待てって!」
慌てて、俺は美咲を追いかけた。後の事はまぁ、秀明が何とかしてくれるだろう、多分。
※
「何してんだよ」
美咲は屋上へと繋がるドアの前で、膝を着いていた。
屋上の鍵は開いてないから入ることができない。まぁ、秀明から借りれば入ることはできるのだが。まぁ、今はいい。
「ほら、立てるか?」
「私……最低だ……うっ、うぅ……」
美咲に手を伸ばしても、首を横に振るだけだった。今ばかりは、美咲がこのまま消えそうに見えてしまったので、俺も隣に腰を下ろした。
一人になるとしんどいしな。
それから、数分が経った後。
「今日は、一人になりたくない……私の家に泊りに来てよ……鷹矢君……」
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最後まで読んでいただきありがとうございました~
二章は、次話で完結です!
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