第十四話 コイツを独り占めしたいって気持ちが……

  

三島陽葵みしまひまり視点)


「ちょっと、アンタどういうことよ!?」


 鷹矢に助けてもらった翌日。 

 学校に着くと、私はさっそく呼び出されてしまった。場所は、人気のない体育館裏。勿論、カラオケ店で私をいじめていた相手だ。


「ど、どういうことって。そのまんまよ。何か文句あるわけ」

「っ!」


 いつもはビクビクしていた私が、今日は強気だったことに驚いていた。自分でも不思議なんだけど、何で前はあんなに怖かったんだろうって思う。多分だけど、何かあっても鷹矢が傍にいてくれるっていう安心感がアタシにはあるからだと思う。


「何よ、その態度は! ふざけんじゃないわよ」


 そんな私の態度が気に食わなかったみたいで、バチンと強く頬を叩かれてしまった。


 ヒリヒリするし、熱くて痛い。でも、ここは我慢だった。

 ムカつくし、本当はすぐにでも仕返ししたかったけど、我慢しないといけない所だった。


「や、やめてよ……!」

「はぁ? やめるわけないじゃん! ほら、前みたいなに泣けばいいじゃない。そうしたら、やめてあげるかもね、あはははは!」


 私が強気に言い返さなかった事に安心したのか、いじめ相手達は途端に、威勢が良くなった。


「イダッ……!」


 次は髪を強く引っ張られる。


「だ、だから……やめろって……」

「やめるわけないでしょ! いいアンタはね──」



「おい、何してんだよ!」



 その時、鷹矢と中村君が現れた。


「やっと来た……バカ」


 口調とは裏腹に、これで大丈夫だって安心感があった。そう感じだ瞬間、一気に体から力が抜けるようだった。


「なぁ、面白いもんが撮れたんだけど、見てみろよ」


 中村君の手には、スマホが握られていた。言うまでもなく、スマホの映像は私が暴力をふるわれていた映像だ。中村君が撮った映像に、いじめ相手達は顔を青ざめさせていた。


「あ、あんた……ま、まさか……!」


 そこでようやく、いじめ相手達はこの状況が仕組まれていたことに気づいたようだ。


 元々、鷹矢と中村君がいじめ相手達に、ガツンと言ってくれる予定だったんだけど、それは私が却下させてもらった。私がまいた種だから、私も何かしたかった。


 その結果が、いじめられている状況を動画に残すってことだった。鷹矢は反対してたんだけど、アタシが無理矢理、納得させた。


 だって、せっかく対等な友達になったのに、守ってもらうだけは嫌だったもの。


「アンタ達バカでしょ。普通に考えてアタシが何もしないで、ついていく行くわけないじゃない」

「~~っっ!」


 悔しそうに顔を歪ませるいじめ相手達を見てても、思いのほか、スッキリとした気分にはならなかった。他者を見下すことでしか、自分の優位性を保てないあいつらが、哀れに映ったからかもしれない。


「それで、どうするよ? この映像、学校に提出してもいいし、SNSにアップしてもいいんだぜ? そうなったら、どうなるか分かるよな?」

「や、やめ……」


 この動画が、SNSにアップされたら、炎上は間違いないし、個人は特定され、将来が潰れるのはまず間違いない。


「じゃ、どうすんだよ。俺達の友達をこんなにイジめて、そのままってことはないよな」


 アタシも初めて聞く、鷹矢の冷え切ったような声だった。体の芯から震えそうになる声だった。こんな時だっていうのに、アタシは不覚にも泣きそうになってしまった。


 鷹矢がアタシのために、ここまで怒ってくれたことに感動してしまったから。

 こんなに泣き虫だったっけ……我慢してないと、涙が零れそうだった。


「み、水瀬……? け、けど……コイツはあんたの事だってバカにしてたし……」

「それが、陽葵をいじめていい理由になんねぇだろっ!」


 鷹矢の怒声に、いじめ相手達はビクッと震えていて、足だってガクガクさせていた。それだけ、鷹矢の迫力が凄かったって言うのもあるんだけど、あのいつもニコニコしている鷹矢が、これだけ怒っているのが予想外すぎたんだと思う。


 そして、それはアタシも同じだった。


「大丈夫か」


 アタシに声をかけてきたのは、中村君だった。


「う、うん……」

「にしても、鷹矢のマジ切れって初めて見るけど、あんなにこえーのな」


 中村君も、かなり驚いていたようで、いつものヘラヘラした表情じゃなくて、真面目な表情だった。


「まぁ、後のことはあいつに任せておけば大丈夫か。知ってるか? こういう時の鷹矢ってな、びっくりするくらいに頼りになるんだぜ? 男の俺でも惚れ惚れするくらいにな」


 それは私も同感だ。


 本当に、惚れ惚れするくらいに……って、何考えてんのよアタシは! 

 もーう……それでも、心臓がバクバクして止まらなかったし、しばらくの間は、止まることがないんだろうなって思った。


 だって──。


「す、すいませんでした! もう二度と近づきませんし、話しかけません……し、失礼します」


 アタシと中村君が話してる間に、鷹矢が話をつけたようだ。その証拠に、私に頭を下げて謝罪していた。そして、すぐにどこかに行ってしまった。


 鷹矢の奴、どうやって話をつけたんだろ……怖いし、聞くのはやめとこ。


「久しぶりに熱くなってたな鷹矢」

「茶化すなよ……俺だって、らしくない事をした自覚はあるんだから」


 中村君の言葉に、鷹矢が恥ずかしそうに視線を逸らしていた。


「別に照れなくていいだろー」


 肩に手を回す中村君が、鷹矢の頬をグーにした手で、グリグリしていた。


「あ、あの……鷹矢」

「ん?」

「本当にありがとう!」


 今の私ができる最大の感謝を込めて、お礼を言った。自然と、頬も緩んで笑顔になってしまった。


「それと、これからはアタシとゲームとかしてよね……それに、アニメとかラノベの話とかも」

「おう、勿論な。あ、あいつも誘ってみるか……」


 あいつって、誰の事? まぁ、鷹矢の紹介する人だから問題ないか。

 鷹矢の肩に腕を回す中村君がうらやましくて、アタシも鷹矢の肩に腕を回した。


「ちょ、ちょっと! 陽葵さん!?」

「何よ、アタシ達は友達だから別にいいじゃない!」

「お、三島もいい事言うじゃねぇか!」


「「うぇーい!」」


「何か、キミ達めっちゃ仲いいですね!」


 中村君とハイッタチすると、鷹矢がツッコミを入れる。そして、それに笑うアタシ達。何だか、そんな関係性が凄く嬉しくて、幸せだなって思った。


 だから、これくらいいでしょ? 


 アンタを独り占めしたいって気持ちを我慢してるんだからさ。

 心臓のドキドキを無視しながら、心の中でそう呟いた。


             ※


水瀬鷹矢みなせたかや視点)


「今から学年順位表を配るから、みんな静かにしろよー!」


 陽葵関係のことが終わった日の終礼のHR。


 先生の言葉に、クラス中の生徒がビクッと震えていた。勿論、俺もその一人だった。当然、美咲もだ。しかし、遥香は流石で、余裕ある感じだった。


 すげぇ……どんだけ勉強したらその境地に到達できるんだ……。


「じゃあ次。五十嵐」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 裏返った声を出す美咲は、遠目から見ても、緊張しているのが伝わってきた。


 一体、美咲の順位はどうだったんだ……。勿論、一位を譲りたくはないんだけど、いっぱい、いっぱいになって努力をしていたのを知っているわけで……うーん、複雑だぁ。


「え……うそ……本当に?」


 学年順位表を見た美咲がそう呟いていた。


──────────────────────────────────────


 最後まで読んでいただきありがとうございました~

 遅くなってすいません……

長かった二章もあと、二話で完結でございます!

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