第十三話 三島さんちの陽葵ちゃんのお話(下)
アタシは外見が派手なギャルだって自覚はあるし、そんな奴がオタクだって言っても信じられないと思う。それに、オタク趣味が好きな人たちと、アタシみたいなタイプは、相性がよくなかった。
多分、それが今のアタシを形作った大きな要因になったと思う。
アタシがオタクに目覚めたのは中学の頃。
ユーチュームの動画で、アニメの切り抜きみたいな動画を見たのがきっかけだったと思う。その切り抜き動画に感動して、本編を全部見たら、そこからはすぐだった。
そっから、サブスクに登録してアニメをたくさん見て、ラノベも読んで、好きなvtuberさんに投げ銭して、すごく充実した時間だったと思う。でも、その頃からアタシはギャルだったし、性格だってズバズバと言う方だったから、オタクの子達とはあまり合わなかった。
別に、アタシは見下してたり威圧してるわけじゃないんだけど、向こうが勝手にビクビクして、接点も上手く作れなかった。
でも、やっぱり好きなアニメやラノベ、ゲームの話はしたかった。だけど、上手くいかなくてモヤモヤした。ツブヤイターとかにアニメの感想とか投稿して、そこでリプくれた人と会話してると、少しは我慢することができた。
でも、やっぱりクラスの子と話がしたくて、アタシは勇気を出して話しかけた。
「ね、ねぇ……そのゲーム、アタシもしてるんだけど、一緒に協力プレイしな……い?」
私がオタクグループの子に話しかけた瞬間、一気にクラスの空気が凍ってしまったのは今でも覚えている。
中学の頃って、今以上に周囲への警戒心みたいのが強かった。今いる輪を飛び出すだけで、敵意を向けられるっていうか、歓迎してもらえないって言えばいいか。
クラス内での棲み分けみたいなのがハッキリしていたんだと思う。
案の定、上手くいわけもなくて。
「え、えーと……その……」
オタクの子達も、アタシが話しかけてきた事が予想外だったようで、凄く気まずそうだった。それでも、少しずつ仲良くなっていけるのかなって、思ってたんだけどそんなことなかった。
何回か協力プレイしても、オタクの子達は居心地悪そうにしていたし、視線も合わせてくれなかった。それに何回も謝られるのが、妙にイライラしてしまった。
すると、自然と疎遠になってしまった。
それに、アタシと仲良かった友達も、アタシの見る目が変わったのはよく覚えている。
「え、なんで遊びに行ったのに、アタシだけ誘ってくれなかったの?」
「なんでって……ねぇ?」
友達だと思っていた子達が、見下したような嫌な笑みで笑っていた。同じグループなのに、みんながアタシを笑っていた。確かに、アタシはオタクだけど、ファッションや化粧だって好き。
だから、そんな風になるなんて、全然思ってなくて、頭が真っ白になるような感覚だった。
「陽葵ひまりは、あっちで陰キャたちと話してたらいいじゃん。きっとお似合いだって」
一人がそう言うと、またみんながニヤニヤと嫌な笑みで笑う。
アタシ達は友達じゃなかったの? なんで急にそんな……。
悲しくて、何か急に自分の趣味が恥ずかしいと感じてしまって。
それから、アタシがハブれて、一人になるのはすぐだった。
そして、この日からアタシにとっての地獄が始まったのだと思う。
私物を隠されるのは当たり前。それで、アタシの好きなラバストも何回か無くなってしまった。水をかけられたこともあるし、靴に画鋲が入ってたこともある。アタシに聞こえるように、陰口だって何回も言われ続けた。
好きな物を否定されて悔しかったけど、いじめ相手に抵抗するだけの強さは、アタシにはなかった。結果、アタシは中学の途中から不登校になってしまった。
そんなアタシのために、ママは家庭教師を呼んでくれたり、色々としてくれて、何とかアタシは高校に入学できた。
中学の知り合いが誰もいない学校を選んで、隙をみせないようにして、必死だった。それでも、オタク話してる奴らがうらやましかった。
「やっぱりクロだよなぁ……」
「そっちの作品だと、俺はモモの姉が好きなんだよなぁ」
特に、水瀬には嫉妬したと思う。
あいつは陰キャでオタクなくせに、陽キャな中村君と楽しそうに何度も話していたから。ずるいって思ってしまった。
だって、アタシが中学の頃にはそんな友人いなかった。そんな二人の関係性に嫉妬してしまった結果が、レクリエーションの班決めの時の騒ぎだった。
特に、五十嵐さんは水瀬に片思いしているようだったから、余計に良くなかった。
加えて、事故とはいえ、アタシは五十嵐さんにケガまでさせてしまった。クラスでみんなから頼られている五十嵐さんと、気が強くて性格の悪いギャル。
同じグループの子から切り捨てられるのはすぐだった。だって、こんなアタシと仲良くしていると、クラス内での居心地が悪くなるから。
そっからは、嘘の混ざった変な噂が立って、誰もアタシと目を合わせてくれなくなった。結果、中学の頃と同じようにイジめられてしまった。
でも、自業自得だと思ってしまった。
だって、中学の頃に上手くいかなかった事を水瀬に八つ当たりしたんだから。
ああ、これはきっと自分への罰だと思った。
だって言うのに、アタシを助けてくれたのが水瀬だった。
※
(水瀬鷹矢)
「──ってわけよ……だ、だから……その……」
そこで、言葉を区切った三島さんは気落ちした表情を浮かべていた。
まぁ、昔の事を思い出したら嫌な気持ちになるわな。
「ご、ごめんなさい……アタシはアンタに八つ当たりして、ひどいこと言って、たくさん迷惑かけた……本当なら、アタシは許されないって分かってるし、今更、ずうずうしって言うのも分かってる……」
「いや、もう終わった話だし、いいってば」
首を横に振る三島さんの目尻には涙が溜まっていた。
ったく、不器用な奴だな。
三島さんとの件はとっくに終わってると思ってるし、話を聞けば三島さんをあっさりと裏切った奴らの方が悪いだろう。
三島さんをいじめていい理由にもならないしな。
それにだ。
「中学の頃も、高校の頃もみんな、嫌な奴ばっかりだったな。好きな物を好きって言って、何が悪いんだよって話だもんな」
「あ、アタシは……本当に最低だった……ごめんなさい……」
頭を下げて謝罪する三島さんに、何て声をかけたもんかって思う。
その時だった。
インターホンの音が鳴った。勿論、相手は秀明だった。
モニター越しに、秀明に声をかけると、すぐに家に入ってきた。
「一体、何があったんだよって……って、なんで三島がここにいるわけ? しかも風呂上りだし」
俺の鞄やらを持ってきた秀明が、まさかの人物に目を丸くしていた。
「もしかして鷹矢。前に言った一緒にスッキリするっていうのを……」
「んなわけあるか!」
普通に考えて、ナニかあったに決まってんだろ!
※
「ふーん、なるほどなぁ……」
秀明の言葉に、ビクッと肩を震わせる三島さん。
あれから、秀明にも事情を話したのだ。
「とりあえずさ、三島はこっちむけよ」
「う、うん……」
気まずそうな表情を浮かべる三島さんに、秀明も頭を下げた。
「俺も何も知らないのに、性格ブスとか言って悪かった。このとおりだ」
「ちょ、ちょっと! 頭をあげてよ……悪いのはアタシなんだから」
秀明の行動に、三島さんは非常に焦っていた。まぁ、秀明が急にこんなことしたらびっくりするわな。だけど、秀明はこういう奴なんだよ。
人が良くて、素直で、ノリが良くて、器用で、イケメンで。
うーん、完璧すぎる……。
「だとしても、ケジメつけとかないといけないだろ。だって、鷹矢が許したんだろ。それなら、今日から俺達は友達ってことになるからな」
頭をあげた秀明は、
「ごめんなさいとかなしにして、今日からは仲良くしていこーぜ」
ニカッと、三島さんに笑うのだった。
「う、うん……ありがと!」
そんな秀明に言葉にパッと表情を明るくさせる三島さん。
分かってたとはいえ、やっぱりこういう時の秀明って頼りになるんだよなぁ。
「み、水瀬もよ、よろしくね……」
「おう、よろしくな三島さん」
「もうそれはいいから」
「え?」
「だから、三島さんじゃなくて陽葵って呼んでよ。アタシも鷹矢って呼ぶから……いいでしょ」
「わ、分かった……陽葵」
「う、うん……鷹矢!」
何か、陽葵を下の名前で呼ぶのが照れくさかった。まぁ、慣れるまでの辛抱だな。
気のせいか、陽葵が俺の名前を呼ぶ際の声のトーンが高かった気がする。
「あ、あー……俺はお邪魔虫だったりするのか」
「は? 何でそうなるんだよ」
秀明が突然、訳の分からないことを言い始めた。
「まぁ、いいか……で、相棒? これからやることは?」
「そんなもん、一つに決まってんだろ」
むしろ、秀明は分かってて聞いてるだろ。
そして、そんな俺の言葉に秀明は嬉しそうに笑って、陽葵は、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「ちょ、ちょっと! どういうことよ……アタシにも分かるように説明してよ!」
「だって、俺らの友達がひどい目にあったんだぜ。そんなもん、助けてやるに決まってんだろ。な、鷹矢?」
「おう、陽葵。後は俺達に任せておけよ」
──────────────────────────────────────
最後まで読んでいただきありがとうございました~
これで本当に、二章の終わりが見えてきました!
順当にいけば、美咲ちゃん章はあと三話で終わりでーす
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます