第五話 水瀬君、照れてるんでしょ~
「それじゃ、バスの中で話した通りに分かれて、準備を始め良かっか!」
いつもよりテンションの高い美咲の声がキャンプ場に響く。
本日は、クラス親睦のレクリエーションでキャンプ場に来ていた。
「分かった。じゃ、中世古。俺達は先に火おこしの準備初めてよーぜ」
「ええ、そうしましょうか」
キャンプ場の門をくぐり抜けてから、俺達のクラスは、班ごとにテーブル付き常設炉に分かれていた、美咲の言う話した通りというのは、火おこし係、食材係のことを指す。
なお、火おこし係が秀明と遥香、食材係が俺と美咲だ。まぁ、俺と美咲じゃないと、危なくて包丁も握らせられないからな。
「じゃあ、私達も行こっか」
「あいあい」
本日使う食材を持って、併設された野外炊事場に来ていた。
今日作るのは、結構前にtoktokで流行ったペッパーライスだ。それと普通に、野菜と肉を炒めようって事になっていたんだが──
「ど、どうしよう! 皮むき器ないって!」
「ちょっと、男子邪魔だってー!」
「かぼちゃって、こんなに硬いの……切れない」
炊事場では、地獄絵図が広がっていた。
当たり前っちゃ、当たり前なんだが、普段から料理をした事がない人が大勢いるわけで、てんぱっている人が多かった。特に、包丁で野菜の皮を切る生徒を見て、少しヒヤッともした……指を切らないといいんだけど。
それは美咲も同様だったようで。
「あー、鷹矢君。ちょっと手伝った方がいいかもね」
「うん、俺も同じこと考えてた」
俺の返事に、嬉しそうな顔をした美咲は、すぐに同じクラスの子の場所に行った。
にしてもまぁ、美咲って、しっかりしているし、面倒見もいいし、本当にすごいのな。
改めてだけど、なんでこの子が俺のことを──
「邪魔」
「あ、ああ悪い……」
振り返ると、ギャルの三島さんが鬱陶しそうにこちらを睨んでいた。
手には野菜を持っており、これから下準備を始めるようだった。
「あ、あー。俺も手伝うか?」
「……いい。弟の面倒も見てるし、これくらい大丈夫だから」
そう言い残すと、三島さんは一人で手際よく料理を始めていた。
基本、二人一組で炊事場を使うはずだ。チラッと常設炉の方を伺うと、三島さんの班と思われるメンバーが、三人で火おこしをしていた。
まぁ、慣れてるんだったら一人の方が良かったのか?
※
「ジャガイモは、皮を厚めに切っても大丈夫だから。包丁を動かすんじゃなくて、野菜を動かすことを意識して。そうじゃないと、指を切っちゃうし」
「う、うん……頑張ってみるね」
「うん、ゆっくりでいいからな」
あの後、俺もすぐ近くのクラスメイトに声をかけて、手伝っていた。
不慣れな手つきで、一生懸命に野菜の皮を切るクラスメイトを見てると、俺も去年はこんな感じだったなぁ、と何かしみじみとした気持ちになっていた。
「見て、見て! できたよ、水瀬君!」
クラスメイトの平沢さんは、小動物のようにぴょこぴょこと跳ねながら嬉しそうにしていた。跳ねるのに合わせて、ツインテールもぴょこぴょこと動くもんだから、さながらウサギのようだった。
「分かった、分かったから。落ち着いて」
そんな姿が可愛くて思わず苦笑してしまう。
「ねぇ、ねぇ、次はお肉の切り方を教えてよ~」
「ああ、そりゃあ勿論」
と言っても、肉って切り方に教え方があるっけ? まぁいいか。
そのまま肉の切り方を教えようとしていたら、手を汚したクラスメイトがうろうろと徘徊していたので、横にずれた。
「手を洗うんだろ? ほら」
「あ、ありがとう……気が利くじゃん!」
手を洗いながら、瀬川さん? がお礼を言ってくれる。名前、あってたっけ……。
「水瀬君ってさ、料理慣れてるよね。っていうか、キッチンに立つことにかな」
「分かる~! さっきもね、野菜の皮むきとかめっちゃ早かったんだよ! 凄いよね! こーう、タタタッ! って感じだたんだよ!」
感心した様子の瀬川さんが、憧れのような視線を俺に向けてくる。それに、同意するように平沢さんもキラキラした視線を俺に向けていた。
「あ、ああ……俺の家って、父さんと母さんが仕事で家を空けることが多いから、晩御飯作ってたから……なんだけど……」
「ん? どしたの水瀬君?」
俺のドモリ始めた態度を不思議に思った平沢さんが上目遣いで見てくる。
そんな視線を直視しできなくて、逸らしてしまった瞬間、瀬川さんの表情がニヤ~ってしたのに切り替わる。
「あ、分かった! 水瀬君、照れてるんでしょ~。陰キャ君には、刺激が強かったかぁ~」
からかうように話す瀬川さんだけど、嫌な感じはなかった。むしろ、俺をからかって楽しんでそうだ。というか、表情から間違いなくそう。
「ほれほれ~、そんな態度も可愛いのぅ~」
「ちょ、ちょっと! 勘弁してよ」
頬を突いて来る瀬川さんから逃げるように距離を取った時だった。
腕を誰かに抱かれてしまったのだ。当然、隣にいたのは小動物系女子の平沢さんしかいないわけで。
「もーう、水瀬君が困ってるでしょ。いい加減にしなよ」
平沢さんが、俺の事を庇ってくれた。ただ、腕を抱かれると体が密着してしまうわけで、甘い匂いとか胸の感触とかが……あわわわ。
「そんなこと言って、そっちだって腕を抱いてるじゃん。あんた、料理上手な人が好きだもんね~」
「ちょ、ちょっと! 今はそんなこといいでしょ、もーう、あっち行こ、水瀬君」
顔を赤くしつつ、平沢さんが頬を膨らませていた。
「で、でさ……また今度良かったら、料理とか教えて欲しいなって……も、勿論、水瀬君の都合がいい時でいいし、私も絶対に予定を合わせるしさ……」
チラチラと視線を逸らしながら、喋る平沢さん。
「料理? そりゃあ、いいけど──」
まぁ、料理を教えるくらいなら、そんなに手間でもないしな。美咲に教えてもらったことを、俺が別の誰かに返していけるなんて、なんて師匠孝行なんだろうか。
俺も成長したな……。
そんな風に自分の成長に感動していると。
「へぇー、その話楽しそうだねぇ、私も混ぜてよ」
菩薩のような笑みを浮かべた美咲が、なぜか青筋を浮かせながらこちらを見ていた。なんでか分からないけど、怒っているのは分かった。
こーう、蛇に睨まれたカエルの気持ちって言えば伝わるのだろうか。
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最後まで読んでいただきありがとうございました~
昨日は勝手に更新を休んで申し訳ないです……
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