第三話 ほら、早く一緒にお風呂に入るよ!

「分かってるわよね、鷹矢?」

「そっちこそ、負けた時の言い訳はできてんだろうな!」


 三島さんとの一件があってからの数日後。

 

 俺と遥香は闘志を燃え上がらせながら、にらみ合っていた。

 クラス親睦会のレクリエーションを翌日に控えた今日。この後、新学年実力テストの点数と順位が記載された──学年順位表が返却されるのだ。


「あら、たった一回奪取したくらいで、えらい調子に乗るじゃない?」

「そんなこと言っても、暫定一位は俺なんだよなぁ」

 

 一年の学期末テストで、遥香から一位の座を奪取してから、初めてのテストだ。せっかく一位を取ったから、このままキープし続けたかった。何よりも、三人の好きに対して向き合うって決めた日から、誇れる自分でいたかった。


 ただでさえ、陰キャだとか色々、言われてる俺だ。三人の誰かと付き合う事になった時だって、俺のせいで彼女が馬鹿にされるのは嫌だった。


 実際、三島さんの件がそうだった。俺がもう少ししっかりしていれば、馬鹿にされることも、揉めることもなかったんじゃないかと思うのだ。

 だからこそ、目の前のことに全力で頑張ろうと思う。

 

 何よりも前回、一番を取ったから今回だって行けるはず!


「二人とも、よく実力テストでそこまで本気になれるね……」


 そんな俺達を見て、美咲は呆れたようため息をついていた。


「そうかしら? 負けたままっていうの悔しいじゃない? どれほど私が悔しかったか……」


 頬を膨らませながら、悔し気な表情を浮かべる遥香だけど、可愛いだけだった。

 実際、そんな遥香に男子達が数人、見惚れていた。


「遥香も本当に負けず嫌いよね……」

「そんなことないと思うわ。誰だって、負けたままは嫌じゃない」

「いや、そういう所が負けず嫌いなんだって」


 俺も美咲の意見に同意だった。

 絶対に負けず嫌いだろ。こういうタイプって絶対、ゲームとかしたら勝つまでやるに決まっているんだよな。


 遥香と勝負事はテストだけにしておこう、うん。

 脳内にメモメモ~。


「そういう美咲はどうなんだよ?」


 美咲もなんだかんだで、成績上位者と言っていいくらいの成績だったはずだ。


「私? 実力テストはほどほどにするつもりかな」


 そこで言葉を区切ると、美咲の表情が一気に強張った。まるで、見ているこっちが怖いと思うくらいに真剣な表情になると


「でも、中間テストは全力でやるつもりよ。勿論、一番を狙ってね」


 と言うのだった。


「そ、そうか……」


 何か、えらく燃えているのな。

 そして、チャイムの音が鳴ると担任の先生がやってきた。


             ※


「じゃ、次。水瀬」


 先生に呼ばれ、学年順位表を受け取りにく。

 すると──


 24位 水瀬鷹矢 248点


「え、うそ……」

「水瀬~、前回の順位はまぐれだったのか。まぁ、次頑張れよ」


 担任の先生が何かを言っていたが、よく聞き取れなかった。


「俺が24位……? え、先生……何かの間違いじゃ……」

「確認したけど、間違いでもなかったよ。ほら、早く自分の席に戻った、戻った」


「え、水瀬が24位?」

「やっぱり、前回の成績が奇跡だったんでしょ」 

「まぁ、やっぱり一位は中世古さんだよねぇ」

 

 どうしてこうなった……?


 目の前が真っ暗になるような感覚だった。

 三人のためにも、勉強を頑張るって決めてたはずだ。だからこそ、俺は頑張ってたつもりだったのに……いや、つもりだったから……?


 正直、1位が無理でも上位5位以内には入ってると思ってた……。


「おい、大丈夫か鷹矢」


 顔を上げると、秀明が俺を覗き込んでいた。


「あ、ああ……ま、まぁ……仕方ないよな……うん」


 何か申し訳なくて、美咲や遥香の顔が見れなかった。


            ※


「おかえり、おにい~。今日はママもパパも仕事で遅くなるって」

「そっか」

「どうする? 二人でお風呂に入っちゃう?」


 からかうように雫が尋ねてくる。

 でもだ。


「悪い、今日はそんな悪ふざけに付き合ってる気分じゃないんだ」

「……おにい?」


 雫にそう伝えると、俺は自室に行った。部屋の電気もつけないまま、ベットに沈み込むように倒れた。肌に伝わる布団のひんやりとした感触が心地よかった。


 意識がまどろむ中、天井をボーッと眺めると宙に浮いているような沈んでいるような感覚だった。


「どうしてこうなった……」


 油断してたから? いや、勉強自体はしっかりとやったと思う……思うけど、結果がこれだった。じゃあ、何が原因で……いや、分かってる。


 原因は一つしかない。


 一年の頃と違って、俺には必死さが足らなかったからだ。


 あの時は、雫と仲良くなりたいって気持ちが大きかったから、寝る間も惜しんでやった。けど、今回はどうだった? 前日に十分すぎるほど眠った。もっと勉強する時間があったはずだ。


 もっと、もっと。頑張れる時間はあったのだ、クソッ!

 思わず、手元にあったぬいぐるみを壁に投げつけた。ってか、なんで雫のが俺の部屋にあんだよ……。


 胸の中がチリチリと燃えているような、嫌な感覚だった。

 こんなんじゃ、俺は三人に──


「おにいー! いつまで拗ねてんのー!」


 快活な声と共に、真っ暗な部屋に光が差し込んできた。思わず眩しさに目を細めてしまった。どうやら、廊下の照明が原因のようだ。


 そして、ドアを開けてきたのが雫だった。


「ほら、早く一緒にお風呂に入るよ!」

「…………は?」


──────────────────────────────────────


 最後まで読んでいただきありがとうございました~

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