陰キャだったせいで、義妹が陰口を叩かれていたので、努力してカッコよくなったらモテてしまった~事故で義妹とキスしてからクラスの美少女たちの様子がおかしい~
第7話 エロゲの友人キャラって超いい奴だよねって話
第7話 エロゲの友人キャラって超いい奴だよねって話
告白をされてから三日後の月曜日の朝。
「おにいー! 早く学校に行こ!」
玄関から、雫は満面の笑みで手を振ってくる。
「え……いや、いい……今日は一人で行くから、雫も一人で行けよ」
「え、なんで!? おにいも一緒に行こうよ! 手を繋いでさ、腕も組んでさ。美咲ちゃんたちをさ──」
ニシシと、いたずらっ子のような表情を浮かべた雫は、悪だくんだ提案をしてくる。
「と、とにかく今日は一人で行ってくるから! そ、そう! 今日は日直だからな!」
「え、ちょっ! おにい──」
雫の声を半ば無視して、俺は一人で一足先に学校に行った。
ったく、何やってんだ俺は……。
雫以外の二人から、告白されて、頭がいっぱいいっぱいだった。
二人の告白に返事できないどころか、雫からの告白にだって、あやふやにしているからこそ、顔向けできなかったのだ……。
※
それから、学校に着いて、自分の席から空をボーッと眺めていた。
今なら分かる。悩み事をしてる時に、海を眺める人の気持ちが。そりゃあ、現実逃避したくなるよな。まぁ、そんなことを考えても仕方ないわけで……。
「ねぇ、中世古さん。今日の放課後って暇? うちら、カラオケに行くんだけど良かったらさ──」
「ごめんなさい。今日は生徒会の仕事があるのよ。それに……」
チラッと、遥香の視線が俺に向く。
「んー? ああ……なるほど。そういうことか。ならね──」
「そ、そんなんでいいいの! もっと詳しく」
「もちもち。いい──」
「おはよ、鷹矢」
振り返ると、秀明が立っていた。
「中世古もさ、ちょっと変わったよな?」
「え、なんだよ急に?」
「だってよ、前までは誰かとああいう風に話してたり、誰かに頼ることってなかったろ。今の方がグっと親しみやすいしな」
嬉しそうな表情をする秀明。
一体、何がそこまで秀明を喜ばせるんだろうか。まぁ、遥香が変わったって言うのは、正直、分かるような、分からないようなって感じだ。俺個人としては、タイミングがなかっただけで、今の遥香が素の性格だと分かっているからだ。
人懐っこくて、素直で、ピュアだからこそ、やりすぎてしまうような。
そう言えば、どうして遥香は前みたいな性格をしてたんだ? まぁ、色々あるのかもな。
「こりゃ、鷹矢もうかうかしてたら、誰かに盗られちまうかもな?」
茶化すように、秀明が話しかけてくる。
どういうことだ? 昨日の告白に関しては、秀明は知らないはずだ。
いつも通りにふざけてるのか?
「悪いけど、今は悪ふざけに付き合ってる気分じゃないんだよ」
「? いや、そうじゃなくてよ……ほら」
秀明の指す視線の先には、遥香をチラチラと伺う男子の姿が多くあった。特に、クラスの中心にいる陽キャ男子は、話しかけるタイミングを伺っているのが、遠目でも分かった。
「来週はクラス親睦のレクリエーションがあるしな。そりゃ、みんな必死だわな……お、噂をするとだな」
秀明の言葉が耳に届くような、届かないような。
「ね、ねぇ……鷹矢? 来週のレクリエーションだけど──」
遥香の声が聞こえるような気がする。気のせいかもしれない。
そんなことよりもだ。
秀明が言っていた必死という言葉の意味は聞かないでも分かる。
話しかけやすくなった遥華とペアを組みたいんだろう。
俺の事を好きだって言った遥華は、誰とペアを組みたいんだ? 俺か? それとも美咲? それとも新しい友達?
でも遥香が、他の男子と組むのは嫌だなって思ってしまった。遥華だけじゃない。美咲もだ。
そんな自分がたまらなく嫌になった。
頭の中でグルグルと色々な何かが回っていく。
三人に告白されて返事もしないまま。
金曜日に告白されたんだから、土曜日か日曜日にも返事ができた。それなのに俺は、何もしなかった。むしろ、俺はもらってばかっりだ。
遥香には勉強を教えてもらった。
美咲には料理を教えてもらった。
そのきっかけは全部、雫がくれたものだった。
一体、俺は何様なんだよって……思わずにはいられなかった。
「──ど、どうかしら? 鷹矢? ねぇ、鷹矢ってば!」
「えっ? 遥香……?」
「どうしたの? 大丈夫かしら?」
顔を上げると、遥香は心配そうな顔で俺の事を覗き込んできた。
遥香は、俺のおでこに手を当てると、自身のおでこの体温と比べていた。
「んー、熱はなさそうね……体調が悪いなら、保健室にでも行く? 家に帰るなら付き添うし、看病もするけど……って、どうして私の顔を見ないのよ?」
「鷹矢君の体調って悪いの?」
次に声をかけてきたのは、美咲だった。
「それが良く分からなくて……」
「? おーい、鷹矢くーん。あなたのことが大好──」
──ガタン
「好き」という言葉が聞こえそうになった瞬間、勢いよく立ち上がったせいで椅子が倒れてしまった。その言葉を聞きたくなかったからだ。
「っっ! ……ごめん」
遥香と美咲が心配してくれてるって言うのに、かろうじて出た言葉が謝罪の言葉だった。
「な、なんで鷹矢が謝るの……? ねぇ、中村君?」
「んー。鷹矢、ちょっと俺に付き合え」
そのまま、秀明は俺の手を強引に引っ張って行く。
「おいっ、何するんだよ! 今から授業だろ」
「別に一回くらいサボったって、大丈夫だって。たまにはいいだろ」
良くねーよ!
「おい、お前ら! 今から朝のHRだぞ。一体、どこにいくつもりなんだ」
ほらぁ! 案の定、先生に見つかった。
「俺達、持病のエボラが発覚したので、今日は早退しまーす!」
「もっと他に理由あっただろ……あーもう!」
結局、秀明に連れられるまま、俺達は先生から逃げて学校をさぼった。
まぁ、たまにはこんな日があってもいいか。
※
秀明に連れられて、校門を抜ける。
騒がしく、慌ただしい街の波に揺られながらただ黙って秀明の後を着いていく。どこに向かっているんだろうか?
それでも、今のごちゃごちゃした気持ちに吹き抜けてくる春風は心地よかった。澄んでいくような気分になる。
「なぁ、秀明? どこに向かってるんだよ」
「んー、知らね」
「おいっ!」
学校をさぼってまで歩いてるんだから、どっか目的地があると思ってたよ!
そんな俺に、秀明は腹を抱えながら、爆笑していた。
「お前なぁ……」
何か爆笑している秀明を見ていると、腹立たしいやら、おかしい気持ちになるやら、変な気分だった。
「どうだよ? 外の風を吸って、歩いたら少しはスッキリしたか?」
クシャッとはにかんだような笑みを浮かべる秀明。
秀明は、秀明なりに俺のことを考えててくれてたんだよな。
「……めっちゃスッキリした。サンキューな」
クソゥ……こいつのこういう所、カッコイイよなぁ。だからこそ、女遊びできるくらいモテるのも分かる。まぁ、不誠実すぎるのもどうかと思うんだけど……いや、俺もあんま人の事言えないか……。けど、本当に秀明っていい奴──
「気にすんな。まぁ、お前が童貞じゃなかったら、一緒に女でスッキリしようと思ってたんだけどな」
と思ったけど、そうでもないな! ってか、初めてを秀明に見られるとか嫌すぎるだろう……そもそもでだ。初めては、好きな女の子って決めてるんだよ、俺は。
きっと、秀明のこういう部分で、相殺されるんだろうなぁ。
とりあえず、今はもっと優先することがある。
「秀明!」
気分を入れ替えるために、できるだけ大きな声を出した。
「おうっ! どうした?」
「腹減った。飯、食いに行こうぜ!」
「一発目がそれかよー! よっしゃ、バイト代も入ったし、飯奢ってやるよ」
それから、秀明とファミレスで飯を食いながら、くだらない馬鹿話ばっかりした。
秀明の女を抱いた武勇伝とか、お互いの好きなエロ動画に好きなAV女優、アニメの話に、学校の話、とにかく何でも話した。
秀明は、今日の事ついて何も聞いてこなかったし、そんな素振りすらなかったのが、心地良かった。兄貴分っていうか、面倒見が良いというか。コイツといると、何か安心できるんだよなぁ。
「そんで、こっからどうするべ。まだ、どっかで遊ぶか?」
ファミレスでずっと話し続けて、気が付けば、三時間以上経っていた。
時刻はお昼すぎ。丁度、昼食後の授業が始まってるくらいだろう。
「んー、悩むなぁ……」
「決まらない感じなら、鷹矢にオススメの場所があるぜ」
「お、マジでか! 案内してくれよ」
「おっしゃ、任せろ」
俺の反応に、自慢げな表情をした秀明が、早速オススメの場所へと案内してくれたのだが──
「なぁ、何で学校よ?」
俺達はなぜか、学校へと戻っていた。
「ばっか、分かってないなー鷹矢は。学校で他の生徒がいけない場所が一個だけあんだろ?」
「? どこだよ、そんな場所……あ、もしかして」
「へへへ、見ろこれを!」
秀明がポケットから出したのは、ネームタグの付いた鍵。タグには、屋上と書いてあった。
なんで屋上の鍵を持ってんの?
※
それから俺達は、施錠された屋上の鍵を開けた。
瞬間、勢いよく流れ込んできた風に洗われるような、不思議な感覚だった。
給水タンクに繋がるはしごを昇って、タンクの隙間にできた小さなスペースで寝転がった。
「なぁ、秀明」
「んー?」
寝転がりながら、スマホを触っていた秀明が返事する。
「真面目な話するけど、笑うなよ?」
「真剣な話なんだろ。わらわねーよ」
ありがとうな。
「好きって、なんだと思う?」
「だーははははは!」
俺が尋ねた瞬間。秀明は腹を抱えながら笑い出した。
「おまえぇ! 笑わないって言ったろ!」
「ばーか! そんな風に切り出されたら笑うに決まってんだろ~、ゲヘヘ」
「相談する相手を間違えたよ!」
クソウ……恥ずかしい!
自分でも顔が真っ赤になっているのが分かった。恥ずかしすぎて、少し汗も出ていた。
「あ、あー……あのな鷹矢? いきなり、どうしてそんなことを言い出したんだよ?」
プルプル震える俺を見かねたのか、秀明が聞き返してくる。
「三人の内の誰かに告白でもされたのか? 雫ちゃん、中世古、五十嵐」
「……なんで分んの?」
一周、回ってちょっと怖いよ。
「いや、お前の反応見て、お前のことある程度知ってて、雫ちゃんの態度の変わりよう見たら分かるだろ。とりあえず、話してみろよ」
「それがさ──」
俺は自分が返事を出せなくてモヤモヤしていること、そのせいで申し訳ない事とか、色々、話した。その間、秀明は黙ったまま、話を聞いてくれていた。
「いやぁ、童貞の考える事って、クソ真面目なんだな。見てる分には面白いけど、疲れるだろ、そんな考え方をしてると」
「え?」
てっきり、さっさと返事してやれよ、とか言われると思っていた。
意外な返事だっただけに、驚いてしまった。
「だってよ、告白したのは向こうからなんだろ。その上で、返事をして欲しいとも言ってないんだろ?」
「う、うん……」
「だったら、いいじゃねーか。お前が好きなだけ待たせれば」
「けど、それはダメだろ! 何て言うか、向こうの気持ちをいいようにしているみたいで、不誠実って言うかさ」
それに多分、俺が答えを出すまで、三人は俺にアプローチをしてくるんだと思う。
なら、すぐに返事するべきなのだ。
でも、すぐに返事できるほど俺は自分の事が分からなかった。そんなあやふやなままで返事をするのは失礼だと思う。それに、待たせるほど三人を好きな男子にだって申し訳ないっていう気持ちだってあった。
そんな自分に対してやるせない気持ちだって大きかった。
「別に不誠実でもなんでもねーだろ。そりゃあ、人によっちゃお前のことを不誠実だって言う奴はいるわな。けど、俺はそんなこと思わねーし、それは三人だって一緒だろ」
そこで一旦、言葉を区切る秀明。
「だって、それがお前なりの誠実さなんだろ? お前のことをよく知りもしない外野なんて無視してればいいんだよ。それでも、しつこい奴がいたら俺に言え。そいつをぶん殴ってやるから」
手をグーにして、シャドーボクシングする秀明。
「鷹矢は最後に、誰かの気持ちに応えてやるんだろ? だったら、大丈夫だ。お前が返事をするまでの間、アプローチするもしないもあいつらの自由。それくらいの覚悟はできてんだから、しっかりと受け止めてやれ。それが、惚れられた側の責任ってやつじゃねーのか?」
「秀明……」
あいつ……なにマジでカッコイイ事を言ってんだよ。一瞬、ときめいちまったじゃねーか。
そんな風に話していると、放課後を告げるチャイムが鳴った。
それが、まるで俺にはカウントダウンのようにも聞こえた。
そう感じた瞬間、俺は無意識に立ち上がった。
「……秀明、今日は付き合ってくれてサンキューな。ちょっと行くべき場所ができた」
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最後まで読んでいただきありがとうございました!
明日でようやく、一章が完結いたします~
引き続き、よろしくお願いします
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