第六話 修羅場! しゅらば! シュラバ!(下)

「ごめんなさい、二人の事を疑って、少し嫌な態度をとっちゃいました」


 私は、試すような態度を取ったり、喧嘩腰だった態度を謝罪した。


 おにいを心の底から好きって言ってくれる人だから、もっと素直に向き合いたいって思ったから。やっぱり、自分の好きな人をしたってくれる人って言うのは、どうしても良く見えてくるわけで。それだけで、ちょっと好きになってしまった私がいる。


「別に謝らなくてもいいわよ。あなたの態度を不快だとは思わなかったわ」


 そんな私の態度に、中世古さんは戸惑いつつも苦笑していた。


「私もごめんね」


 五十嵐さんは、私と同じで謝罪をした。

「それに、私のことはさん付けじゃなくて、下の名前で呼んでいいよ。敬語もいらないし」

「分かった……美咲ちゃん」

「うん、よろしい!」


 嬉しそうに美咲ちゃんは、私の頭を撫でてくれた。弟がいるって言ってたし、面倒見がいいんだろうな。撫でるの凄く上手で、気持ちいい。


「雫ちゃん、私達って凄く仲良くなれそうよね!」

「私もそれ思ってた!」


「だよねぇ~、最初は雫ちゃんめっちゃ見せつけてくるし、どうなのかなって思ってたけど、素直で可愛いし、鷹矢君のことが本当に好きなんだって伝わったもん」

「私もね美咲ちゃん、急におにいを好きになった人だから、どんな人なのかなって思ってたけど、本当におにいが好きなんだって分かったの。そしたら、私も好きだなーって、あはは」


 私の話に、美咲さんは嬉しそうに頷いていた。


「じゃあさ、今度、家にご飯食べに来てよ」

「いきたーい! でも、それはおにいも一緒ってことでしょ?」

「あれ、バレちゃったか」


 そのまま、美咲ちゃんと同時に、吹き出してしまった。


「ずるい……私のことも下の名前で呼びなさいよ。私だって、仲良くれると思ってるし」


 笑いあってる私達のことを見て、中世古さんが頬を膨らませていた。


「分かった……遥香ちゃん」


 その瞬間、パッと遥香ちゃんの表情に花が咲いた。


「ねぇ、美咲ちゃん?」

「遥香のことでしょ」


 頷く私に、美咲ちゃんは聞きたかった事を答えてくれた。


 だって、遥香ちゃんは高嶺の花とか、孤高の~、とかって噂を聞いてたから。うちのクラスの男子だって、その噂が原因で諦めた人も多いみたいだし。


「私もちょっと前まで誤解してたんだけどね、遥香の素ってあんな感じなんだと思うよ。見かけのイメージだけが先行しちゃってるって言えばいいのかな」


 確かに、勉強もできて物凄い美人なら、少し委縮しちゃうかもだもんね。

 でも、私は本当の遥香ちゃんを知ったから仲良くなれる自信がある。


「よく、本人を前にして言えるわよね……私だって、できないことがたくさんあるわよ」

「……例えば?」


 そう話す美咲ちゃんの声は震えていた。


 学校で有名な美咲ちゃんだけど、一番有名なのは遥香ちゃんだ。順位をつけるなよって思うんだけど、大体の男子が『遥香ちゃんの次に』っていう前置きを置いて、美咲ちゃんを褒めていた。


 私の勝手な予想でしかないんだけど、美咲ちゃんの耳にも届いていたんじゃないかな? それが、劣等感か何かに繋がったかもで。


「料理ができないから、鷹矢につきっきりで料理を教えることができるあなたがうらやましかったわ」

「……そ、そうよね……そりゃあ遥香にだって、苦手なものがあるか」


 そして、小さく『こんなことも分からなかった私ってバカだなぁ』って呟いていた。勿論、私は聞こえないふりをしたけど。


「な、なによ……私にだって、料理を教えてよ」

「勿論、いいよ」


 優しく笑う美咲ちゃん。


「じゃあさ、明日休みだし、これから家に来る? 私ももっと二人と話したいなって。今日は、弟が泊まりで家にいないから気兼ねしなくていいし、料理も教えてあげれるかなって。雫ちゃんはどう?」


「行きたい!」

「ええ、よろしく頼むわ」

「よし、なら決まりだね」


 さっそくお会計を済ませて、私達はお店を出た。


 ねぇ、おにい……遥香ちゃんも美咲ちゃんも、凄く素敵な人だね。


 私は、二人の間に挟まって、二人と腕を組んだ。

 そんな私に、美咲ちゃんも遥香ちゃんも嬉しそうに、くすぐったそうに笑ってくれていた。


            ※

(鷹矢視点)


「あ、あったぁ……」


 コンビニを回ること15件、自販機を探すこと20台。ようやく、俺は依頼され肉まんとコンポタとおしるこを手に入れた。


 泣きそうなほどの達成感を胸に、急いでお店に向かった。

 丁度、三人はお会計をしてた頃で、お店の前で合流できた。


「大丈夫だったのかな、三人とも」


 コンビニ行っても、自販機探しても、頭の片隅から離れてくれなかったのだ。

 なんとなく三人の話していることが予想できてしまって、喧嘩とかになったらって、思っていたのだが──


「えー、本当に!」

「クスス、だから本当だって」

「ちょっと信じられないもんねー」


 こんな具合に仲良く話していたので安心した。


「恥ずかしい勘違いをしてたなぁ……」


雫だけじゃなくて、遥香と美咲も俺の事を好きなんじゃないかって。

それで、修羅場になったらどうしようって思ったけど、安心した。少し、うぬぼれてたな反省、反省。


「おーい。言われたの買ってきてやったぞ」

「あ、おにい!」


 嬉しそうな表情をした雫が俺の胸に飛び込んで来た。


「これから美咲ちゃんの家でお泊り会するね」

「ああ、そうなのか。よかったな」


 嬉しそうに話す雫の頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めていた。


「随分、仲良くなったみたいだし、三人で何を話していたんだ?」

「嘘でしょ、おにい……なんで分んないの?」


 簡単な世間話を振ったつもりが、雫を呆れさせてしまった。


「二人とも、おにいのことを殴っていいよ」


 遥香と美咲に、雫は話す。


「おにいって、この手の感情は死んでるから、ハッキリと言わないと伝わらないと思うんだよねぇ」

「なるほどね……」


 雫の発言に、クスッと笑う遥香。


「それに、流石に今のおにいの発言は許せなかったので。美咲ちゃんにも遥香ちゃんにも失礼だし。まぁ、私は絶対に負けないしね?」

「言うじゃない、生意気だぞ~」


 雫の髪をワシャワシャといじる美咲。 

 何か、三人ともめっちゃ仲良くなってますね……いや、本当に。


「ねぇ、鷹矢。私達が何を話してたのかってことよね?」


 やや緊張した面持ちの遥香が俺の前に立つ。


「一回しか言わないからちゃんと聞いてよね」


 遥香の言葉を引き継ぐように、美咲が話した。


「あなたのことが好きだって話をしてたのよ」

「そうそう。鷹矢君への愛を確かめ合ってたの」

「……おん?」


 言われたことが理解できなくて、一瞬、固まってしまった。

 えー、えーと……好き?

 二人が……俺を?


 混乱する俺をよそに遥香が俺の近くに来る。


「鷹矢、私はあなたのことが好きよ。勿論、異性としてね」


 投げキッスを飛ばす遥香。

 しかし、そのあとすぐに顔を真っ赤にすると、雫の胸に顔をうずめながら「うっ、う~」と声を零していた。


「恥ずかしいなら言わなきゃいいのに……鷹矢君、勿論、私だって好きだからね。世界で一番、愛してるよ」


 恥ずかしさを誤魔化すように、片目をつぶって、チロッと舌を出す美咲。


「ねぇ、おにい」

「し、雫……!」


 俺に声をかける雫の表情は、いたずらっ子のようだった。


「びっくりしたでしょ、べーっ!」


 まぶたを下げて、舌を出す雫はどこか嬉しそうにも見えた。


「さぁー! ピザも取って、美味しいご飯も作って、今日は一日中みんなで騒ぐぞー!」


 普段は見せないようなテンションで、美咲が手をグーにして空に伸ばしていた。


「わ、美咲ちゃんのテンションが高い! でも、私もさんせー!」


 イェーイと、ハイッタチする雫と美咲。


「ほら、遥香もいつまでそうしてるの。早く行こ」

 

 顔を真っ赤にした遥香の腕を引きながら、三人は俺に背を向けて歩いていく。


「えっ、いや……ちょっ!」

 

 突然のことでパニックだったが、三人を止めた方がいいと思った。だからこそ、追いかけようとしたのだが、足が引っかかってこけてしまった。


「な、なんだこれ……」



 ドキン、ドキン、ドキンとずっと胸が高鳴って、『好き』という言葉が体にじんわりと広がっていた。マグマみたいな熱が胸に灯って、好きって言葉だけに支配されていくような。


 体を動かそうにも、立ち去っていく三人の背中を見る事しかできなかった。


「ま、また……こ、告白されてしまった……」


──────────────────────────────────────


最後まで読んでいただきありがとうございました!


 皆様の温かい応援のおかげで、日間ランキング3位、週刊ランキング6位という素晴らしい結果を頂きました。


 本当にありがとうございます。おかげで、私自身、楽しく書かせていただいております。これからも、雫たちのことをよろしくお願いします!


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