陰キャだったせいで、義妹が陰口を叩かれていたので、努力してカッコよくなったらモテてしまった~事故で義妹とキスしてからクラスの美少女たちの様子がおかしい~
第五話 修羅場! しゅらば! シュラバ!(上)
第五話 修羅場! しゅらば! シュラバ!(上)
「あー……早く帰りたい……」
俺──水瀬鷹矢の声は、雲一つない青空に吸い込まれていくだけだった。
「なんで? 『私と』一緒にデートできて嬉しいでしょ? ね?」
俺の腕を絡ませてる妹の雫が、上目遣いで尋ねてくる。
何て言うか、妙にスキンシップが多いように感じるのは気のせいか。
おそるおそる視線をチラッと横に滑らすと、妙にいい笑顔をした
「ねぇ、鷹矢。なんでそんなに妹さんと距離が近いのかしら?」
凍てつくような声で遥香が、尋ねてくる。
「鷹矢君って、度を越したシスコンだったんだね。知らなかったなぁ」
びっくりするくらいに優しい声をした美咲も、尋ねて来た。
「むぅ……おにいが無視する」
隣では、雫が不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「あー、早く帰りたい……」
放課後。
俺達は、雫がオススメしてくれるという喫茶店に向かっていた。
まぁ、二人は雫を紹介して欲しいって前々から言ってたし、丁度いいんだろうけどさ……。
もし仮にだが。
俺の予感が的中しているのなら。
勘違いをしてないのなら。
雫だけじゃない。
二人だって、もしかしたら俺の事が──
※
それから雫が案内してくれたのは、イングリッシュガーデン風の喫茶店だった。
「すげーな、雫。こんなお店に来るのか」
石畳の地面に、草木や花が植えられた、どこか田舎チックな風景の中にあるレンガっぽい外装の建物。こーう……すごいオシャレなのだ。
それこそ、陰キャの俺からしたら場違い感が半端ないのだ。
た、大変、入りづろうございます……。
「もーう、おにいってば、そんなにキョドらないでよ。私は好きだからいいけど、ちょっとキモいよ」
「キモイとか言うな!」
「あははは……やめてよ……!」
頬をつねってやったら、何が嬉しいのやら雫は笑っていた。
そして、雫の好きという言葉にピクッと反応したのが二人。
「と、とりあえず……お店に入りま──」
提案しようとした時だった。
「ねぇ、おにい。私、コンビニの肉まん食べたい」
「はぁ? 急に何を言いだすんだよ?」
この時期にあるとは限らないんだぞ。
「鷹矢、私は自販機に売っている暖かいコンポタージュがいいわ」
「だから、急に何を言いだんだよ!」
それに、この時期だとやっぱり売ってるか分からないんだからな。
「二人にも困ったよね、鷹矢君」
「美咲ぃ……」
そうだよな。
二人と違って、美咲は優しいに決まって──
「私はおしるこでお願いね」
「もうやだ!」
だから売ってないんだって!
「ってか、なんで俺だけそんな露骨に追い出そうとするのさ! 何か俺に言えないような──」
「もーう、お店の前で騒がないでよ、恥ずかしいじゃん。ほら、おにいはさっさと買ってきて」
そのまま、俺は半ば強制的に追い出されてしまった。
※
「で? 二人は、私のおにいとどういう関係なんですか?」
私──雫は、『私の』という部分を強調して、中世古さんと五十嵐さんに尋ねた。
二人とも、うちの高校では有名人だから。油断ならない相手なのだ。
だから、二人の前だといつもより激しめのスキンシップをわざと取った。
第一、本当におにいが好きなのか怪しかったし。
おにいがカッコよくなったから、手を出そうとしてるんじゃないの?
「どういう関係って……あなたからはどう見えるのかしら?」
クスッと優雅に笑う中世古さんの姿は、まるで絵画のように美しかった。
中世古さんは、私から見て、可愛いではなく美人って言葉が来る女性。
濡羽色の艶やかなロングの黒髪をハーフアップにしていた。とどめは右目下の泣きぼくろ。妖艶美人って言葉がぴったりくる。それだけじゃ飽き足らないようで、成績も良いという才色兼備を体現した、私にとって非常に強力なライバルだ……むぅ。
「うーん、それはこっちのセリフなんだよねぇ……」
困ったように笑うのは、五十嵐さんだった。
パッと見、小動物のように可愛らしく見える五十嵐さんだけど、その目は全く笑ってなかった……むむむ、ちょっと怖い。
明るい茶色に染められた髪を肩の上で結っており、前髪にはトレードマーク的な感じで赤色の可愛いヘアピンがしてあった。小柄な体格、可愛い小物、小動物のよう容姿。おにいみたいな陰キャが絶対に好きなタイプだから、やっぱりこちらも油断ならなかった。
そして多分、どちらかが、おにいがカッコよくなるきっかけを作った人。私はそれを見定めないといけない。負けるわけにはいかないのだから。
「色々と聞きたいことはあるけど、まず最初にハッキリとさせておきたいことがあるわ」
口火を切ったのは、中世古さんだった。
その表情は、険しかった、
「あ、あなた達は付き合ってるのかしら……? それに、あのキスのことだって、お教えて欲しいわ」
声を震わせる中世古さんが、私を見て尋ねて来た。
「え、えーと……」
「何よ……そうなら、は、ハッキリと言えばいいじゃない……グスッ」
中世古さんは、口をへの字に曲げながら鼻をすすっていた。
「……え?」
隣で、急に泣きそうになった中世古さんを見て、五十嵐さんは驚いたように、声を漏らしていた。それだけ、中世古さんが泣き出したことに、驚いていることが分かる。
「いえ……おにいとは付き合ってないです」
中世古さんの質問に即答できなかったのは、私の第一印象と大きく違ったから。それだけじゃない。余裕に見えたあの態度から、急に声を震わせ出したら驚くに決まっている。
それは多分、それだけおにいの事が好きっていう証明になるわけで。
「そう……そうなのね。なら、そうと早く言えばいいじゃない、良かった……」
あからさまにホッと肩を撫でおろす中世古さん。
なんだろう、中世古さんって凄く美人だし、大人っぽい雰囲気があるわりに、可愛いなぁ……私のライバルであることに間違いはないんだけどね。
「じゃ、じゃあキスの方だって何かの間違いってことかしら!」
パッと華やいだ表情の中世古さんが、再度、尋ねてくる。
「いえ、それはわざとです。おにいのこと、異性として愛してますので」
「そ、そうなんだ……」
パッと華やいだ表情が一転、シュンとした表情に切り替わる。
「……………」
「ニ、ニャニよ……どうせ、私の気持ちなんてとっくに気づいてるんでしょ」
いじけたように、中世古さんは唇を尖らせていた。
ちなみに、私が黙ったまま見つめていたのは、中世古さんの可愛さに胸を打たれていたから。大人美人で恋愛に慣れてそうな中世古さんが、私の発言に一喜一憂するなんて可愛すぎるでしょ。
ねぇ、おにい……何をしたら、これだけ可愛い人がおにいの事を好きになるの。
「でもさ、雫ちゃん。二人って兄妹だよね? 私、ちょっと心配だなぁ」
ニコニコと笑う五十嵐さんが私に話しかけてくる。私のことを心配してる割にはなんだろう……こーう、何て言いうか──
「私も下に弟がいるから分かるんだけど、上の兄妹から離れられないっていのは、大変なことが多いんだよね。雫ちゃんが兄離れできるように、私が手伝おうっか? その間、シスコンの鷹矢君が寂しがらないように、私が傍についてあげるし」
「いえ、結構です」
うん、やっぱり私の予想は正しかった。この人、こんだけ可愛い容姿をしてるけど、腹黒いよね。兄離れとか適当なこと言って、その間に絶対におにいにアプローチする作戦だ。
「ちなみに、傍にいてあげるって何をするつもりなんですか?」
「そりゃあ一旦、私の家に来てもらうでしょ。お互いに距離を取ってもらってる間、鷹矢君は寂しがるだろうから心と体を癒してあげようかなって。鷹矢君には全部を捧げたいし」
頬を染めながら、とんでもない爆弾を投下する五十嵐さん。
この人、おにいの貞操まで奪う気だ!
「だ、ダメよ! そ、そんな、えちいことはダメったらダメなの!」
五十嵐さんの発言に、まっさきに反論したのは中世古さんだった。
「えー、私は鷹矢君の好きなご飯を作ってあげるって意味で言ったんだけどなぁ……ねぇ、遥香は何を想像したの?」
「~~っっ!! う、うっ~~」
顔を俯けながら、中世古さんはリンゴのように耳まで真っ赤になっていた。そんな中世古さんを見て、五十嵐さんは微笑ましそうに笑っていた。私だって頬が緩んでる自覚はある。それに多分、この人は本気でおにいを押し倒すと思う……むぅ。
ねぇ、おにい……何をしたら、これだけ一途な人がおにいの事を好きになるの。
ちょっと重いかもだけどさ。
でも、一つだけ分かったことがある。
二人とも、心の底からおにいが好きなんだ。そうじゃないと、あんなリアクションしないだろうし、あんな事も言わないに決まっている。
そのことが分かると、私は二人に対して親近感と罪悪感を覚えた。
「ごめんなさい、二人の事を疑って、少し嫌な態度をとっちゃいました」
だからこそ、私は二人に対して謝罪した。『どういう関係なんですか』って、試すような、喧嘩腰な態度は失礼だって思ったから。
もっと普通に『どこが好きなんですか?』とかにした方が良かったって思ったから。キチンと謝罪して、誠実な態度で向き合いたいって思ったんだ。
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最後まで読んでいただきありがとうございました!
いつものごとく、一話にまとまらなかったので、二話に分けました。
(予定では)あと三話で一章が完結いたします~
引き続き、よろしくお願いします!
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