Side 五十嵐美咲(いがらしみさき)の恋花(上)


すいません……遅くなりました……


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好きな人と好きな人の妹がキスをした翌日、妹さんは彼女面し始めた。こんなの何かあったに決まっている。


 こんな状況だというのに、私──五十嵐美咲(いがらしみさき)の脳内では、明日のお弁当の中身でいっぱいになっていた。人は自分の理解できる範囲を超えると、途端に脳みそが拒絶反応を起こすらしい。


 ケチャップライスにするか、唐揚げをいれるか、卵焼きをいれるか……あ、そうだ! 鷹矢君の好きなハンバーグを入れて、一緒にお弁当を食べるって作戦で……ん、鷹矢君? そう言えば、何か忘れてるような……はっ!


 顔を上げると、恋する乙女の表情をした雫ちゃんは、鷹矢君の腕を抱いていた。その表情が憎たらしいやら、妙に親近感を覚えるやらで、ちょっと複雑だった。


 はぁ……どうして、私の好きな人は、仲良くなりたいって言ってた妹とカップルみたいな空気を纏っているの……? え、仲良くなりたいってそういう意味じゃないよね……。


ミルク色の雲が広がった空に問いかけても、返事はなかった。


              ※


 私と鷹矢君が出会ったのは、十一月下旬くらいだったと思う。その頃の鷹矢君と言えば、女子達の間でちょっとだけ話題になっていた。


 清潔感のかけらもない鷹矢君だったけど、ある時期から急に垢抜け出したからだ。


 加えて、びっくりするくらいに成績が急上昇していたこともあって、目でチラチラ追いかけている女の子が多かった。そういう私は、大して興味なかった。頭の中にあるのは、今日は部活で何の料理を作ろうかなって言う事だけだった。


 私の家は、両親が共働きでよく家事・炊事をやっている。そして、運動部に入っている弟がいる。つまるところ、部活で作ったご飯が夕食のおかずになって、楽できるというわけだ。


 私自身料理することも好きなんだけど、それ以上に、食べることが大好きだった。だから、一石二鳥どころか、一石四鳥くらいになるわけで。


『五十嵐さーん! お礼は絶対にするんで、俺に料理を教えてください!』


 鷹矢君が料理を教えてほしいとお願いしてきたときは、ああ、面倒くさそうなことになったと思っていた。


 断ろうと思ったんだけど、あの時の鷹矢君と仲良くなりたいって言ってた料理部の子も何人かいたので、断れなかったのだ。後で、恨まれてもヤだしね。


 めんどくさいなーもー。


 鷹矢君との出会いが、私のひねくれた考え方を壊してくれるとも知らず──


                ※


『で、これは?』

『オムライス的な何かです……』


 料理を教えるためには、まず鷹矢君の料理レベルを知る必要があると思ったわけで、自信ある一品を作ってもらった。


『へー、これがオムライスなんだぁ。私、知らなかったなぁ……オムライスってもっと──』

『ごめんなさい、絶対に食べますんで、もう勘弁してもらえませんかねぇ!』

『クスス……ごめんね。完食してくれるなら、問題ないよ』


 涙目になった鷹矢君のリアクションが可愛くて、思わず笑ってしまった。


 あれから、鷹矢君が料理部の面々と混じって料理の練習をすることになったんだけど、下手くそすぎて、みんな諦めてしまった。結果、鷹矢君を引き連れてきた私が面倒を見る役目を押し付けられてしまったのだ。


 まぁ、鷹矢君と話していると楽しいし、リアクションとかも可愛いから、そこまで嫌って訳ではないんだけどね。正直なこと言えば、料理部として活動してきた中で、一番楽しかった。


 それどころか、鷹矢君と一緒にいることに居心地の良さを感じている私がいた。今に思えば、期待していたんだと思う。

 鷹矢君くらいの行動力があれば、もしかしたらって。


『五十嵐さんってさ、結構意地悪っていうか、案外はらぐ──』

『んー? なにか言った?』

『いやー今日も五十嵐さんみたいな、学校一可愛い女子と一緒に料理できて楽しいなぁ!』

『はいはい……そういうお世辞はいいから……私のどこが可愛いっていうのさ……もぅ』


 冗談と分かってても、胸の中で、鈍い痛みがジクジクと広がる。


 私──五十嵐美咲という人間は一番に憧れていた。物凄く、安直な発想だけど、一番って言うのは特別な称号のようなもので、私は特別に焦がれていたのだ。


 しかし、私はいつでも一番になれないタイプの人間だった。そして、一番というのは中世古遥華のような、天から選ばれたような人のことを言うと思っていた。


 例えば、料理部。

 フランス人留学生が来るから、歓迎会を開くことになって、料理部が日本食を作ることがあった。そこで、顧問の先生がオーディションのような物を開いて、リーダーを決めることになった。私は両親に変わって、料理を作ることもある。もしかしたら一番になれるんじゃないかって、ひそかに期待していた。


 でも、結果は副リーダーだった。

 つまるところ、二番だった。


 純粋に、ショック以外の感情が沸き上がらなかった。部活を始める前から料理を続けてきた側としては、堪えるものがあった。


 だったら、別の分野で一番になろうって思った。

 真っ先に思いついたのが、勉強。


 だから二学期前期のテストに狙いを定めて、一番を目指した。

 正直、二学期前期のテストで学年一位を取る自信があった。夏休みの期間も、二学期の範囲を予習して、テスト週間になったら寝る間も削って必死に頑張った。でも、結果は学年二位。一位との差は、10点近くもあった。


 ああ……私には二番がお似合いなんだなって思わされた瞬間だった。


 どちらも一生懸命やってきたが故に、何の言い訳もできなかったのが、余計に苦しかった。


 加えて、クラスの男子が可愛い女子の話をしていると、絶対に上がるのが遥香。

 そして、二番目が私。


 男子だって、私に聞かせるもりはないんだろうけど、聞こえてるんだよ……なんで私が劣ってるような言い方をされないといけないんだろう。


 別に、興味ない男子の意見なんてどうでもよかったけど、二番な私はぴったりだと思うと少し悲しかった。


 私にだって『これだけは絶対に負けないからっ!』って、誇れる何かが欲しかった。


 でも、この時は見つからないままだった。

 そして、教えてくれたのが鷹矢君だった。


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最後まで読んでいただきありがとうございました。

最後までまとまり切らなかったので、本日、20:24分に(下)を投稿しますので、よろしければお願いします。

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