プロローグ 主人公のレベルアップは知らない所でフラグが立っていた①


 九月中旬。


 おしゃれ……壊滅的

 学力……底辺(270/280)

 料理の腕前……お湯を沸かせれるレベル



「た、大変……入りづろうございます……」


 妹のためにかっこよくなると決意をした翌日。


 安直な発想かもしれないが、見た目を変えるのが一番と判断した俺は、チャラ男の友人──中村秀明(なかむらひであき)にオススメの美容院を紹介してもらったのだ。


 外から見える店内の様子は、女子大生と思われるお姉さま方と店員さんが楽しそうに談笑していた。


「やべぇ……もう少しまともな格好してきた方がよかったか?」


 改めて、自分の服装を見下ろす。


 とりあえず、動画で勉強した白のシャツにデニムというめっちゃシンプルな格好だ。やっぱり、どくろが描かれたシャツに、折り返しできるズボンの方がよかったかもしれない……けどなぁ、秀明が絶対にやめとけって言うからなぁ……好きなんだけどなぁ、どくろ。カッコいいじゃん。


「いや、雫のために頑張ると決めたんだ……いざ、出陣っ!」


 頬を軽く叩いて、決意を固めて、俺は美容院という名の伏魔殿に赴いた。


             ※


「いやーさっぱり!」


 一時間経たないくらいで、俺はお店を出た。


 女性は失恋した時に髪を切るというが、その気持ちが分かったような気がする。目にかかる前髪も、耳を出さなかった髪も、店員さんの助言に従って、バッサリと切ってもらったのだ。おかげで、視界が良好どころか、気分も晴れ渡っていた。


 そしてもう一つ、大事なことを学べた。


「どくろの服は捨てるか……」


 どくろTシャツも、折り返しできるズボンもダメだったみたいだ。


思い切って、店員さんにいろいろと聞いてみると、はっ? みたいな顔をされたのだ。どくろ、好きだったんだけどなぁ……ぐすん。


 むしろ、女子受けを狙うなら、今日みたいなシンプルな格好が大事なようだ。白シャツとか、ネイビーのカーディガンと色々、オススメしてもらった。


 俺は単純なようで、気分がさっぱりすると、次は服を買っておしゃれをしたいって気持ちになった。店員さんに、いろいろと教えてもらったし、買いに行くか。


 それから俺は新しい服、ワックス、店を紹介してくれた秀明へのお礼の品を買って帰宅した。


 ちなみに一度、秀明にメッセでほしいものを尋ねると、薄いゴムとか言ってきやがったので、無視しておいたとだけ言っておく。


               ※


 十月上旬。


 おしゃれ……清潔感ある身だしなみができる

 学力……底辺(250/280)

 料理の腕前……お湯を沸かせれるレベル



 俺が髪を整えるようになってから、二週間ほど経った。


 おしゃれをするのが楽しくなってから、秀明に「最近の俺、かっこよくない?」と尋ねてみたが、腹を抱えて爆笑されただけだった。何でも、清潔感あふれる格好になっただけらしい。


 風呂に入ってるんだが? と思ったが、どうやら違うらしい。おしゃれの道は難しそうなので、ほどほどにしておくことにした。


 け、決して、諦めたわけじゃないんだからねっ!


 そんなことよりもだ。

 重大な問題が一つ発生していた。


「な、なんだこの点数は……」


 返却されたテストの答案用紙を見ると、赤いのにギリギリな点数だった。


「お、鷹矢も俺と同じ仲間じゃーん!」


 嬉しそうな表情をした、秀明が肩に腕を回しながら話しかけてきた。


「鷹矢がテストの結果でショック受けてるのって珍しいのな。何かあったのか?」

「ああ、実はな──」


 陰口を叩かれたこと、妹のためにかっこよくなりたいことを話した。


「──ってわけなんだよ」

「なるほどなぁ……それはキツいな。鷹矢の気持ちが分からないわけじゃないぜ?」


 秀明の眉間にしわが寄っていた。色々と思うことがあるような表情だった。


 けどよ、とそこで秀明が言葉を区切る。


「お前はもう少し、女心ってのを学んだ方がいいぜ。雫ちゃんのことを考えると、同情したくなるわ……」


 そう言いながら、わざとらしく指で眉間を揉む秀明。

 何か妙にイラッとくる仕草だな。


「成績あげるのには何したらいいと思う?」

「そりゃあ、自分よりも賢い奴に聞くのが一番だろ?」

「まぁ、そうなるわな。サンキュー」


 クラスで頭の良い奴……。


「あ、中世古さんか」

「お前まじか……そりゃあ、頭は良いけどよ……」


 中世古さんと言えば、常に学年一位の才女だ。うちの学校の生徒会役員であったりもする。いつも一人でいるから、孤高の存在だとか、高嶺の花とかも言われている。


 とにかく、声をかけてみるか。

 妹が入学してくるまで、あと半年しかないのだ。


「何より、ワックスをつけておしゃれするようになった俺ならいけるっ!」

「いやっ、お前は髪型一個で自信つけすぎだから……」


 秀明が何やら言っていたが、あまり聞こえなかった。


「中世古さーん! 俺に勉強を教えてくださーい」


                ※


 十一月下旬。


 おしゃれ……清潔感ある身だしなみができる

 学力……(60/280)

 料理の腕前……お湯を沸かせれるレベル



「新たな問題が発生してしまった……」


 中世古さん……じゃなくて、遥香だ遥香だ。名字で呼ぶと露骨に機嫌が悪くなるんだよなぁ……。遥香と勉強するようになってから、色々あって仲良くなったのだ。そしたら、下の名前で呼ぶように強制されてしまったというわけだ。


 合わせて、妹が入学したら、紹介するように約束させられた。まぁ、俺が妹と仲良くなるために頑張ってるのは知ってるから、気になるのかもしれない。外堀がどうとか言ってたけど、気のせいだろう。


 そんなことよりもだ。


 俺は目の前で生成された超暗黒物質(ダークマター)に目を背けたくてしょうがなかった。 自宅のキッチンで料理をしていたのだが、俺の前の前にあるのは、黒焦げになった何かだ……。


「料理本、読んでちょっと練習すれば上手くいくと思ってたけど、そんなことなかったな……」


 料理も誰かに教えてもらおう、うん……黒焦げになった何かを食べるだけで涙が止まらないや……。


「うちには料理部があったし、行ってみるか……」

 隣の席の五十嵐(いがらし)さんが料理部だったし、お願いしてみるか。


──────────────────────────────────────


最後まで読んでくださって、ありがとうございました。

本日、二話投稿でございます。

二話目は20:24になるので、作品のフォローして、お待ちいただければと思います。

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