陰キャだったせいで、義妹が陰口を叩かれていたので、努力してカッコよくなったらモテてしまった~事故で義妹とキスしてからクラスの美少女たちの様子がおかしい~

光らない泥だんご

プロローグ 変わろうと思ったきっかけ

「ねぇ、雫ちゃんのお兄さん見た? あんな陰キャのお兄さんとかキツすぎない?」

「わかるーっ! 前髪も長いし、ガリガリでメガネかけてたもんね!」

「そうそうっ! 今時、あんなクソ陰キャありえないよねーっ!」


 キャハハハ、と姦しい笑い声が、放課後の教室に轟いていた。


 俺が高校一年の頃。


 その日は、妹──水瀬雫(みなせしずく)が弁当を忘れたまま学校に行ってしまったのだ。俺と雫の通う学校は中高一貫だからこそ、敷地内に中等部があるのだ。そして、高等部から中等部の方に弁当を持って行ったのだ。


「アタシだったら、あんな兄がいるってことが耐えられないわ、視界に入れただけでセクハラって言うかさー──」


 それよりの先の話は聞かなかった。


 ショックじゃなかったと言えば、嘘になるが、そこまで気にもならなかった。所詮は中等部の子だ。別に関わることもないだろう。そんな考えからだった。


 そんなことよりもだ。


 俺のせいで、雫に負担がかかっていることの方がショックだった。ただでさえ、俺と雫は血が繋がってない。加えて、今は反抗期というか、やたら雫はいらいらしている。デリケートな家族関係なだけに、悩みの種を増やしたくなかった。

 

 その日の帰り道。

 

 暗い夜道を歩きながら考えていた。やっぱり、夜道はいい。静かだし、何だか落ち着くのだ。それに頭も冴えわたるような気がしてくる。俺が陰キャだからかもしれない。


 考えている内容は、雫のことだ。兄として何ができるのだろう……例え、血は繋がってなくても、雫は義妹じゃなくて、妹なのだ。絶対に守ってやると決めた大切な家族なのだ。できることはなんだってしたかった。


「まぁ、やることはシンプルだよな……」


 今まで行ったことのない美容院にいかないといけない。

 眉と髪の手入れをするからだ。


 授業中に寝るのも、もうやめないとな。

 成績が悪い兄なんて、ダサいだろうしな。


 料理も、料理部の誰かにお願いして教えてもらわないといけない。

 家の両親は仕事で家を空けることが多いから、出前とかじゃなくて何か美味しいのを作ってあげた方が喜ぶだろうし。


「よし、やるかっ!」

 パシンと、頬がヒリヒリするくらいに強く叩いた。勿論、気合を入れるためだ。


 お兄ちゃん、雫のために頑張るからな!

 そうなったら、また昔の頃のように、兄妹仲良くなれるはずだ!


 今は反抗期なのか、ちょっと塩対応気味だけど、努力で何とかなるはず……多分。

 そうとなれば、さっそく友人に連絡だ。そうして、俺は友人にメッセを飛ばした。


                   ※


 その日、久しぶりに俺は夢を見た。

 父さんに再婚したいってお願いされたときの事だ。


 ──────

 ────

 ──


「父さんな、結婚したいなって思える人ができたんだ。鷹矢は嫌か?」


 俺が小学二年生か、三年生の頃だ。

 緊張した面持ちの父さんに切りだされたのは、今でもはっきりと覚えている。


物心ついたときから、母親はいなかった。病死したらしいのだ。だからだろうか? 新しい家族が増えるってことに、そこまで大きな抵抗はなかった。勿論、俺が物心ついていなかったからかもしれないが。


それでも幼いながら、結婚=幸せ、みたいな単純な図式があって。父さんがもっと笑ってくれるならいいかなって思ったのだ。小学生の時でさえ、父さんがで俺を育てる事に苦労しているのは分かっていたからだ。


「ううん、いやじゃないよ! だいじょうぶっ!」


 笑いながら、ピースすると父さんは苦笑していた。


「ったく……鷹矢はどういうことか分かってないだろ。何か変な感じとかあったらすぐに言えよ」


 そんな口調であっても、父さんの表情は嬉しそうだった。


 俺の髪をくしゃくしゃにいじりながら、何か色々と言っていたけど、あんまり覚えていない。それでも覚えていることもあった。


「お相手さんな、鷹矢の一個下の女の子がいるんだ。丁度、鷹矢の妹になる子な。体が弱くて、学校を休むことも多いんだって。俺達でしっかりと守っていこうな」


 これが父さんとの約束。

 手をグーにしてコツンと叩くと、少しだけ大人になったような気がして嬉しかったのだ。

 

 ──────

 ────

 ──


 目が覚めると、すっかり陽が昇っていた。

 メッセを確認すると、友人からOKの連絡も入っていた。


「さて、頑張りますかね……」


 陽光の眩しさに目を細めつつも、気分は高揚していた。

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