2023年3月15日(水) 弾丸旅 経緯

話せば本当に長くなるのである。





色々かいつまんでも長いものは、やはり長いままなのだが、


まぁ毎日書くネタになるため、のんびり仕上げていこうと思う。








まず、吾輩、それほど旅行が好きではない。








ガイドがいなければ、自分で全てを調べ尽くし予定を立て、




帰ってからの片付けや、家に放置された日常の残骸のさらなる片付けなど、




兎にも角にも億劫なことばかりである。







それを考えれば、学校の遠足や旅行はなんて楽だったのか。







あの頃は、自由に色々行きたいのに!と、



自身が思ったか思っていないかは定かではないが、



そう口にする者は多くいた。






だが自由とは1から10まで形成しなければならない。





形成するための道具も材料も全て自分で用意していくのである。






これがどれほど面倒臭いか…。






8を用意され、2割の仮初めの自由を謳歌していた頃の楽さが恋しい。





ガイドがついているツアーなどに申し込めば良いのかもしれないが、





家にいる不を招く3爺のせいで、万年金欠状態。






余分なお金を捻出できないのである。






さて、こんな金欠億劫野郎な吾輩、珍しく日帰り旅に行くことになった。






理由はシンプルである。






職場で仲良くなった後輩、風さんと称しておくが、

彼女が旅に行くことをを提案してきたからである。









誘われたらすぐに行くのかい。









と思われたかもしれないが、誘い方が尋常ではなかったのである。








吾輩、先程も述べた通り、旅が好きではない。







その旨を丁寧に、





相手を傷つけないように細心の注意を払いながら説明し伝えたところ、







数秒の間ののち。









「行こうよぉぉっ!」










吾輩、気が遠くなった。







目の前にいるのは、トト◯に出てくるメ◯ちゃんか。







メ◯ちゃんなのかもしれない。








あんな幼い子を彷彿とさせる返事であった。







だから再度、丁寧に、ゆっくりと、大きな声で、





先程よりも言葉を噛み砕き、メ◯パパになったような気持ちで諭す。









「行こうよぉぉっ!


行くの!!


日帰り旅、行くのっ!」








内なるサ◯キが目覚めて、金切り声で発狂し、メ◯の馬鹿っ!!と





叫びそうになったが、寸でのところで食い止めた。








繰り返すが風さんは幼児ではない。







職場の後輩である。








これは、説明しても埒があかないと踏んだ吾輩。








取り敢えず行くと返事をし、あとは曖昧にしながら日を乗り越えて行くことにした。










それが打算だった。









その日から毎日毎日、日程と目的地を催促された。









息を吐くように送られてくるライン、それに伴い鳴り止まない通知音。








一体いつまで起きているんだという真夜中まで、



ラインが「ライン」と自己主張を続けてくる。







出勤したらしたですれ違う度に問われ、




席を外す度に大量の付箋が貼られ、





お昼なんぞは旅の話オンリーである。








意識が朦朧とし始めた。








何故、それほどまでに吾輩に拘るのか、皆目見当もつかない。






ほかに友達がいない様子でもないので、さらさらに分からぬ。






もしかして、吾輩を財布かATMと勘違いしているのか。








は、、、、、もしや。







吾輩を旅と称して外に連れ出し、




暴◯団やチャイニー◯マフィア、宇宙人なんかに売り飛ばそうとしているのだろうか。







気がついたら肺が1つなくなったり、



腕が千手観音みたいに生やされてたりと、




キャトルミューティレーションされているかもしれない。








いつもは、



メ◯ちゃんの皮を被っているがうらでは姐御とか呼ばれているんじゃ……。








「いつ!?




いつ行くの?





ねぇぇぇぇぇぇっ!!




いつぅぅぅ!」








連日引っ張られた吾輩の袖が引きちぎられたところで、




行きます行きますと





2つ返事をしながら日程を決めた。







よくよく考えたら風さんが危ない人なら、




旅に行っても行かなくても、吾輩、命がない気がする。








それならば美しい景色の中が良い。








単純にそう思ったため、行くことにした。








日程を決めると風さんは大人しくなった。









そうして引きちぎった吾輩の袖を返してくれた。













優しい人なんだと思った。








旅の予定を丸投げされた吾輩は、夕方の業務をこなしながらプランを考える。









後輩(以前、吾輩に仕事を押しつけてきた元気な後輩。日記どこかを参照。)が



側に寄ってくる。








何故か顔が青ざめている。









どうしたのだろう。









「酷い!




誰が先輩の袖をっ!!!」












…それには触れないでもらって良いだろうか。









みんな、何も言っていないんだよ。











みんな視線だけで我慢してるんだよ。











おもむろに袖が掴まれる。



















あらん限りの咆哮とともに、存命する我が袖は事切られた。










人の袖を引きちぎるのが流行っているのだろうか。












「必ず、袖の仇は取りますからっ!」











握り締められた袖は、静かに吾輩のディスクに横たえられた。















優しい子だ、袖を返してくれるなんて。













夕方の業務は暖房が効いているのに肌寒かった。









だが、心は温かく思えた。











添えられた2つの袖と、みんなの視線があったからかもしれない。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る