2022年12月23日(金)
師走も残すところあと8日である。
早い1年である。
早すぎて、ほぼ何の記憶も残っていないのである。
もしかすると、
吾輩だけ音速の中に生きているのかもしれない。
時たま、スニーカーが素敵な青い青いハリネズミの方が横を駆け抜けて行くことがあったが、
吾輩が音速で生きていたからなのか。
なるほど。
一年の記憶がないことにも合点がいく。
納得しながら玄関の扉を開け外に出る。
こっ、呼吸できねぇぇぇぇっ。
吾輩、あまりの強風に呼吸ができず、
一旦家に避難する。
なんという風の強さだ。
寒いということよりも、風の強さと呼吸ができないことが辛い。
もう一度確認しようと
ドアをほんの少し押し開けてみるが、
ほんの少しなんて軽い気持ちでは、押し開かない。
風が強すぎる。
音速に生きる吾輩でも耐えきれない強風だ。
しかし、こんなところでもたついている訳にはいかない。
出勤せねば…出勤せねば…。
強風と同じくらい強い気持ちでドアを開けて外に出るが、
次は鍵が閉められない。
一瞬で手がかじかみ、
顔面にマフラーの先端が打ちつけられたまま
一生そこでなびいている。
まっ前が見えない…。
闇にのまれる。
だが、しかし負けてはならない。
吾輩、社会の畜生であるから遅刻なんて許されないのだ。
くそっ…鍵が風でなびいて鍵穴にホールドされない。
突き刺そうとかすめるところまではいくが、
グッと押し入れる際に
力が入らず風に拐われてしまう。
あぁ、帰りたいなぁ、部屋のなかに…
社畜だということが夢なら良かったのに…。
薄らと視界が滲むが、強風がすぐに乾かしてしまう。
炭○郎は泣けても、社畜は泣くことも許されないのか…。
職場で戦うために、まずこんな強風…
エアー○ンと戦わなければならないなんて。
苦しい。
鼻で呼吸ができないからと、
口呼吸に変えるが当然ながら強風が
口の隙間にマスクをねじ込んでくる。
これはもうただの風ではない。
普通の風ではないのだ。
紛うことなくエアー◯ンの襲撃だ。
エアボンバーにトルネードのあらしなのだ。
しかし負けてはいられない。
社畜として、エアー◯ンに打ち勝ち出勤せねば…。
吾輩、犬公を養わねばならない、
犬公のあの獣臭い笑顔を守るために、
この戦に勝たねばならない、、。
だが、吾輩ロッ◯マンではないからメタルブレードなんて持ち合わせていないし、アイテム2号も持っていない。
素面の抜身でエアー◯ンに勝てるはずもない。
エアー○ンから繰り出される強風の必殺技が、
マスクを鼻の穴に押し入れ、
あらゆる呼吸媒体を封鎖しよとしてくる。
30分かけてセットした髪は、
無人島から這い出てきたかのようにボサボサだ。
こんな頭で出勤したら、良い笑い者である。
え、山からきたの?
と、からかわれるに決まっている。
あぁ、嫌だ。帰りたい。
扉の向こう側に帰りたい。
だが打ち勝ち出勤せねば、
次は管理職と戦うはめになる。
それだけは避けたい。
だからみんな、吾輩に元気を分けてくれ!
そして親戚友人、家族、
知り合いにロッ◯マンがいる人は連れてきて欲しい。
吾輩、それまで待ってるから!
玄関の覗き穴から強風と戦う同士を見守りながら、
誰かがくるのを待ってるから。
ギギギギギギ……バタン、ガチャっ。
プルプルプル プルプルプル
「あ、おはようございます。
吾輩です。
あの、すみません。
家の前にエアー◯ンがいてですね、あ、はい。
で、
エアボンバーとかトルネードなる必殺技を繰り出してくるので
風が強くて、そのー出勤できません。
あ…いやっ…あの、というのは冗談です、
あっ、はい。すみません。
あの、はい。今から行きます、
はい、すみません…。」
吾輩、必殺アイテムも戦える主人公も
もういらないのだ。
次は、手向けの花が欲しい。
エアー○ンに負けないような、風に強い花が。
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