2022年11月22日(火)



吾輩、激怒した。





暴君に激怒したあの彼よりも激怒した。




もうそれはそれは怒っているのである。




だから、自席を投げつけ唾を吐きながら全力疾走で社内を巡り、

管理職の顔面に向かって怒りの咆哮をあげた。




日頃、シルバニアファミリーの中に紛れ込めるほど大人しくしている吾輩だから、誰も彼もが驚いている。



怯えてシルバニアファミリーを投げつけてくる者もいたが、吾輩、一度も自分で名乗ったことはない。



シルバニアファミリーの一員だなんて一言も。




各々が勝手にそうイメージしただけである。




吾輩に騙された、みたいな顔はやめて欲しいのだ。




投げ飛ばしたデスクが地面に打ちつけられる音がした。





もう一撃、デスクに波動砲をおみまいしてやりたかったが、デスクに罪はない。




軽く八つ当たり程度に済ませておく。




これほどまでに荒ぶる妄想を繰り広げているのは何故なのか。




吾輩の仕事時間を滅茶苦茶いじるからである。




今日は早く切り上げて皮膚科に行く予定だった。




リスさんやウサギさんファミリーとこもれびのランチタイムを終え、




ふと、業務変更板を見ると、吾輩の午後からの仕事が増やされたうえに、




さらに若い子への指導も追加されている。




どう考えても皮膚科に間に合わない。




肌が痒い痒いなのである。激務過ぎて、皮膚科には三カ月通えていない。




病院に行くのは国民の権利である。



たかが皮膚科に吾輩、三カ月も行けていないのだ。




美容院ではない、病院の皮膚科である。




こんな何ちゃってで済ませられるはずもなく、




吾輩、とうとう我慢ができずに怒った。



リスさんやウサギさんが泣きながら、吾輩を引き止める。





荒れて赤くなった皮膚から炎が噴き出た。





この赤さは湿疹ではなく、炎を放つ噴気点であったのか。





ぶつぶつ一粒一粒から放たれた炎は、紅炎の如し。





業務を増やし皮膚科への足止めをしいる者たちを焼き尽くす炎は、






職場を包み込んだ。





吾輩に皮膚科は、もういらない。





何せこの湿疹は、悪を焼き切る炎の突起である。






診察なんてもういらない。





皮膚科も、職場も、年下の教育も。






世界は全て焼け焦げた。





吾輩は、日輪。





吾輩の務めは、皆を平等に光で照らすこと。





そんな使命を忘れていた。





戻らねば。






大空という吾輩の居場所に。







出入り口を通過しようとしたとき、部長に腕をつかまれた。









「仕事、忘れてない?」






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