笑う門には福来る
最終話 年末の2人
12月31日、夜10時頃
夜斗は友人連中との忘年会を終え、全員を家に送り届けた
送るのに使ったのは友人のうち一人の車だ
忘年会が終わりすぐにバイクでその友人の家へ向かい車に乗り、会場で再合流
全員を送ってからバイクに乗り直し、空を見上げた
「今年もこうなるんかい…」
これは今日に限った話ではなく、毎年こんな感じだ
なにせ霊斗が免許なし、一人はペーパードライバー、車の持ち主は酒豪というどう考えても夜斗しか運転できるものがいない
しかも飲むのは沼津の駅前。夜斗にとっては負担でしかない
「まぁいいや…。今から帰るとだいたい23時半か…仕方ないな」
夜斗はアクセルを吹かし、ある程度の回転数になったところでクラッチを繋げて急加速
夜の国道へと身を乗り出した
すぐ去る景色の中にはよく見るものがほとんどで、稀になくなった建物やできあがった施設が見えるものの、夜斗の意識には残らない
(さっさと帰りたいとこだが法定速度守ってるとこんなもんか。まぁ、ノンストップで帰るけど)
夜斗は休憩などめったに取らない
今日沼津へ行くときは時間に余裕があったため休憩を入れたが、帰りは取らずに直帰する
家では弥生が待っているのだ
(車いねぇな。大晦日のこの時間じゃ当然か)
トラックすら周囲にはいない
走っているのはカップルか子連れのファミリーカーで、バイクもほとんどいない
家に着くまでに3台ほどしか見なかった
「たでーま」
「おかえり。私もちょうどさっき帰った」
「風呂は?」
「入る。夜斗も一緒に入る?」
「まぁそうだな、大晦日だし。弥生と風呂で過ごすのもいいだろ」
「了解」
結局家に着いたのは23時少し過ぎたくらいだ
ちなみに弥生も沼津の旧友と忘年会をして、友人たちを送り届けた後である
(なんだかんだこの番組も続いてるな。もう1つ年末の番組と言われたあれは会社ごと潰れたのに)
例の笑ってはいけないアレがテレビに流れている
夜斗は笑いのツボが浅いため、これに出ればたちまちアザができることだろう
逆に弥生は笑いのツボが深すぎるため、盛り上がりに欠けることは間違いない
「テレビ見るの珍しいね」
「かもな。大抵弥生の顔見てたら寝る時間だし」
「否定できない…。私は、多少テレビ見てる方だけど」
「なんかしら話してる時間のほうが長くねぇか」
「もちろん。テレビはあくまで話題性だけだから、私の楽しい時間とは違う」
テレビを眺める弥生を見つめていると、不意に目が合った
どちらが言うでもなく抱きしめ合う
そのまま45分ほどが経過し、2人のスマホが鳴動した
「いいとこだったんだが…って霊斗か。いちゃいちゃしてろよめんどくせぇ…」
「…こっちは、雪菜」
着信画面を見せて呟く弥生
このまま無視することもできるが、緊急だと困るため電話に出てやることにした2人
「俺だ」
『よう。いちゃついてる頃かと思ってな』
「そう思ったなら電話かけてくんな。呪うぞ」
『シャレになんねぇ…。まぁなんだ、お前にはだいぶ世話になっただろ』
「そうか…?大概Win-Winだろ」
『俺はそう思えなくてな。多少今年は恩返しできたかな…と思って…』
意気消沈していく霊斗を鼻で笑う
『…なんだよ』
「お前らしくもない。何も考えず突き進むのが緋月霊斗という、我が親友の持ち味だと思ったんだがな」
『そう言うのはお前だけだよ。けど俺は…』
「皆まで言うな。知っている。だからこそ、俺はお前を認めよう。ということだ」
『夜斗…』
「ま、来年はちゃんと世話焼いてやるよ。けど可能な限り殺されかけないでくれ」
『努力はするさ』
「ならいい。さて、年越しも5分前だ。切るぞ」
『ああ。良いお年を』
「良いお年を。また来年もよろしくな」
夜斗が通話を終えると、ちょうど弥生も雪菜との通話が終わったらしく夜斗に目を向けていた
「相変わらずだな、あの夫婦」
「うん。けど、私たちは変わる。この年を皮切りに」
「そうだな。ま、あいつらが羨むほどいちゃつけばいいだろうさ」
スマホをソファーに投げて立ち上がる
そして弥生に手を差し出した
「一度もやったこと無かったろ。年越しの瞬間地球にいなかったぜ、ってやつ」
「ない…ね。夜斗、やるんだ」
「まぁな。夢のないことはいくらでも言えるが、こういう思い出は夢のままでいたほうがいい」
弥生がその手を取り、夜斗を見上げる
「夢じゃない。現実。私と夜斗の」
「そういうのもありか。さて、カウントダウンが始まったな」
テレビを見ると年末のカウントダウンがスタートしており、国民的アイドルや男性ユニット、画面越しに参加している配信者がカウントを叫んでいる
「夜斗」
「うん?」
「来年も、よろしく」
「ああ。よろしくな」
夜斗と弥生は、テレビのカウントに合わせて力の限りジャンプした
そして着地して笑い合い、また抱きしめ合う
「「ハッピーニューイヤー!」」
契約結婚 さむがりなひと @mukyo
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