第53話
無言のまま走る車の中で、夜斗は今日の出来事を反芻していた
(妹増えた。紗奈にいったらどうなるかわかんねぇや)
「なにかあった?」
「え?」
「ちょっと思い詰めた顔してる。でも、悪いことは起きてない」
「…まぁ、雪菜が妹になるって宣言しただけだ」
「義理の妹増えた」
「そんなことを考えてたんだよ。まぁ大したことじゃないが」
「そう?私的には、夜斗の心に近い人ができるのは良くない。私に甘えてくれなくなる」
「雪菜が俺に甘えるらしいから、俺は弥生に甘えるかな。弥生はどうする?」
「私は夜斗に甘える。甘えてるつもりだけど」
「まぁそうだな。なら巡り巡って丸く収まったわけだ」
帰りはゆっくり走る意味もないため、高速道路を利用する
だいたい半分程度の時間で済むのだから文化の発展は素晴らしい
「夜斗」
「うん?」
「やっぱり、雪菜の胸を揉んだことは納得できない」
「今言うの!?2時間くらい前に言ってくれね!?」
「起きたことは仕方ない。だから、帰ってから私にやってくれればそれでいい」
「ああそういうこと…。まぁ、いいけどさ。明日休みだし」
「私も明日は休み。朝までシテも問題ない」
「体力保つのか俺は…」
そんな赤裸々な話をしながらようやく高速道路に合流することができた
風を切る音が大きいため、会話が多少減る…ように思われた
が、さしたる問題にはならなかった
「お風呂入れたの?」
「足がおぼつかないとか言われたからな、放置して溺れ死んでも困る」
「そう。興奮した?」
「しねぇよ。弥生以外ではもう興奮しねぇさ」
「なら、許す。そもそも最初に私がいいって言ったような気もするし」
「ああそういや入れてあげれば?とか言ってたな」
紗奈を風呂に入れるという話をしていたときに、ノリで弥生が言っていたということを思い出した
「私は義妹をお風呂に入れた。だから、同じこと」
「血縁ないけどな」
「血縁は関係ない。その関係を維持できるかどうかが重要。恋人、夫婦、友達、兄弟。全てにおいて、書類上の事柄はさして問題じゃない」
「そうか?俺らはその書類がなければ事実婚にはならなかった。事実婚でなければ結婚することもなく離れてたんじゃねぇの?」
「それは否定しない。契約結婚がなければ、再会することもなかったと思うし。でももし、契約結婚してなくても夜斗が小学校に行っていたら?そこで記憶を取り戻したら、夜斗はお姉ちゃんのお墓参りは行ってたはず。そこでなら、出会ってたかもしれない」
「あくまで予想の域を出ないが、それはあり得たかもな。けど、同棲を経ての結婚のほうがいいこともあるぞ」
「例えば?」
弥生に問われて思考を巡らせる
パッと思いつくことは少し小恥ずかしいため、2つ目の理由に目をつける
「俺らは利害関係と割り切っていたから、生活費は安く済んだ。それに、家事を任せられたから楽をしてたな」
「1つ目の理由はなに?」
「何故バレる」
「5年も一緒にいれば癖もわかる。夜斗は何かを隠すとき、上を見る」
「見抜かれてらぁ…。1つ目の理由は、だな」
顔を逸らして窓から外を眺める
とはいえ防音用の壁に遮られて景色は見えない
「弥生をよく知ってから結婚になったから、ちゃんと好きになれた…から」
ハンドルワークがブレるのを体で感じ、弥生に目を向けた
顔を赤くして縮こまるようにしてハンドルを握っている
「…そういえば、私たちが好きになったと自覚したのは4年前…。その時結婚していたら…」へ
「嫌な部分だけが目についてすぐに離婚してた可能性もある。悪い言い方をすれば、吟味する時間がかなりあったわけだ」
「悪いところも、良いところも全部夜斗。それがわかったから、この5年間は無駄じゃない」
「だな」
弥生の車でタバコを吸うことはない
非喫煙者だからというのもあるが、タバコを吸うときは思考を巡らせる時だ
弥生の車ではその必要がない、ということである
「もうそろそろ家につく。その前にコンビニとかよる?」
「どっちでも…と言いたいとこだがゴムの在庫がない」
「なるほど。たしかにそんな気がする。薬局による」
この話こそ赤面するべきなはずなのに、淡々と話が進む
夜斗と弥生にとっては当たり前の一部でしかないのだ
車は高速道路を降り、最寄りの薬局へと向かっていく
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