第42話

東京に到着すると同時に渋滞に巻き込まれ、前車追従システムに切り替えてハンドルから手を離す

もはや前車追従システムの場合はハンドルを握る方が危険なのだ



「…で、本当は何を買いに来た?」


「乾燥機と…服を、な」


「今更気にしてんのかよ。年中まっくろくろすけ」


「やめてマジで気にしてんだから」



霊斗は常に黒いTシャツ黒いジーパン黒いパーカーを着用している

季節ごとに切り替えてはいるが、同じ服が何枚かあるのだ

曰く、選ぶのがめんどくさいとか…



「流石にこの歳で全身真っ黒だと捕まるからなぁ」


「俺が警官なら無警告射撃してるな」


「え罪を負うことさえ厭わないの?」


「そらそうだろ。つかまだそれだけじゃねぇだろ、なんとなくわかるぞ」


「マジカよ。ユキに誕生日買わんといけない」


「あいつ誕生日2月だろ。なんで今」


「近づいてくると、俺が無駄に高いもの買わないか監視が強くなる」


「あー…。先に買うのか。けど搬入見られたら終わりじゃね?」


「それは手を打ってある。天津風家の倉庫に仮置きする」


「協力者ありかよ。しかもあの夫婦かよ」



倉庫とはいっても、天津風家はマンションのため貸倉庫だ

月1万円を切り、それなりに広い



「でまぁ今年の誕生日はカバンにしようかなと」


「ブランド物買ったらキレられるぞ。俺が」


「なんでお前…」


「俺の運転だから、なんで止めなかったんですか!って怒られる」


「想像に難くないな…」



夜斗は渋谷駅前にあるコインパーキングに車を入れた

上限なしだが、全国共通定期券という神アイテムを霊斗が持っているため金は必要ない

系列の駐車場なら1年間タダになるが、その分値段が異常に高い

なんと10万円するのだ。沼津駅前の系列駐車場で元を取ろうとすると毎日止める必要があるのだが、こういうときは便利だ



「じゃあ…とりあえず乾燥機は後回しにするとして雪菜の誕生日からだな。俺もなんか適当に買うかなぁ」


「去年ユキに何渡したんだ?」


「え?確か…大型蓄電器?」


「一昨年は?」


「たしか車載用電源装置」


「更にその前は?」


「えー…っと、あー…。車載用のエアコンだったかな。キャンプ用の」


「我が家の車を要塞にでもする気か?」


「仕方ないだろ、あいつの好みのものはお前が買うだろうしネタに走るしかやることないんだから。つかじゃあお前弥生に何買ったか言ってみろや」


「……何にもない。俺には、なんにも…!」



夜斗は親友の妻に誕生日を買ってきたが、霊斗はそんなことをしたことはない

それどころか弥生の誕生日すら記憶していないのだ

とはいえ夜斗からすればそれはどうでもいいことである



(ま、俺が買ってるし?)


(とか思ってんだろうなぁ)


「まぁいいや、今年は何買ったるかなぁ。電動リクライニングベッドとかかなぁ」


「買ったら10万超えるし介護用じゃねそれ」



霊斗の冷静なツッコミを無視して電化製品が取り揃えられた建物へと向かう

ここにくれば大抵の小型電化製品は揃うのだ



「あそうだ、いっそ非接触温度計とか買うかな。工業用の」


「華氏0℃から華氏1000℃まではかれるやつ?」


「そうそう。料理に使うには無駄スペックだろ」


「お前あんま真面目に考えてないな?」


「ネタ切れなんだよ」



値段と用途を無視すればいくらでもネタはある

しかし夜斗のスタンスはあくまで「ぎりぎり使えるけど扱いに困る」ものだ

使い物にならないものはゴミにしかならないため買わない主義である



「なんかあるだろ、まともなもんが…」


「じゃあバールでいい?俺が駆けつける前にお前死ぬかもしれないけど」


「本当にあり得るからやめてくれ…」


「それ以外となると…あ、これにしよう」


「…なにこれ」



夜斗が手に取ったものは一応時計だ

しかし一般的とは言えない技術を使用しており値段がかなり高い



「ニキシー管置き時計」


「…ニキシー管?」


「1950年代に開発されたものだな。簡単に言うと数字の形に光る電球で、これを使った時計って結構高いんだよ。ほら」



夜斗が示した値札は25000円。今現在買える置き時計としては異常な値段だ

ホームセンターで売ってるものの約10倍するとはいっても、機能的にはBluetooth連携による着信通知やアラームがあり、実用可能なロマンとして界隈では人気だ



「…お前これ買うの?」


「うん、もう思いつかんし。クリスマスには災害用水発電電池を買う」


「…だから最近ユキの部屋にガジェット増えたのか…」



どうやら雪菜も興味を持ってしまったらしく、パソコンを始めとするガジェットが多くなってきたという

霊斗が理解できないガジェットトップに君臨するのはプロジェクター搭載シーリングライトである。興味が出たら調べてみてほしい

人によっては本当に「なにこれ?」となってしまう



「じゃあ俺はあと弥生のクリスマスだな。ガジェットで攻めるのは無理あるし、ここはこれだけ買うか。会計してくる」


「お、おう…」



レジに向かって歩く夜斗を見送り、適当に電化製品を掴んで自身もレジに向かう霊斗

気になるものでもあったのだろうか、後生大事に抱えていた

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