第38話
「ってことで記憶が戻ったぜい」
「先輩…頭のネジ外れました?」
「外れとらんわ。嘘みたいな嘘じゃない話だ」
「まぁ、その子のことは見たよ。階段から降りてきた気配もなかったし、少なくとも消えたのは事実。地縛霊…なんだろうな」
「そもそも嘘だとしたら雪菜が何故屋上にいたかって話だろ」
「そうですね…。急に誘われるように音楽室に行ったのは覚えてますけど」
「そもそも屋上にいくには窓の鍵を開けなきゃいけないし、テラス窓出てすぐの床は老朽化でバカが落ちたし、幽霊ですじゃなかったらどうやって屋上いったのかって感じだろ」
雪菜に状況説明する間、霊斗は同じ部屋のベッドで横になっていた
どうやら落下のダメージが抜けないようだ
「夜斗の女たらしは小学生の頃からだったんだな」
「言い方ァ…。意図してないんだから無罪だ」
「無意識に籠絡するとか女の敵でしかありませんね。高校時代はそんなことなかった気がしますけど」
「女ほとんどいなかったろ俺の学科。お前普通科だけど俺電気科だし」
「普通科の女子は貴重な資源とか言われてましたね。毎週2人には告白されましたし」
「ヤリモクの奴らな。いやぁあんときは大変だったぜ」
雪菜に霊斗という彼氏ができてからも告白は途絶えなかった
それどころか、「そんな彼氏よりも俺と」と言って雪菜を怒らせ、場を収めるために夜斗が出向く…ということが多発していたのだ
「とにかく、記憶は取り戻した。というか単純に解離してたらしいな」
「トラウマを忘れるための防御反応…先輩にもトラウマとかあるんですね」
「昔から思ってたけどちょいちょい失礼だなお前。霊斗回復したか?」
「もう15分位あれば…」
「割と長いな…。俺は外で待ってる」
夜斗は雪菜をその場に残して外に出た
抜け出したのは少し用があったからだ
「…ここ、か?」
戻った記憶を辿り、当時学校一の大きさを誇った木の根本に目を向ける
体育倉庫の中から持ってきたシャベルで掘っていくと、ガツンとなにかに当たった
「…!まだあったか…!」
中から出したのは金属製のお菓子の箱だ
4年生の頃に少女と埋めた、いわゆるタイムカプセルである
「…何入れたかまでは、覚えてねぇな。さすがに昔すぎる」
年数にして13年。いかに記憶力がいい人でも覚えていられないだろう
夜斗の場合は開かなかった引き出しが開くようになっただけであり、ないものは出せないのだ
「…これは」
開けた一番上にあったのは写真だ。少女と夜斗のツーショット
親か誰かが撮ったのだろう。満面の笑みを浮かべている
「…こんな笑って写ってんの、こんときだけだな」
笑った事自体は何度もある。作り笑いで写真を撮ったこともある
それこそ、弥生と撮るときは緊張やらなんやらで無理やり笑っていた
今でこそ弥生といればこれほどの笑みをうかべることもあるが写真など撮っていない
「…そうか、親父たちは…記憶が戻って壊れないように、隠してたのか」
今まで少女と映った写真を見た記憶はない
それは両親の気遣いで破棄されたのだと気付く
「……お前も、こんな笑ってたんだな」
フッと笑いながら、指で少女をつつく
更にその下には可愛らしい便箋と、申し訳程度に見た目を気にした青い便箋が入れられていた
【おおきくなったら―――】
劣化が酷く、そこまでしか読めない
が、読まずとも理解はできた
青い便箋には別のことが書かれている
【友達と――で、いっしょにあそびにいきたい。ずっといっしょに笑って生きたい】
「マセガキめ。楽しくはやってるよ、一応な。忘れちまってたけど」
「先輩?そんなところで何してるんですか?」
「ん…いや、なんでもない。どうした?」
「霊くんが回復したみたいなので、施錠確認してくるといって出ました。戻り次第帰りましょう」
「ああ、今行く」
夜斗は少し迷い、左肩のポケットからボールペンを出した
自分が書いたであろう便箋に文を書き足して箱に戻し、それ以外はポケットに丁寧にしまった
箱を穴に埋め直してシャベルを近くに突き刺す
「…悪かったな。ありがとう」
そう言って夜斗は雪菜のもとへむけて歩き出した
少し振り返ると、木陰で紙を開く少女が見えた――気がした
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