第37話
拳一つ分しかその距離は空いていない
身長差が大きすぎて、少女の視界には夜斗の胸か鳩尾しか映らないことだろう
「…なんだ」
「私はね。私を恨んでる。夜斗を助けられなかった私を、恨んで恨んで恨んで恨んで結果撥ねられて死んだ」
「助けられなかった…?助かってるが。生きてるし妻がいる」
「幸せそうだね。けど、そういうことじゃない。命あっての物種とはいうけど、いじめから救えなかったのが強く心残りなの。それが唯一の無念」
「…ショックにすら思ってなかったが…。辛いから不登校になるほど、家庭が甘くないし」
「知ってるよ。親同士の付き合いもあったし。けど、私は夜斗を助けたかったの。けど実際にはもっともっといじめが強くなって、夜斗が殺されかかって、私が死んだ。その時思ったの」
顔を上げた少女は笑っていた
さみしげに、そして両手を広げて夜斗に抱きついた
「私は夜斗の…代わりになったんだ、って。撥ねられたのは夜斗が助かる代償で、犯されたのは夜斗を見捨てた代償。死んだのは、もう夜斗を危険な目に合わせないための処分なんだ…って」
「……」
「あのとき私が救急車呼んでもらってなかったら夜斗だけが死んでたかもしれない。それに比べたら、良かった。夜斗を――好きな人を助けられた」
「お前…ならなんで、恨みの手紙みたいなのを教室とかに置いたんだ」
「ああやれば興味を引けるでしょ?ここに来てくれればよかったんだけど遠回りのほうが好きだったから」
見透かされて口を閉ざす夜斗
目の前のこの少女は本当にあの子なのか、と思考を回しながら記憶を辿る
「…恋いに恋する、なんていうけど私は心から夜斗を好きだった。それから私はここで夜斗を待ったけど、夜斗は刺されたショックで記憶を無くしてて、イジメをやってた奴らは少年院に入れられた。私が見える子は逃げちゃうし…とかやってたら、夜斗は卒業してたね」
「…年がくれば、卒業になるな」
「卒業した次の年くらいに中学生がきて勉強するようになって、私も教室でそれを受けてたの。小中合併ってやつ?だから心は夜斗と同じ年齢でも、知識は中卒」
「…そうか」
「にしても、大きくなったね夜斗。昔は私より小さかったのに、今じゃ父と娘くらいの身長差があるじゃん。ちょっと悔しいな」
「…撫でやすい高さだな」
夜斗は少女のあたまを撫でた
気持ちよさそうに目を細める少女
「今度は本当に、夜斗の娘として生まれたいかも。ね、奥さんかわいいんでしょ?」
「よく語って聞かせてやる。まずだな――」
長時間に渡る嫁自慢が行われた
夜斗による嫁自慢が終わり、少女が何度も頷いて話を聞いている
「いいお嫁さんだね。私も負けてないと思うけど!」
「かわいいのジャンルが違うからわからん。お前には今子供に向ける可愛いしか思わない」
「む…。お子様言うな!」
「いって!蹴るなよ!」
割と硬い靴の先でスネを蹴られた夜斗はついしゃがみこんだ
その夜斗を引き寄せて少女が唇を合わせる
「!?」
「やっと、できた。長い間待ったかいがあった。夜斗とキスしたいがために地縛霊になったもんね」
「お、おまおま…お前…」
「あはは、わかりやすく照れてくれてありがと。私の気持ちはわかってくれた?」
「…ああ、痛いほどにな」
「それじゃあよかった。いいお嫁さんをもった夜斗を殺して一緒にいるのもいいけど、今度は娘になる目標ができたから。3年待ってて」
「3年…?」
「転生に3年かかるみたいだから。絶対だよ」
「…気が向いたらな」
「んー、まぁ及第点?それにもう時間がないみたいだし」
少女の体が透け始めた
光の玉が周りを飛び始め、徐々に消えていく
「成仏できるみたい。ありがと、夜斗」
「…どういたしまして」
「冷たいなぁ…。こんなロリとキスするなんてめったにないよ?」
「また会うんだろ。娘とする分には嫁も文句を言いまい。しないけど」
「してよ!?…じゃあね、おやすみ」
「ああ、またな。おやすみ…。俺を生かしてくれてありがとう」
少女はにっこり笑って、もとから何もなかったかのように姿を消した
夜斗は空を見上げてゆっくりと笑う
「オカルトチックな物語も、いいもんだ」
霊斗を大声で呼びつけ、雪菜のもとへと歩き出した
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