第35話
歩いていると霊斗が1つの教室の前に立ち止まった
「ここは6年生のとき夜斗が使ってたの教室だな」
「よく覚えてんな」
「アルバム見るとクラス名簿あるしな、一回調べたことがあるんだよ。ここはいるか」
夜斗は手にしていた鍵束から鍵を探し出しドアを開けた
(なんで鍵がわかるんだ…?いや、勘が当たっただけか)
「意外と広いですねー。机とかは小さく感じますけど」
「だなぁ。夜斗どうした?」
「い、いや…なんでも…」
黒板は撤去されていた
ワンセットの机と椅子、そして教卓、ランドセル用のロッカーと掃除用具を入れるロッカーがある
それ以外はなにもない
「この鉄骨懐かしいな。5年生のときに耐震工事入ったっけ」
「そうだったのか。道理で目立つわけだ」
「本当に記憶ないんですね。あ、なにかのプリントありますよ」
ロッカーと後ろの壁の隙間から雪菜が取り出したのはA4ほどの紙だ
開くと参観日の参加是非を問う書類だった
「見られたくないって子もいるしな。夜斗はどうだったよ」
「…記憶にない。けど、来たと思うぞ。紗奈が渡してるはずだ」
「あー、そういやそうか。ユキは?」
「私のほうは親が過保護だから見にきてるね。嫌だって言ってもどこかからか嗅ぎつけてきてたの」
「…掃除用具入れ、か。モップという名の使いやすい箒があったような…」
掃除用具入れを開けるとそこにはまだ掃除用具がいくつか置かれていた
バケツや箒、塵取りが1つずつしまわれている
「最後は1人1クラスだったのかもな」
「持て余すわこんな広いとこ…。なんか思い出したか?」
「…いや。見覚えがあるくらいだ」
掃除用具入れの箱を作る金属板がギシッと音を出した
ふと上を見上げると、上になにか紙が乗っている。少しだけ端が見えた
「…なんだこの紙」
夜斗はその紙を手に取った
4つに折られた便箋だ。悪いとは思いつつそれを開き読み上げる
「思い出した?冬風夜斗君…。は?」
「え?」
「うん?」
「いや、なんか手紙が…。ほら」
「何いってんだ、卒業したのだいぶ前だぞ?そんなの残ってる訳…ほんまや」
霊斗もその手紙を読み、雪菜が覗き込んで絶句する
「女の子の字、ですね…。それも今の私たちと同い年程度には知識レベルがあります」
「けど他にここに来れる人はいないはずだ。市の職員曰く、担当職員が管理してて廃校から今まで貸したことはない…って」
「…つまり、合鍵を持ってる人がいるということか。そしてそいつは俺を知っている。それも、俺よりも俺を知ってるらしい」
夜斗はロッカーの裏に残されていたもう1つの便箋を手にして言った
「忘れて過ごす平穏はどんな気分だった?それともまだ思い出せない?なら、理科室にきてよ…か。霊斗、理科室の場所覚えてるか?」
「覚えてるけど…この手紙今日置かれたもんじゃないだろ。もういねぇって」
「それならそれでいい。けど、なにか手がかりがあるかもしれない」
「…わーったよ。行こう」
夜斗は霊斗の後ろから歩き出した
足音が三人分、誰もいない廊下に響く
「ここだ」
「ありがとう。鍵は…これか?」
またしても1発であたりを引く
タグがついてるわけではない
いくつかの鍵がまとめられただけの鍵束からピンポイントで目的の鍵を当てている。それが2回
「…何もない、な」
(…考えすぎだったのか…?)
夜斗は少し薄暗い理科室に入った
あとから二人もついてきて探索を始める
残されているのは机だけで、椅子すら残っていない
「…!夜斗!」
霊斗が夜斗にかけより便箋を手渡した
「…読むぞ。やっぱり覚えてないんだね。初恋すら覚えてないのは男の子としてどうかと思うよ。そうは思わない?緋月君…。霊斗を知っている…?」
「ぶっちゃけ俺のこと知ってるのは天音くらいだぞ。影薄かったし」
言ってて悲しくなってきた、と膝を抱えて座り込む霊斗
手紙には続きがあった
「そろそろ教えてあげようか。音楽室にきてよ…。音楽室はどこだ」
「隣の棟だよ。ユキ、行くよー」
返事はない
夜斗と霊斗はすぐにスマホのライトを起動して、瞬時に周囲を確認したがどこにもいない
「…音が聞こえない。この部屋にはいないな」
「…どこにいったんだろう」
「あいついないと帰れないし探してやるか。霊斗、背後を警戒しろ」
「ういよ」
霊斗は冷静に見えて落ち着きがなくなっていた
理科室を出た2人は頷き合い、夜斗はヘッドホンを・霊斗はスマホを耳に当てた
((音響探査))
夜斗が指を鳴らし、その音をそれぞれのアイテムで拾って耳に入れる
しばらくして顔を上げた夜斗と霊斗はまた頷き合い、音楽室へと走った
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