第33話

「待たせたな」


「おっせぇよ…。どんだけ遠くまで乗せてったんだよ…」


「三島まで。んで、かつてSNSで告ってきた子だった」


「は…?お前SNSとか5年前にはやめてただろ。ってことは当時あの子12歳とかだよな…?たらしにもほどがあるぞ…」


「それについては同意しておこう。俺だってわざと堕としたわけじゃない」



そういって夜斗は電子タバコを取り出した

せっかく吸い終わらせたのに、と言いつつ霊斗もタバコを取り出し火をつける



「んで、記憶は見つけたか?」


「うんにゃ。あの子の記憶は普通に残ってる記憶だし、散策する前に会ったから何もできてない」


「小学生の頃だろ…?俺も知らねぇんだよな、夜斗の過去は」



なんだかんだ仲がいいとはいえ、夜斗と霊斗の付き合いは中学からだ

同じ部活だったからというどうでもいい理由で話すようになり、実家が近いためよく遊んだというのが始まりだ



「奇遇だな、俺も知らない。あと言ってなかったけど中学時代のこともほとんど覚えてない。こっちに関しては消えたわけじゃくて、引き出しが開きにくいだけだが」


「あー…。記憶の引き出しってやつか。じゃあ、完全に忘れたわけじゃないんだな」


「ああ。小学生の頃は全く覚えてない。思い出の場所に行けば思い出すけど、その場のことだけだし」


「東京とかか?じゃあ、鎌倉は?」


「前に行った。微妙にしか思い出せなかったけどな」



深く煙を吸い込み吐き出す夜斗

霊斗は浅く吸うのだが、夜斗はヘビースモーカーであるためどうしても深く吸うことになる



「あと行ったのは三島の駅前とかだろ?」


「そこは配属されてすぐ行った。そこに行った頃…つまりは小学三年生とかその頃にお前と話したことがある」


「え、マジで?」


「つっても、すごいねーくらいしか話してないが」


「ああそう…。学校は?」


「壊されてるから入れん」


「だよなー」



霊斗はどこかに電話をかけた

そして少し離れたところでやり取りしたあと戻ってきた



「入れるってよ。市役所で鍵貸してくれるってさ」


「…は?」


「一本吸ったら行くぞ。雪菜に車出してもらって」


「はよ免許取れ」


「すまん…」



実を言うと夜斗と霊斗の母校はすでに廃校になっている

少し前まではあったのだが、極限まで減った生徒数に対し大きすぎる校舎は、清掃の手間などから取り壊しが決まった

代わりに近くの小中学校を何校か集めて小中一貫校が駅前にできている



「お迎えにきました!」


「早いな」


「なんせここから徒歩5分だし」



霊斗が連絡してから15分程度できた雪菜は、少しテンションが高い

多少気にしたようだが普段に比べれば適当と言える服を振り乱して夜斗と霊斗の手を取る



「早くいきましょう、善は急げです」


「多分意味違うぞ雪菜」


「あはは…テンション高いのはなぜぇ?」


「謎多き夜斗先輩と、夫の母校ですから。なにか面白い話がありそうだなぁとか思ってませんよ」


「思ってんだな。つっても記憶ないから思いで話できるかなぁ」



半ば強引に車に押し込まれ、後部座席でシートベルトをしめる

霊斗は助手席に座り、雪菜が運転席だ



(あれ…?でも雪菜って確か…)


「行きますよ。あ、シートベルトしないと多分」



ギアをドライブに入れてパーキングブレーキを解除する音が聞こえた

と同時に霊斗が震えているのが見える



「死にますよ?」



雪菜は全力でアクセルを踏み込んだ

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