第32話
男は黒い商用バンに夜斗を入れた袋を載せて走り出した
銃で夜斗を撃ち抜いた男が変装の為に使ったテープや化粧を落とす
「起きろ、夜斗」
「むきゅ!?起こした方が雑すぎる…」
袋から出された夜斗がまず受けたのは鳩尾への拳だった
変装を解いた男は、長い髪を振り乱してため息をついた
「全く…手間を掛けさせるな」
「悪かったよ、
その人物は女だ。変装で男になっただけで、周りにいるのも全員女
夜斗を担いだ人物さえも変装した女性である
「本当に…。まさか、夜斗から緊急通報が来るとは思わなかったぞ」
「使う気はなかったよ元々。なんとかならんかったが」
夜斗がスマホを操作したときにやったのは、眼鏡型デバイスの操作だけではない
この時雨という元同級生に、かつて弥生が使った緊急通報を送るというのも同時にやっていた
「ありがとな、時雨」
「うむ、良きに計らうがいい。あの小娘はどうする気だ?」
「自殺しないように見ててやってほしい」
「良かろう。私とてこれで自殺されては2日は寝付きが悪い」
「短え…」
時雨は助手席に座る男…に見える人物に指示を出し、警察に偽装した仲間を向かわせることにした
伝えるのは銃声が聞こえたため通報が入ったということと、契約結婚中に他の異性の部屋に行ったからと言って殺されないということ
しかしまた夜斗が追われるのも困るため、誘拐されたことにする
「すまんな」
「私たちの仲だ」
「あまり喜ばしくはないな」
「私はマフィアだからな。すでに頭領となってしまった」
このあたりでは有名な義賊、黒桜
それが時雨の実家であり仕事だ
ちなみに国家公認裏警察であり、公安というのは嘘ではない
「で、俺のバイクは?」
「回収させた。案ずることはない」
「じゃあ沼津駅に落としてくんね?霊斗待たせてる」
「沼津駅には近寄らぬが吉だろう。また襲われかねぬぞ」
「今日はいいだろうよ。普段近づかないし」
そう言って欠伸をする夜斗
時雨にスマホを渡して録画していたデータを引き渡す
「いくらで買ってくれるよ?」
「ふむ。250でどうだ」
「いいぜ。交渉成立」
時雨は夜斗に強い興味を持っている
トラブルメーカーというよりはトラブルに首を突っ込みやすい夜斗が見るトラブルのデータを集めて解析するのが趣味だという
「元カノではないのだな」
「ああ。この子が小学生の頃に告られた。その後アカウント消したから逃げたと言われて、襲われかけた」
「ふむ。クズだな」
「どうとでも言え」
「だが、結果的には良かったことだろう。歳が6も離れれば話題も変わる。子供の頃の恋など所詮後には忘れる。それよりは、同世代と恋をするほうがその子のためになる」
「…経験談か」
「さてな、話す義理はない」
夜斗は後ろを走る自分のバイクに目を向けた
運転手は夜斗のヘルメットを使い走っている
時雨は夜斗の視線に気づき、めの前に割り込んだ
「あまり見てやるな。人見知りが激しく、殆ど運転しか任せていないのだ。見られてはそれさえブレる」
「…そんなやつでも採用するんだな」
「来る者は拒まぬ。去る者も事情次第では追わぬ。それが黒桜だ」
そんな話をしていると先程までいた駅に到着した
「バイクは緋月の家に持っていかせる」
「サンクス。じゃあな」
「うむ」
バンから降りて喫煙所に向かう
待ちくたびれたのか、空を見ながらタバコを吸う霊斗は少し目を細めていた
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