第27話

風呂に入ると夜斗が言うと、弥生も一緒にと浴室に突撃してきた

昨日の一件から来るであろうと予測していた夜斗の心は揺るがず、理性は揺らいだ

が、それもまた日常の1つとして記録されるのだろう



「逆上せた…」


「なんで繰り返しちゃうんだよ…」 



今回は何か話していて長くなったわけではない

弥生が中々夜斗の上から動かなかった結果、二人して長風呂になっただけであり、夜斗は長風呂に慣れてるため逆上せていない



「夜斗と一緒にいたいから」


「嬉しいけど自分を犠牲にするな。逆上せさせるくらいなら長風呂せんでおくしな」


「夜斗が我慢することになる」


「え毎日乱入するつもりなん?」



当然、と小さく笑う弥生の顔は赤い

風呂のせい…だけではないだろう



「夜は毎日するわけじゃないから、お風呂くらい」


「まぁいいけどさ。長風呂したいときは昼にするかな」


「私が長風呂に慣れればできるよ」


「毎回アイスで体冷ますくらいなら慣れないほうがいいと思うぞ」



ほとんど冬だというのにアイスをシャクシャクと食べる弥生

とはいえ、今年の秋はかなり暑い。このままでは秋を通り越していきなり冬になりそうな具合だ



「ある程度慣れたとはいえ冷まさないと夜斗からの愛で沸騰するから」


「そんなに熱いか?俺。加減してるぞ一応」


「加減しててこれ…?」


「加減しなくなると外でも愛を語り始める」


「わかった、そのままで。外でされたら私が大変なことになる」


「今度やってみるかなぁ」


「だ、ダメ…!私のそういうとこは、夜斗にしか見せたくない」



フリーズする夜斗

首を傾げる弥生



「ああああもう可愛いなぁ私の嫁はぁぁぁ!」



背後から抱きつき、これでもかというほど撫でる

弥生は静かにアイスを食べ続けているが、食べ終わると夜斗に向き直った



「私からしたことはなかった気がする」


「へ?」



弥生は半ば強引に夜斗を引き寄せた

バランスを崩した夜斗は、ソファーの上で弥生に覆いかぶさるように倒れ込み、そのまま弥生にキスをされて再度フリーズ

弥生は誘うように笑った



「無理やり、っていうのもいいでしょ?」


「……突然過ぎて処理落ちした」


「すぐ慣れるから大丈夫。私も流石に、恥ずかしいし…?」



さらに顔を赤くしてそっぽを向く

学生時代、絶対零度と呼ばれた夜斗ですら少し恥じらいを見せるような事柄だ



「無理してするくらいならこっちからも不意打ちしてやる」


「ウェルカム」


「ウェルカムされるとする気にはならんな」


「こういうときは確か…。乱暴する気でしょう?エ○同人誌みたいに」


「誰だそんな偏った知識教えたやつ」


「緋月家」


「あの色ボケ熟年夫婦共…!」



ようやく体を起こした夜斗は、少し乱れた服を直す弥生に目を取られた

が、すぐに無理矢理目を逸らし天井を見上げる



「俺は昔、恋愛に疎くてな」


「今もだけど」


「茶化すな茶化すな。何度か告られたことはあって受動的に付き合ってたが、手を出す気にはならんかった」


「妻に元カノの話する?普通」


「まぁ聞けよ。デートとかも月に一回気が向いたらするくらいで、俺から誘うことは皆無。実家も教えたことはないし、最寄り駅すら一駅分ズラして教えたんだよ」


「受験生なみの対策してる…」


「そんくらい嫌だったんだ」


「なんで付き合い続けたの?」


「そんときは、霊斗への自慢のためだな。彼女できたとか、ここへ行ったとかそんなことを話してた。けど、あいつが雪菜と付き合い始めてすぐに、想いで抜かれて、2年もすれば思い出で追い抜かれてた。その間に俺はフラレて、また告られて付き合ってとかを繰り返して、あいつが結婚するまでに7人元カノがいる」


「意外と肉食?」


「手は出してねぇよ。全員同じ対応をしてた。そもそも会う前に終わったりしたし」


「SNS恋愛?」


「そういうこった。あんなのは演技で、バレなきゃ好きじゃなくても付き合ってられるからな。真顔で好きとか送るのはしんどかったぜ」


「…わりと壮絶」


「まぁそんなことを繰り返していて弥生と会ったわけだ。当初は、同じように付き合いを続けて、然るべきタイミングで同棲解消すると思ってたな」


「結果は?」


「俺が初めて心から好きだと思うくらいに惹かれてた。けど弥生がどうかはわからなかったからひた隠しにしてたけどな」


「私も似たようなもの。夜斗から好かれてる保障はなかった」


「だから俺は俺が結婚するとは思ってなかったし、弥生と結婚になるとは夢にも思わんかったな」


「私もそう。けど今の私は、幸せだと断言できる」



夜斗の肩に頭を乗せて体を預ける

夜斗は背中側から手を回し、肩を引き寄せた



「俺もそうだ。この5年間は無駄じゃなかった。いや、早いとこ想いを告げればさらに無駄を削減できた」


「それは大丈夫。この5年間があったからこそ、私たちはこうして寄り添ってる。そう思えば、無駄なんて1つもない」


「そうだな」



二人はそのまま、1時間ほど体を寄せ合った

過ぎる時間を恨めしく思いながらも、ゆっくりと

無駄のない無駄な時間を過ごしていった



風呂は冷めた

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