第12話

事情聴取終了後



「くっそ怒られた…」


「これで済んでよかったな…マジで…」


「僕もそう思う…。下手すれば過剰防衛だよこんなの…」



こってり警察に絞られた三人は沈み込んでいた

警察署の前に置かれた喫煙所でそれぞれがタバコを取り出す

夜斗は電子タバコ、霊斗は火タバコ、煉河はベイプだ



「誰一人欠けなくてよかったなー…」


「マジ死んだと思ったぜ…。冥賀さんおらんかったら統率取れずに撃たれてたかもな…」


「我ながら土壇場の行動力は恐ろしいな…。人のために命をかけるとは…」



捕まっていた客たちはすでに開放されている

この三人と冥賀は重要参考人として呼ばれただけだ



「お待たせしました。よくあそこまで対処できましたね」


「冥賀…。お前も、よく中央監視の場所知ってたな。俺も知ってたけどよ」


「一度だけ救命で来たことがありましてね。オープン待機といって、オープンのときに医者を滞在させることがあるんですよ」


「ああ、感極まって倒れた人を助けるためか」


「そんなところです。夜斗はともかく、緋月君と煉河君はよく動けましたね」


「そ、それは…。ユキが襲われると思ったら、なぁ?」


「ああ。僕とて嫁が襲われると思えば、あの程度の危機は恐るにたらん」


「鋼の意思。いいものです。それでこそ親族を託せるというものですよ、二人共」



冥賀の言葉に反応したのは夜斗だった



「親族は煉河だけだろ。雪菜は後輩だ」


「おや夜斗は知りませんか。…いえ、両親なき今それは野暮ですね。神崎雪菜…いえ、緋月雪菜は僕らの曽祖父の従兄の玄孫ですよ。遠すぎて数えるのも面倒ですが、親族といえば親族です」


「「………はい?」」



霊斗と夜斗の声がハモった



「え、じゃあ何か?俺のツレ全員義理の親族?」


「ですね。まぁ、神崎家に関しては遠すぎてもはや他人ですが。僕とて家系図見るまでは知りませんでしたよ」


「………マジかよ」


「それより3人とも、早く帰らないと妻が心配しますよ。野暮用があるので送ることはできかねますが」


「あ、ああ…。煉河、家まで頼むわ」


「こないのか?」


「日を改める。紗奈の側にいてやれるのはもう俺じゃない、お前だ。心を癒やせ。というか弥生の側にいたい」


「正直でよろしい。緋月は…」


「ん?あ、ああ。俺はその…電車できたから…」


「いや、考える必要はなさそうだ」



夜斗の視線の先には――目に涙を浮かべた雪菜がいた



「へ?」


「落ち着いたら霊くんがどんなに危険なことをしたのかわかっちゃって…霊くんわかってるの!?」


「ご、ごめんて…。ユキのためにって思ったらもはやそんなこと考えてなくて」


「もうっ…。先輩、ありがとうございました。煉河さんも」


「あ、ああ…僕は別に」


「俺も別に問題ねぇよ。けどまぁ、霊斗。夜頑張れ」


「へっ…?」



雪菜に連れ去られた霊斗が、こってり説教された挙げ句夜を求められたのは別の話…



「煉河、俺らも帰るか」


「あ、ああ。ここから夜斗の家は…遠いんだよな」


「しまったバイクがお前んちだ。お前の家でいい」


「そうだったな…了解。冥賀さん、お疲れ様でした」


「お疲れ様でした。またお会いしましょう」


「はい。では…」


「じゃーな冥賀。明日辺り、話すことがある」


「すみませんが、明日は無理です。天音さんに食事でもと言われてましてね」


「……ほー。わかった、じゃあまた今度だ。体調気をつけろよ」


「誰にいってるんですか。ではまた」



三人がいなくなり静かになった喫煙所に、新しく一人青年が入ってきた



「おや珍しい」


「吸わねぇなら出てけよ、冥賀」



その青年は夜暮…の友人の八雲という男だ。今回のテロを押さえつけるために冥賀は普通に通報はしなかった

特殊部隊に所属する八雲を要請するため、夜暮に連絡したのだ

親のコネで上部にいる八雲は夜暮から連絡を受けて即座に鎮圧部隊を動かし、ショッピングセンターに向かった…ということである



「にしても、さすがだね冥賀は。よく鎮圧したもんだ」


「ほとんどはあの3人ですよ。僕は監視室で様子見してただけで、あの3人がこなければそのまま夜暮に任せていましたし」


「にしたって的確な指示だよ。どうだろう?うちの部隊で指揮を取らないか?」


「お断りします。…という話も何度目だか…」


「ふっ、何度でもしてやる。その気になるまで」


「僕は君とは別の方法で人を救いますよ。ガラじゃないのでね、警察は」



笑う八雲に向ける目は慈愛に満ちていたという

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